[スポンサーリンク]

C

コーリー・フックス アルキン合成 Corey-Fuchs Alkyne Synthesis

[スポンサーリンク]

概要

アルデヒドからの一炭素増炭(Homologation)によるアルキン合成法。

1,1-ジハロアルケンを2当量のアルキルリチウムで処理した後、得られたリチウムアセチリドを酸で処理すると末端アルキンが選られる。この際、酸の代わりに求電子剤を捕捉剤として用いると、ワンポットで二置換アルキンへと変換できる。

強塩基性条件に耐えない基質には適用不可。

基本文献

Review
  • Eymery, F.; Iorga, B.; Savignac, P. Synthesis 2000, 185. DOI: 10.1055/s-2000-6241
  • Habrant, D.; Rauhala, V.; Koskinen, A. M. P. Chem. Soc. Rev. 2010, 39, 2007. DOI: 10.1039/b915418c

開発の経緯

一工程目のジブロモアルケン合成はFausto Ramirezらによって1962年に開発された。二工程目のジブロモアルケン→アルキンの転位はFritsch-Buttenberg-Wiechell転位と呼ばれる反応である。

E.J.Coreyとその学生Philip L. Fuchsが、これを組み合わせて実用的なアルキン合成とした。

反応機構

【Step 1】

ジブロモオレフィンへの変換はWittig反応Appel反応と類似の機構で進行する。

【Step2】

アルキルリチウム処理によるアルキンへの変換は、単純なE2脱離機構では無い。立体的に空いているBrがハロゲン-リチウム交換をまず起こし、α脱離によってカルベン中間体が生成し、1,2-転位する機構で進行する(Fritsch-Buttenberg-Wiechell転位)。重水素ラベル化実験によって、水素が優先的に転位することが確かめられている(参考:Eur. J. Org. Chem. 2007, 2477.)。

また下記機構から分かるとおり、酸性度の高い末端C(sp)-HがBuLiによって即座に脱プロトン化されるため、BuLiは原料に対して2当量必要になる。

反応例

改良法

トリフェニルホスフィンの代わりにP(OiPr)3を用いることでジブロモアルケン合成の段階、特にケトンに対する反応性が改良され、精製も容易になることが示されている[1]。

天然物全合成への応用

(-)-Laulimalideの合成[2]

Callyspongiolideの全合成[3]

実験手順

Corey-Fuchs反応の適用例[4]

【1,1-ジブロモ-2-(4-メトキシフェニル)エテン】

CBr4(122 g、368 mmol)のCH2Cl2(500 mL)溶液に、窒素雰囲気下、0°CでPh3P(193 g、736 mmol)を加え、0°Cで1時間攪拌した。反応液にp-アニスアルデヒド (25 g、184 mmol)を加え、0°Cで1時間撹拌し、H2O(100 mL)でクエンチした。有機層を飽和食塩水(100 mL)で洗浄したのち、乾燥(MgSO4)し、減圧下で濃縮した。残渣をヘキサン(3 L)に注ぎ、上清を回収した。残渣をCH2Cl2(200mL)に再溶解し、ヘキサン(3 L)に注ぎ、上清を回収した。このプロセスをもう一度繰り返し、合わせた上清をシリカゲル(150 g)に通し、溶出液を濃縮して標記化合物を得た。収量:40 g (80%)。

3-(4-メトキシフェニル)プロピオル酸メチル】

窒素雰囲気下、-78°Cに冷却した1,1-ジブロモ-2-(4-メトキシフェニル)エテン (30 g、103 mmol)の無水THF(350 mL)溶液に、BuLi(141 mL、226 mmol、1.6 M)をゆっくり滴下し、-78°Cで30分、引き続き0°Cで30分攪拌した。反応液にクロロギ酸メチル(11.6 mL、150 mmol)を-78°Cで加え、0°Cに昇温して1時間攪拌した。混合物を飽和NaHCO3/NH4Cl水溶液(1:1, 124 mL)で希釈し、水層をEt2O(125 mL)で抽出した。有機層を合わせて乾燥(MgSO4)させ、減圧下に濃縮した。得られた油状物を シリカゲルクロマトグラフィー(500g, 10% EtOAc/hexane)で精製し、16.7 g(85%)の目的物を得た。

実験のコツ・テクニック

  • CBr4は通常アルデヒドに対して2当量用いられるが、この場合PPh3は4当量必要であり、大量の不要物が発生し除去が困難になる。Zn dustを2当量加えるプロトコルは、PPh3を2当量に減ずることが可能であり、精製も容易になるため好まれる。

関連動画

参考文献

  1. Fang, Y.-Q.; Lifchits, O.; Lautens, M. Synlett 2008, 413.  DOI: 10.1055/s-2008-1032045
  2. Ghosh, A. K.; Wang, Y. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 11027. DOI: 10.1021/ja0027416
  3. Wölfl, B.; Mata, G.; Fürstner, A. Chem. Eur. J. 2018, 25, 255. doi:10.1002/chem.201804988
  4. Morris, J.; Wishka, D. G. Synthesis 1994, 43. DOI: 10.1055/s-1994-25402

関連反応

関連書籍

外部リンク

関連記事

  1. アニオン重合 Anionic Polymerization
  2. シリル系保護基 Silyl Protective Group
  3. 可逆的付加-開裂連鎖移動重合 RAFT Polymerizati…
  4. ジェイコブセン速度論的光学分割加水分解 Jacobsen Hyd…
  5. メリフィールド ペプチド固相合成法 Merrifield Sol…
  6. ブレデレック試薬 Bredereck’s Reage…
  7. ウルフ・デッツ反応 Wulff-Dotz Reaction
  8. フィッシャー オキサゾール合成 Fischer Oxazole …

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ウォルター・コーン Walter Kohn
  2. 天然の保護基!
  3. 「ニコチンパッチ」6月1日から保険適用
  4. なぜ傷ついたマジックマッシュルームは青くなるの?
  5. Accufluor(NFPI-OTf)
  6. ライオン、フッ素の虫歯予防効果を高める新成分を発見
  7. iPhone/iPodTouchで使える化学アプリケーション
  8. ケムステが文部科学大臣表彰 科学技術賞を受賞しました
  9. 越野 広雪 Hiroyuki Koshino
  10. 危険物に関する法令:指定数量の覚え方

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

注目情報

最新記事

日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 2

第一弾に引き続き第二弾。薬学会付設展示会における協賛企業とのケムステコラボキャンペーンです。…

有機合成化学協会誌2023年3月号:Cynaropicri・DPAGT1阻害薬・トリフルオロメチル基・イソキサゾール・触媒的イソシアノ化反応

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年3月号がオンライン公開されました。早…

日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 1

さて、日本化学会春季年会の付設展示会ケムステキャンペーンを3回にわたり紹介しましたが、ほぼ同時期に行…

推進者・企画者のためのマテリアルズ・インフォマティクスの組織推進の進め方 -組織で利活用するための実施例を紹介-

開催日:2023/03/22 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

Part 1・Part2に引き続き第三弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。…

第2回「Matlantis User Conference」

株式会社Preferred Computational Chemistryは、4月21日(金)に第2…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回のPart 1に引き続き第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける従来の実験計画法とベイズ最適化の比較

開催日:2023/03/29 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1

待ちに待った対面での日本化学会春季年会。なんと4年ぶりなんですね。今年は…

グアニジニウム/次亜ヨウ素酸塩触媒によるオキシインドール類の立体選択的な酸化的カップリング反応

第493回のスポットライトリサーチは、東京農工大学院 工学府生命工学専攻 生命有機化学講座(長澤・寺…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP