[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

Pallambins A-Dの不斉全合成

[スポンサーリンク]

保護基を使用しない、pallambins A-Dの不斉全合成が初めて達成された。今後これらのジテルペノイドの生物学的研究、および類似天然物の合成研究に利用されることが期待される(IMG Credit:Board of Trustees, Southern Illinois University)

parravicinin, neopallavicinin, pallambins A-D

Parravicinin(1)、neopallavicinin(2)およびpallambins A-D(3–6)は縮環したフロフラノン環を共通してもつ複雑なジテルペノイドである(図1A)。

1, 2は1994年、3–6は2012年にそれぞれクモノスゴケ類から単離された。これらの天然物の生合成経路は浅川らによって提唱され、ラブダン型ジテルペノイドから生合成される(1)。また、3, 4はジラジカルを経由する光転位反応により、5, 6に変換されることがLouらによって示されている(2)。
Pallambins A-Dは4–6個の複雑な環構造、7–10個の不斉中心、2個の全炭素四級不斉中心をもつことから、その化学合成は困難を極め、その合成例は数少ない。(±)-3,(±)-4の全合成はWongによって報告されており、Grob開裂に続く分子内アルドール反応によって二環式骨格を構築した(図1B)(3)。(±)-5,(±)-6の全合成はCarreiraによって報告されており、C–H挿入反応が鍵となっている(4)。また、Baranは向山アルドール反応を含む11工程で(±)-3, (±)-4の全合成を達成した(5)。しかしながら、不斉合成の例はなくpallanbin類の詳細な生物活性評価には光学活性体の供給が望まれる。
今回北京大学のJia教授は、キラルなシクロへキセノン10から保護基を用いることなく、3, 4および5, 6の不斉全合成をそれぞれ15, 16工程で達成した(図1C)。パラジウム触媒を用いた酸化的な環化による[3.2.1]二環式骨格の構築(I)、Eschenmoser–Claisen転位に続くラクトン形成によるC環の構築(II)、および分子内Wittig反応によるD環の構築(III)が合成の鍵であった。

図1. Parravicin, neopallavicinin, pallambins A-Dとpallambins A-Dの過去の合成例

 

“Enantioselective Total Synthesis of Pallambins A-D”
Zhang, X.; Cai, X.; Huang, B.; Guo, L.; Gao, Z.; Jia, Y Angew. Chem., Int. Ed. 2019,58, early view.
DOI: 10.1002/anie.201907523

論文著者の紹介

研究者:Yanxing Jia
研究者の経歴:
1993–1997 B. Sc., Chemistry, Lanzhou University Lanzhou, China
1997–2002 Ph.D., Organic Chemistry, Lanzhou University Lanzhou, China(Prof. Yongqiang Tu)
2002–2007 Postdoc, Institute of Chemistry of Natural Substances (ICSN), National Center for Scientific Research (CNRS), France (Prof. Jieping Zhu)
2007–2011 Associate Professor of Medicinal Chemistry (PI), Peking University
2011– Professor of Medicinal Chemistry (PI), Peking University
研究内容:天然物の全合成、医薬品合成、新規合成法の開発

論文の概要

キラルなシクロへキセノン10に対しアリル基を立体選択的に導入し11を得た。その後、パラジウム触媒を用いた11の酸化的環化によって[3.2.1]ビシクロ骨格を構築した。二置換オレフィンのエポキシ化と続く異性化反応を経てアリルアルコール13へと誘導した(6)。

次に、13に対し、ジメチルアセトアミドジメチルアセタールを作用させることで、Eschenmoser–Claisen転位が進行し、γ, δ-不飽和アミド14が生成する。14の酸処理によってラクトンを形成し、C環をもつ15を合成した。続く二工程の変換により得られた16とベストマンイリドを反応させることで、分子内Wittig反応が進行し、17を与えた。

その後、α,β-不飽和ラクトンの還元、ケトンのα位のブロモ化を行うことで18へと導いた。18を筆者らが開発したHeck型の酸化条件に附すことで、α,β-不飽和ケトン19とした。このとき、分子内Heck反応が進行した副生物20も得られた。19のエステルのα位にエチリデン基を導入することで3, 4の不斉全合成を達成した。また3, 4の光転位反応により5, 6の不斉全合成も達成した。

図2. Jiaらのpallambins A-Dの不斉全合成

以上、保護基を用いることなくpallambins A-Dの不斉全合成が達成された。今後、これらのジテルペノイドの生物学的研究、および類似した天然物の合成研究への応用が期待される。

参考文献

  1. (a)Toyota, M.; Saito, T.; Asakawa, Y. Chem. Pharm. Bull. 1998, 46, 178. DOI: 1248/cpb.46.178 (b)Wang, L. N.; Zhang, J. Z.; Li, X.; Wang, X. N.; Xie, C. F.; Zhou. J. C.; Lou, H. X. Org.Lett. 2012, 14, 4. DOI: 10.1021/ol3000124
  2. Zhnag, J. Z.; Zhu, R. X.; Li, G.; Sun, B.; Chen, W. ; Liu, L.; Lou, H. X. Org. Lett. 2012, 14, 5624. DOI: 10.1021/ol302295a
  3. Xu, X. S.; Li, Z. W.; Zhang, Y. J.; Peng, X. S.; Wong, H. N. C. Chem.Commun., 2012, 48, 8517. DOI: 1039/c2cc34310j
  4. Ebner, C.; Carreira, E. M. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 11227. DOI: 1002/anie.201505126
  5. Martinez, L. P.; Umemiya, S.; Wengryniuk, S. E.; Baran, P. S. J. Am. Chem. Soc. 2016,738, 7536. DOI: 1021/jacs.6b04816
  6. Chapman, H. A.; Hebal, K.; Motherwell, W. B. Synlett 2010, 595. DOI:1055/s-0029-1219373
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. エントロピーの悩みどころを整理してみる その1
  2. リチウムイオン電池のはなし~1~
  3. アロタケタールの全合成
  4. タンパク質立体構造をPDBjViewerで表示しよう
  5. 多種多様な酸化リン脂質を網羅的に捉える解析・可視化技術を開発
  6. ゴジラの強さを科学的に証明!? ~「空想科学研究所」より~
  7. 第93回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part II…
  8. マテリアルズ・インフォマティクスの基礎から実践技術まで学ぶワンス…

注目情報

ピックアップ記事

  1. カルシウムイオン濃度をモニターできるゲル状センサー
  2. 研究者格付けチェック【Nature 論文のアブストラクトはどっち?】
  3. 旭化成、5年で戦略投資4千億
  4. Christoper Uyeda教授の講演を聴講してみた
  5. ラングミュアの吸着等温式 Langmuir equation
  6. BulkyなNHCでNovelなButadiyne (BNNB) アナログの反応
  7. 阪大と理研ビタミン、透明な生分解性フィルムを開発
  8. 1日1本の「ニンジン」でガン予防!?――ニンジンの効能が見直される
  9. “Wakati Project” 低コストで農作物を保存する技術とは
  10. 20年新卒の志望業界ランキング、化学は総合3位にランクイン

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年9月
月 火 水 木 金 土 日
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

ハロゲンの力で強力な結合を切断!天然物クマリンから医薬品・機能性材料原料のクマラノン類へ

第 722 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合…

観察を写真で残す!カメラ内蔵リアクタ EasyMax 102i を使ってみた

反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。とこ…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年9月版】

2026年9月にケムステでは21本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP