[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

タンパク質の構造を巻き戻す「プラスチックシャペロン」

[スポンサーリンク]

昨年後半より精力的に公開して参りましたスポットライトリサーチも遂に30回に到達しました。記念すべき今回は、九州大学大学院工学府(三浦研究室)・博士課程3年の仲本正彦さんにお願いしました。

分子刷り込み高分子などに代表される「物質を分子レベルで認識できる高分子材料」は、種々の生物・医療応用を目指して盛んに開発がなされています。今回の成果は、数々の難治性疾患とも関係の深い「タンパク質の凝集過程」に焦点を当てたもの。なんと一度凝集したタンパク質を元の折りたたみ構造に戻すことを助ける、「シャペロン」のように働く人工材料です。プレスリリースJ. Am. Chem. Soc.誌への論文として先日公表されました。

“Design of Synthetic Polymer Nanoparticles That Facilitate Resolubilization and Refolding of Aggregated Positively Charged Lysozyme”
Nakamoto, M.; Nonaka, T.; Shea, K. J.; Miura, Y.; Hoshino, Y. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 4282. DOI: 10.1021/jacs.5b12600

本研究を指揮された星野友 准教授は、今回の研究に取り組まれた仲本さんをこう評しておられます。

今回特集して頂いた研究ですが、当初私は『タンパク質の凝集阻害剤』の開発を目指していました。ところが、数年にわたって数多くのナノ粒子を合成し様々な条件で実験を行っていく過程で、仲本君が『一度生成した凝集体を可溶化するナノ粒子』が存在することを発見しました。発見当時、仲本君は既に博士論文を執筆中だったのですが、自ら博士論文提出を延期する決断を行い、短期間でデータを全て取り直して質の高い投稿論文に仕上げてくれました。

仲本君は、学生でありながら学生グループを指揮するマネージャーでもあります。後輩の研究指導から実験室の設計・施工・管理まで何でもこなします。研究者としての将来の活躍をとても楽しみにしています。

予想外の結果からは、展開がエキサイティングなものになることが多く、本研究もその例に漏れるものではありません。今回も読者の皆さんで、その一端を感じ取ってみてください。

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

本研究では、凝集タンパク質の脱凝集およびリフォールディングを促進する高分子ナノゲル粒子を開発しました。様々な官能基組成を有するナノゲル粒子のライブラリーを作製し、リフォールディング活性を解析しました。その結果、特定の組成で合成された直径およそ100ナノメートルのゲル粒子が、タンパク質の凝集体を可溶化し、活性状態へのリフォールディングを促進することを見いだしました(図1)。さらに本ゲル粒子は、変性タンパク質に対して強く結合し、活性状態のタンパク質に対して比較的弱く結合することで、タンパク質凝集体のリフォールディングを促進することが明らかとなりました(図2)。

M_Nakamoto_1

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

様々な組成をもつナノゲル粒子をライブラリー的に作製し、リフォールディング活性およびタンパク質結合性を解析することで、現象の全体像が明らかになったと思います。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

研究開始当初は凝集阻害剤としてのナノゲル粒子の開発を行っていました。ところが、実験データを積み重ねる過程で凝集タンパク質のリフォールディング促進という新たな現象が見いだされ、結果として研究の方向性は大きく様変わりしました。そのため、実験系の練り直しなど、苦労は多かったかもしれません。しかしそれ以上に、予想外の結果から論理を構築する過程は刺激的で、良い経験になりました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

自分の得意な分野、手法に終始せずに、柔軟で幅広い視点を持って広く深い研究を行っていきたいです。また、幅広い方に面白いと興味を持ってもらえるようなセンスのある研究を目指したいです。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。研究生活はうまくいったり、いかなかったりの毎日ですが、使える試薬、装置、情報をフル活用して、周りの人を巻き込んで楽しく研究しましょう。

 

関連リンク

研究者の略歴

M_Nakamoto_2仲本 正彦(なかもと まさひこ)

所属:九州大学大学院工学府 三浦研究室 博士課程3年 (日本学術振興会特別研究員DC2)

研究テーマ:高分子ナノゲル粒子の動的機能創発

略歴:1988年生まれ。2012年3月九州大学工学部卒業後、2012年4月同大学院工学府修士課程進学、2014年4月博士課程進学。

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 蒲郡市生命の海科学館で化学しようよ
  2. 電池材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用
  3. (-)-Calycanthine, (+)-Chimonanth…
  4. 【速報】2017年ノーベル化学賞は「クライオ電子顕微鏡の開発」に…
  5. ゴジラの強さを科学的に証明!? ~「空想科学研究所」より~
  6. 遺伝子工学ーゲノム編集と最新技術ーChemical Times特…
  7. 東日本大震災から1年
  8. 新しい太陽電池ーペロブスカイト太陽電池とは

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第七回 生命を化学する-非ワトソン・クリックの世界を覗く! ー杉本直己教授
  2. 化学系企業の採用活動 ~現場の研究員視点で見ると~
  3. 可逆的付加-開裂連鎖移動重合 RAFT Polymerization
  4. レギッツジアゾ転移 Regitz Diazo Transfer
  5. アスパルテーム /aspartame
  6. コロナウイルスが免疫システムから逃れる方法(2)
  7. FAMSO
  8. 海底にレアアース資源!ランタノイドは太平洋の夢を見るか
  9. 二酸化炭素をほとんど排出せず、天然ガスから有用化学品を直接合成
  10. 金属錯体化学を使って神経伝達物質受容体を選択的に活性化する

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年4月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

プロトン共役電子移動を用いた半導体キャリア密度の精密制御

第582回のスポットライトリサーチは、物質・材料研究機構(NIMS) ナノアーキテクトニクス材料研究…

有機合成化学協会誌2023年11月号:英文特別号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年11月号がオンライン公開されています。…

高懸濁試料のろ過に最適なGFXシリンジフィルターを試してみた

久々の、試してみたシリーズ。今回試したのはアドビオン・インターチム・サイエンティフィ…

細胞内で酵素のようにヒストンを修飾する化学触媒の開発

第581回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 薬学系研究科 有機合成化学教室(金井研究室)の…

カルロス・シャーガスのはなし ーシャーガス病の発見者ー

Tshozoです。今回の記事は8年前に書こうと思って知識も資料も足りずほったらかしておいたのです…

巨大な垂直磁気異方性を示すペロブスカイト酸水素化物の発見 ―水素層と酸素層の協奏効果―

第580回のスポットライトリサーチは京都大学大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻 陰山研究室の難波…

2023年度第1回日本化学連合シンポジウム「ヒューメインな化学 ~感覚の世界に化学はどう挑むか~」

人間の幸福感は、五感に依るところが大きい。化学は文明的で健康的な社会を支える物質を継続的に産み出して…

超難溶性ポリマーを水溶化するナノカプセル

第579回のスポットライトリサーチは東京工業大学 化学生命科学研究所 吉沢・澤田研究室の青山 慎治(…

目指せ抗がん剤!光と転位でインドールの(逆)プレニル化

可視光レドックス触媒を用いた、インドール誘導体のジアステレオ選択的な脱芳香族的C3位プレニル化および…

マテリアルズ・インフォマティクスに欠かせないデータ整理の進め方とは?

開催日:2023/11/29 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP