[スポンサーリンク]

chemglossary

酵素触媒反応の生成速度を考えるー阻害剤入りー

[スポンサーリンク]

hodaです。以前、酵素触媒反応の生成速度を考える-ミカエリス・メンテン機構-という記事を書きました。以前考えたミカエリス・メンテン機構では、酵素と基質の反応は阻害されないと考えていました。今回は酵素などの働きを阻害する阻害剤を入れ、前回よりも複雑な機構を持つ酵素触媒反応の生成速度を考えたいと思います。

ざっくりミカエリス・メンテン機構とは

ミカエリス・メンテン機構とは最もシンプルな酵素触媒反応の生成速度を求めることができるモデルです。まずは阻害剤がない酵素触媒反応であるミカエリス・メンテン機構から行きましょう。考える機構は以下のモデルです。

(a) 阻害剤なし

E…酵素 (enzyme の頭文字の E)
S…基質 (substrate の頭文字の S)
ES…酵素―基質複合体
P…生成物 (product の頭文字の P)

Pの生成速度を求める際には上記モデルの反応のうち特に次の部分を考えます。

今回の機構(a)から[ES]の濃度変化は以下の式になります。

KMはミカエリス定数と呼ばれます。

ここで存在するすべての酵素の濃度を[E0]とすると、酵素は酵素単独、または複合体を形成しているので[E0]は以下のように表されます。

[ES]が求まったので、v0 ­= ­k3 [ES]の式に代入してPの生成速度v0を求めます。

Pの生成速度v0が求まりました。
ミカエリス・メンテン機構についてしっかり復習したい方は以前の記事をご覧ください。

今回の本題

ミカエリス・メンテン機構では酵素1種類、基質1種類を考えていますが、実際には阻害剤がいる機構もあります。今回は阻害剤と酵素または複合体がくっついたり離れたりする可逆的阻害を行う反応について考えたいと思います。

(b) 拮抗阻害

阻害剤と基質が酵素の同一部分に作用するために競合します1

I…阻害剤

(a)阻害剤なしのときと同様に、Pの生成速度を求める際には上記モデルの反応のうち特に次の部分を考えます。

よってPの生成速度v0v0 ­= ­k3 [ES]となります。(a)と同じです。

機構(a)で求めたように[ES]の濃度変化は以下の式になります。

(a)のときと同じことから、定常状態近似により導かれる[ES]はKMを用いて(a)と同じになります。

阻害剤・酵素複合体EIの解離定数をKiとすると以下の式で表されます。

ここで存在するすべての酵素の濃度を[E0]とすると、今回は[E0]が以下のように表されます。

[ES]が求まったので、v0 ­= ­k3 [ES]の式に代入してPの生成速度v0を求めます。

Pの生成速度v0が求まりました。

(c) 不拮抗阻害

今回の機構の阻害剤は酵素・基質複合体に作用します1

(a)阻害剤なし、(b)拮抗阻害のときと同様に、Pの生成速度を求める際には上記モデルの反応のうち特に次の部分を考えます。

よってPの生成速度v0v0 ­= ­k3 [ES]となります。(a)(b)と同じです。

機構(a)で求めたように[ES]の濃度変化は以下の式になります。

(a)のときと同じことから、定常状態近似により導かれる[ES]はKMを用いて(a)と同じになります。

阻害剤と酵素と基質の複合体ESIの解離定数をKiiとすると以下の式で表されます。

ここで存在するすべての酵素の濃度を[E0]とすると、今回は[E0]が以下のように表されます。

[ES]が求まったので、v0 ­= ­k3 [ES]の式に代入してPの生成速度v0を求めます。

Pの生成速度v0が求まりました。

(d) 拮抗阻害+不拮抗阻害

(b)拮抗阻害と(c)不拮抗阻害を組み合わせた機構は以下のようになります1

(a)~(c)のときと同様に、Pの生成速度を求める際には上記モデルの反応のうち特に次の部分を考えます。

よってPの生成速度v0v0 ­= ­k3 [ES]となります。­(a)~(c)と同じです。

機構(a)で求めたように[ES]の濃度変化は以下の式になります。

(a)のときと同じことから、定常状態近似により導かれる[ES]はKMを用いて(a)と同じになります。

(b)拮抗阻害で登場した解離定数Kと(c)不拮抗阻害で登場した解離定数Ki­iを用います。

ここで存在するすべての酵素の濃度を[E0]とすると、今回は[E0]が以下のように表されます。

[ES]が求まったので、v0 ­= ­k3 [ES]の式に代入してPの生成速度v0を求めます。

Pの生成速度v0が求まりました。

Lineweaver-Burkプロットで直線のグラフを得る

(a)~(d)で求めたPの生成速度の式は縦軸を1/v0とし、横軸を1/[S]とすると直線のグラフが得られます。阻害剤濃度[I]を変えることにより、どのような阻害が起きているか判断をすることが可能なこともあるので有用でしょう。

(a) 阻害剤なしのLineweaver-Burkプロット

従って(a)阻害剤なしのLineweaver-Burkプロットは以下になります。

 

(b) 拮抗阻害のLineweaver-Burkプロット

従って(b)拮抗阻害のLineweaver-Burkプロットは以下になります。

阻害剤濃度[I]を増加させると1/[S]の係数が大きくなる、つまり直線の傾きは大きくなりグラフの矢印の向きに直線は変化します。一方切片は[I]によらないので、直線は切片で交わります。

(c) 不拮抗阻害のLineweaver-Burkプロット

従って(c)不拮抗阻害のLineweaver-Burkプロットは以下になります。

阻害剤濃度[I]を増加させると切片が大きくなりグラフの矢印の向きに直線は変化します。一方、直線の傾きは[I]に寄らないので、直線は平行になります。

(d) 拮抗阻害+不拮抗阻害のLineweaver-Burkプロット(Ki Kiiのとき)

今回はKi Kiiのときのグラフにしたいと思います。1/v0に0を代入してみます。

これは[I]の値に寄らず、直線は横軸の-1/KMで交わることを表します。

従って(d) Ki Kiiのときの拮抗阻害+不拮抗阻害のLineweaver-Burkプロットは以下になります。

阻害剤濃度[I]を増加させると切片、傾きともに大きくなり、グラフの矢印の向きに直線は変化します。今回はKi Kiiを考えているので、[I]の値に寄らず直線は横軸の-1/KMで交わります1

今回取り上げた(a)~(d)までのグラフを並べてみると違いがよく分かります。

グラフを比べてみると阻害剤濃度[I]を変えることにより直線の変化の仕方が異なるので、どのような阻害が起きているか判断をすることが可能なこともあります1

最後に

今回は拮抗阻害や不拮抗阻害について取り上げましたが、競合的阻害、非競合的阻害、不競合的阻害2などと呼ばれていたり呼び方は様々あるようです。
今回はここまで。

参考文献

  1. 赤路健一, 津田裕子, 林良雄, ベーシック創薬化学, 化学同人, pp. 20-22 (2014)
  2. 長野哲雄, 夏苅英昭, 原博, 創薬化学, 東京化学同人, pp. 72-75 (2004)
  3. 水野哲孝, 山口和也, 堂免一成, 東京大学工学教程 基礎系 化学 物理化学Ⅱ:化学反応論, 丸善出版, pp. 45-46 (2018)
  4. 水野哲孝, 山口和也, 堂免一成, 東京大学工学教程 基礎系 化学 物理化学Ⅱ:化学反応論, 丸善出版, p. 15 (2018)
  5. 野田春彦, 生命科学のための物理化学(第2版), 東京化学同人, pp. 248-250 (1992)
  6. 酵素触媒反応の生成速度を考える-ミカエリス・メンテン機構-

関連書籍

ベーシック創薬化学

ベーシック創薬化学

赤路 健一, 林 良雄, 津田 裕子
¥3,300(as of 12/14 20:49)
Amazon product information
創薬化学

創薬化学

長野哲雄, 夏苅英昭, 原博
¥4,988(as of 12/14 20:49)
Amazon product information

hoda

投稿者の記事一覧

大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

関連記事

  1. 抗体-薬物複合体 Antibody-Drug Conjugate…
  2. ケージド化合物 caged compound
  3. メビウス芳香族性 Mobius aromacity
  4. O-脱メチル化・脱アルキル化剤 基礎編
  5. 薄層クロマトグラフィ / thin-layer chromato…
  6. キレート効果 Chelate Effect
  7. キャピラリー電気泳動の基礎知識
  8. リガンド効率 Ligand Efficiency

注目情報

ピックアップ記事

  1. SciFinder Future Leaders in Chemistry 2015に参加しよう!
  2. 日本にノーベル賞が来る理由
  3. 配位子が酸化??触媒サイクルに参加!!
  4. 200MHzのNMRが持ち歩けるって本当!?
  5. マテリアルズ・インフォマティクスにおける初期データ戦略 -新規テーマでの対応方法をご紹介-
  6. Kindle Paperwhiteで自炊教科書を読んでみた
  7. ヘル・フォルハルト・ゼリンスキー反応 Hell-Volhard-Zelinsky Reaction
  8. 可視光酸化還元触媒 Visible Light Photoredox Catalyst
  9. 多環式分子を一挙に合成!新たなo-キノジメタン生成法の開発
  10. 中分子創薬に挑む中外製薬

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年9月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP