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化学者のつぶやき

反芳香族性を有する拡張型フタロシアニン

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雪の結晶のような美しい構造をもつ分子「フタロシアニン」。この分子群は通常ヒュッケル則を満たす芳香族化合物である。しかし最近、反芳香族性を有する拡張型フタロシアニンが初めて合成されました。

 

研究背景

ポルフィリン (porphyrin)は4つのピロール環からなる環状構造をもつ有機化合物です。ポルフィリンの基本構造は4つのピロール環と4つの炭素からなり、18π電子系をもちます。また、共役系を拡張したポルフィリンは、(共役)拡張型ポルフィリンと総称されます。

例えば、基本構造にピロール環と炭素を1つずつ追加したペンタフィリン、ペンタフィリンから2つ炭素を減らしたスマラグディリンは拡張型ポルフィリンであり、互いに22π電子系となります。近年、多種類の拡張型ポルフィリンが矢継ぎ早に合成され、その物性が明らかとなっています(図1)。

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図1

一方、フタロシアニン(phthalocyanine)は、ポルフィリンの4つのピロール環がイソインドール環、4つの炭素が窒素に置き換わったポルフィリン類似構造をもっています(テトラベンゾテトラアザポルフィリンともいう)。しかし、拡張型フタロシアニンの合成は拡張型ポルフィリンに比べて報告例が少ない [1a,b]。この理由に窒素原子で架橋されたアザポルフィリン骨格の構築が非常に困難な点が挙げられます。

 

最近、東北大学の小林らは5つのイソインドール環で構築される拡張型フタロシアニンの合成に着手し、ペンタフィリンに対応する拡張フタロシアニン、スーパーフタロシアニン類の合成に成功しました[2]。最近、スマラグディリンに対応する、拡張型フタロシアニンであるペンタベンゾトリアザスマラグディン (PBTAS)の合成に成功し、物性評価を行いました。今回はこの論文について紹介したいと思います。

“A Bottom-up Synthesis of Antiaromatic Expanded Phthalocyanines: Pentabenzotriazasmaragdyrins, i.e. Norcorroles of Superphthalocyanines”

Furuyama, T.; Sato, T.; Kobayashi, N. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 13788–13791.

DOI: 10.1021/jacs.5b09853

 

 

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図2

物性評価

  • X線構造解析、量子化学計算

3bのX線結晶構造解析により、PBTASを構築するピロール環の窒素のうち二つの窒素がプロトン化された状態であり、PBTASが反芳香族20π電子共役系を有することが明らかとなりました(図3A)。著者らは、さらに、この反芳香族性を評価するために、nucleus-independent chemical shift (NICS)(補)値を算出したところ、環中心で大きい正のNICS値を示した(図3B)。つまりPBTASは反芳香族性を示すことがわかります。

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図3

 

  • UV-Vis, MCDスペクトル

PBTAS(3a)の紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定を行った結果、反芳香族化合物に特徴的な、長波長領域に幅広い吸収帯を示しました (図4A)。また、磁気円二色性 (MCD)測定を行ったところ、PBTASは近赤外領域および500nm付近で正のFaraday B項を与え(補)、従来の芳香族性を有する拡張型フタロシアニンのMCDスペクトルとは大きく異なる結果が得られました [3]。

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図4

まとめ

今回著者らは、はじめて反芳香族性を有する拡張型フタロシアニンの合成に成功しました。この報告をきっかけに新たな拡張型フタロシアニンである反芳香族性フタロシアニンの研究が発展することを期待したいと思います。

 

参考文献

  1. (a) Matsushita, O.; Derkacheva, V. M.; Muranaka, A.; Shimizu, S.; Uchiyama, M.; Luk’yanets, E. A.; Kobayashi, N. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 3411. DOI: 10.1021/ja209589x (b) Rodríguez-Morgade, M. S.; Cabezón, B.; Esperanza,S.; Torres,T. Chem. Eur. J. 2001, 7, 2407. DOI: 10.1002/1521-3765(20010601)7:11<2407::AID-CHEM24070>3.0.CO;2-1
  2. Furuyama, T.; Ogura, Y.; Yoza, K.; Kobayashi, N. Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 51, 11110. DOI:10.1002/anie.201203191
  3. PHTHALOCYANINES: Properties and Applications C. C. Leznoff, A. B. P. Lever, VCH, 1989.

 

関連書籍

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補足

  • Faraday B項
    ΔHOMO (HOMOとHOMO-1 のエネルギー差)とΔLUMO (LUMOとLUMO+1 のエネルギー差)の大小に関する情報を与え、ΔHOMO>ΔLUMOのときは長波長側から短波長側に向かって負→正の、反対にΔHOMO <ΔLUMO のときは正→負のシグナルを与える。
  • NICS 値
    NICS値が負の場合は反磁性環電流の存在を示し、正の場合は常磁性環電流の存在を示す。
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