[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

反芳香族性を有する拡張型フタロシアニン

[スポンサーリンク]

雪の結晶のような美しい構造をもつ分子「フタロシアニン」。この分子群は通常ヒュッケル則を満たす芳香族化合物である。しかし最近、反芳香族性を有する拡張型フタロシアニンが初めて合成されました。

 

研究背景

ポルフィリン (porphyrin)は4つのピロール環からなる環状構造をもつ有機化合物です。ポルフィリンの基本構造は4つのピロール環と4つの炭素からなり、18π電子系をもちます。また、共役系を拡張したポルフィリンは、(共役)拡張型ポルフィリンと総称されます。

例えば、基本構造にピロール環と炭素を1つずつ追加したペンタフィリン、ペンタフィリンから2つ炭素を減らしたスマラグディリンは拡張型ポルフィリンであり、互いに22π電子系となります。近年、多種類の拡張型ポルフィリンが矢継ぎ早に合成され、その物性が明らかとなっています(図1)。

2016-02-09_18-18-10

図1

一方、フタロシアニン(phthalocyanine)は、ポルフィリンの4つのピロール環がイソインドール環、4つの炭素が窒素に置き換わったポルフィリン類似構造をもっています(テトラベンゾテトラアザポルフィリンともいう)。しかし、拡張型フタロシアニンの合成は拡張型ポルフィリンに比べて報告例が少ない [1a,b]。この理由に窒素原子で架橋されたアザポルフィリン骨格の構築が非常に困難な点が挙げられます。

 

最近、東北大学の小林らは5つのイソインドール環で構築される拡張型フタロシアニンの合成に着手し、ペンタフィリンに対応する拡張フタロシアニン、スーパーフタロシアニン類の合成に成功しました[2]。最近、スマラグディリンに対応する、拡張型フタロシアニンであるペンタベンゾトリアザスマラグディン (PBTAS)の合成に成功し、物性評価を行いました。今回はこの論文について紹介したいと思います。

“A Bottom-up Synthesis of Antiaromatic Expanded Phthalocyanines: Pentabenzotriazasmaragdyrins, i.e. Norcorroles of Superphthalocyanines”

Furuyama, T.; Sato, T.; Kobayashi, N. J. Am. Chem. Soc. 2015137, 13788–13791.

DOI: 10.1021/jacs.5b09853

 

 

2016-02-09_18-19-39

図2

物性評価

  • X線構造解析、量子化学計算

3bのX線結晶構造解析により、PBTASを構築するピロール環の窒素のうち二つの窒素がプロトン化された状態であり、PBTASが反芳香族20π電子共役系を有することが明らかとなりました(図3A)。著者らは、さらに、この反芳香族性を評価するために、nucleus-independent chemical shift (NICS)()値を算出したところ、環中心で大きい正のNICS値を示した(図3B)。つまりPBTASは反芳香族性を示すことがわかります。

2016-02-09_18-21-09

図3

 

  • UV-Vis, MCDスペクトル

PBTAS(3a)の紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定を行った結果、反芳香族化合物に特徴的な、長波長領域に幅広い吸収帯を示しました (図4A)。また、磁気円二色性 (MCD)測定を行ったところ、PBTASは近赤外領域および500nm付近で正のFaraday B項を与え()、従来の芳香族性を有する拡張型フタロシアニンのMCDスペクトルとは大きく異なる結果が得られました [3]

2016-02-09_18-21-50

図4

まとめ

今回著者らは、はじめて反芳香族性を有する拡張型フタロシアニンの合成に成功しました。この報告をきっかけに新たな拡張型フタロシアニンである反芳香族性フタロシアニンの研究が発展することを期待したいと思います。

 

参考文献

  1. (a) Matsushita, O.; Derkacheva, V. M.; Muranaka, A.; Shimizu, S.; Uchiyama, M.; Luk’yanets, E. A.; Kobayashi, N. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 3411. DOI: 10.1021/ja209589x (b) Rodríguez-Morgade, M. S.; Cabezón, B.; Esperanza,S.; Torres,T. Chem. Eur. J. 2001, 7, 2407. DOI: 10.1002/1521-3765(20010601)7:11<2407::AID-CHEM24070>3.0.CO;2-1
  2. Furuyama, T.; Ogura, Y.; Yoza, K.; Kobayashi, N. Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 51, 11110. DOI:10.1002/anie.201203191
  3. PHTHALOCYANINES: Properties and Applications C. C. Leznoff, A. B. P. Lever, VCH, 1989.

 

関連書籍

[amazonjs asin=”364226266X” locale=”JP” title=”Functional Phthalocyanine Molecular Materials (Structure and Bonding)”]

 

補足

  • Faraday B項
    ΔHOMO (HOMOとHOMO-1 のエネルギー差)とΔLUMO (LUMOとLUMO+1 のエネルギー差)の大小に関する情報を与え、ΔHOMO>ΔLUMOのときは長波長側から短波長側に向かって負→正の、反対にΔHOMO <ΔLUMO のときは正→負のシグナルを与える。
  • NICS 値
    NICS値が負の場合は反磁性環電流の存在を示し、正の場合は常磁性環電流の存在を示す。
Avatar photo

bona

投稿者の記事一覧

愛知で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 今年は共有結合100周年ールイスの構造式の物語
  2. NBSでのブロモ化に、酢酸アンモニウムをひとつまみ
  3. ヒドラジン合成のはなし ~最新の研究動向~
  4. 酸で活性化された超原子価ヨウ素
  5. アズレンの蒼い旅路
  6. マイクロ空間内に均一な原子層を形成させる新技術
  7. 薬が足りない!?ジェネリック医薬品の今
  8. 【第11回Vシンポ特別企画】講師紹介③:大内 誠 先生

注目情報

ピックアップ記事

  1. 超分子カプセル内包型発光性金属錯体の創製
  2. スイス連邦工科大ジーベーガー教授2007年ケーバー賞を受賞
  3. 化学物質MOCAでがん、4人労災
  4. マグネシウム Magnesium-にがりの成分から軽量化合物材料まで
  5. 平尾一郎 Ichiro Hirao
  6. 菌・カビを知る・防ぐ60の知恵―プロ直伝 防菌・防カビの新常識
  7. いつ、どこで体内に 放射性物質に深まる謎
  8. 化学系学生のための就活2020
  9. 次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド
  10. 過ぎ去りし器具への鎮魂歌

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年4月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

miHub®で叶える、研究開発現場でのデータ活用と人材育成のヒント

参加申し込みする開催概要多くの化学・素材メーカー様でMI導入が進む一…

医薬品容器・包装材市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、医…

X 線回折の基礎知識【原理 · 基礎知識編】

X 線回折 (X-ray diffraction) は、原子の配列に関する情報を得るために使われる分…

有機合成化学協会誌2026年1月号:エナミンの極性転換・2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)・細胞内有機化学反応・データ駆動型マルチパラメータスクリーニング・位置選択的重水素化法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年1月号がオンラインで公開されています。…

偶然と観察と探求の成果:中毒解毒剤から窒素酸化物を窒素分子へ変換する分子へ!

第692回のスポットライトリサーチは、同志社大学大学院理工学研究科(小寺・北岸研究室)博士後期課程3…

嬉野温泉で論文執筆缶詰め旅行をしてみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

論文を書かなきゃ!でもせっかくの休暇なのでお出かけしたい! そうだ!人里離れた温泉地で缶詰めして一気…

光の強さで分子集合を巧みに制御!様々な形を持つ非平衡超分子集合体の作り分けを実現

第691回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院 融合理工学府 分子集合体化学研究室(矢貝研究室…

化学系研究職の転職は難しいのか?求人動向と転職を成功させる考え方

化学系研究職の転職の難点は「専門性のニッチさ」と考えられることが多いですが、企業が求めるのは研究プロ…

\課題に対してマイクロ波を試してみたい方へ/オンライン個別相談会

プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーである”マイクロ波”について、今回は、適用を検討してみ…

四国化成ってどんな会社?

私たち四国化成ホールディングス株式会社は、企業理念「独創力」を掲げ、「有機合成技術」…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP