[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

(–)-Batrachotoxinin Aの短工程全合成

[スポンサーリンク]

(–)-Batrachotoxinin Aの短工程合成が達成された。今後、batrachotoxin類を分子ツールとした電位依存性ナトリウムチャネルの作用機序解明研究の加速が期待できる

 (–)-Batrachotoxinおよび(–)-batrachotoxinin A

(–)-Batrachotoxin(1)は、フキヤガエルの皮膚から単離された、人に対して非常に高い毒性をもつステロイドアルカロイドに分類される天然物である(Figure 1A)[1]。電位依存性ナトリウムチャネル(NaV)の特定のサブタイプに選択的に作用するため、各NaVの作用機序解明研究における重要な分子ツールとなっている[2]1は、高い酸化度、連続する不斉中心や複雑な環構造をもち、合成化学的にも興味深い化合物である。一方、1と共に単離された (–)-batrachotoxinin A(2)は、NaVに対する活性は1より低いが、1およびそのbatrachotoxin類縁体に容易に誘導できるため、その合成法は古くから研究されている[3]
2の初めての全合成は、1998年に岸らによって報告された(Figure 1B)[4]。Wieland–Miescherケトン(3)を原料とし、鍵反応としてフランの分子内Diels–Alder反応および分子内Oxy-Michael付加を用いて環骨格を構築し、2のラセミ合成を達成した。しかし、この手法は40工程を要するため、2の十分かつ効率的な供給には難があった。2016年にDu Boisらは、出発原料にHajos–Parrishケトン(4)を用いて24工程で2の不斉全合成を達成した(Figure 1B) [5]。この合成法ではラジカルカスケード反応による迅速な環骨格の構築を鍵としている。
今回、北京大学のLuoらは、4から17工程で(–)-batrachotoxinin Aの全合成に成功した(Figure 1C)。逆合成解析の結果、2のホモモルホリン環は5の還元的アミノ化、アシル化および環化反応により構築できるとした。また、5のC環構築には、対称ジケトン6の非対称化を伴う環化反応を用いることとした。この67とジケトン8のカップリングにより合成することとした。

Figure 1. A. Batrachotoxinin類の構造 B. 過去の全合成例 C. (–)-Batrachotoxinin Aの逆合成解析

 

“Total Synthesis of (–)-Batrachotoxinin A: A Local-Desymmetrization Approach”
Guo, Y; Guo, Z.; Lu, J.-T.; Fang, R.; Chen, S.-C.; Luo, T. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 3675–3679.
DOI: 10.1021/jacs.9b12882

論文著者の紹介


研究者:Luo Tuoping (罗 佗平)
研究者の経歴:
2001–2005 B.Sc., Peking University, China (Prof. Zhen Yang)
2005–2011 Ph.D., Harvard University, USA (Prof. Stuart L. Schreiber)
2011–2013 Postdoc, H3 Biomedicine Inc., USA (Dr. John Yuan Wang)
2013– Provisional Principal Investigator, Peking University-Tsinghua University Joint Center for Life Sciences, China
2013– Principal Investigator, College of Chemistry and Molecular Engineering, Peking University, China
研究内容:天然物の全合成研究、ケミカルバイオロジー

論文の概要

著者らはまず、4から3工程を経てアセタール9を合成した。9にエトキシビニルリチウムを作用させた後、ケタール形成やアセチル部位の臭素化によって7とした。続いて、可視光レドックスカップリング反応を用いて7とジケトン8を連結することで6を合成した。その後、6のブロモアルケン部位をリチオ化し、環化反応によってジケトン部位を非対称化し、TMSOTfで処理することで、低収率ながら11を得た。低収率の原因は、この反応で環化が進行せずにブロモ部位がプロトン化された化合物やアルケニルリチウム種がC18位ケトンに反応して生じるジアステレオマーが副生したためであった。11を三枝–伊藤酸化によってエノン12とした後に、DIBALとLiAlH4により還元することでトリオール13が得られた。その後数工程を経て得られた14に還元的アミノ化、クロロアセチルクロリドを用いたN-アシル化および環化反応を行うことで、ホモモルホリンアミド骨格を有する15へ導き、2の基本骨格の構築を完了した。15を一重項酸素とエン反応させ、無水酢酸で処理しアルデヒド17を合成した。この際C11位が未反応の16が副生したが、同様な反応により17に誘導できることが示されている。最後に、Grignard反応剤とLiAlH4を順に反応させ、2の全合成を達成した。

Figure 2. (–)-Batrachotoxinin Aの全合成

以上、これまでで最短工程で(–)-batrachotoxinin Aの全合成が達成された。今後、batrachotoxin類縁体の合成、さらにはそれら類縁体を用いてNaVsの作用機序の解明研究への応用が期待される。

参考文献

  1. Tokuyama, T.; Daly, J. W.; Witkop, B. Structure of Batrachotoxin, a Steroidal Alkaloid from the Colombian Arrow Poison Frog, Phyllobates Aurotaenia, and Partial Synthesis of Batrachotoxin and its Analogs and Homologs. J. Am. Chem. Soc. 1969, 91, 3931−3938. DOI: 10.1021/ja01042a042
  2. Linford, N. J.; Cantrell, A. R.; Qu, Y.; Scheuer, T.; Catterall, W. A. Interaction of Batrachotoxin With the Local Anesthetic Receptor Site in Transmembrane Segment IVS6 of the Voltage-Gated Sodium Channel. Pro. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 1998, 95, 13947−13952. DOI: 10.1073/pnas.95.23.13947
  3. (a) Brown, G. B.; Tieszen, S. C.; Daly, J. W.; Warnick, J. E.; Albuquerque, E. X. Batrachotoxinin-A 20-α-Benzoate:a New Radio-Active Ligand for Voltage Sensitive Sodium Channels. Cell Mol. Neurobiol. 1981, 1, 19–40. DOI: 10.1007/bf00736037 (b) Brown, G. B.; Bradley, R. J. Batrachotoxinin-A N-Methylanthranilate, a New Fluorescent Ligand for Voltage-Sensitive Sodium Channels. J. Neurosci. Methods 1985, 13, 119−129. DOI: 10.1016/0165-0270(85)90024-x (c) Casebolt, T. L.; Brown, G. B. Batrachotoxinin-A-Ortho-Azidobenzoate: a Photoaffinity Probe of the Batrachotoxin Binding Site of Voltage-Sensitive Sodium Channels. Toxicon 1993, 31, 1113−1122. DOI: 10.1016/0041-0101(93)90126-4
  4. Kurosu, M.; Marcin, L. R.; Grinsteiner, T. J.; Kishi, Y. Total Synthesis of (±)-Batrachotoxinin A. J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 6627−6628. DOI: 10.1021/ja981258g
  5. Logan, M. M.; Toma, T.; Thomas-Tran, R.; Du Bois, J. Asymmetric Synthesis of Batrachotoxin: Enantiomeric Toxins Show Functional Divergence Against NaV. Science 2016, 354, 865−869. DOI: 1126/science.aag2981
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. フッ素が実現する高効率なレアメタルフリー水電解酸素生成触媒
  2. 塩にまつわるよもやま話
  3. 有機合成化学協会誌2025年12月号:ホウ素二置換カルベン・不斉…
  4. 製造業の研究開発、生産現場におけるDX×ノーコード
  5. マテリアルズ・インフォマティクスにおける回帰手法の基礎
  6. 中学入試における化学を調べてみた 2013
  7. 「新規高活性アルコール酸化触媒 nor-AZADOの有用性」 第…
  8. 求電子的インドール:極性転換を利用したインドールの新たな反応性!…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 論文執筆で気をつけたいこと20(1)
  2. 最新 創薬化学 ~探索研究から開発まで~
  3. 非平衡な外部刺激応答材料を「自律化」する
  4. 青色LED和解:中村教授「日本の司法制度は腐ってる」
  5. 実例で分かるスケールアップの原理と晶析【終了】
  6. 徒然なるままにセンター試験を解いてみた
  7. 磯部 寛之 Hiroyuki Isobe
  8. 巨大ポリエーテル天然物「ギムノシン-A」の全合成
  9. 死刑囚によるVXガスに関する論文が掲載される
  10. Ni(0)/SPoxIm錯体を利用した室温におけるCOの可逆的化学吸着反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年4月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

キョウチクトウ科植物に含有される多量体型アルカロイドの完全化学合成に成功―ビスロイコノチンAおよびボウシゴニンBの世界初の全合成―

第714回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(天然物創薬化学研究室)博士課程後期3…

科学捜査! ― 見えない指紋を化学の力で光らせよ ―

近年、分子構造に起因した発光メカニズムの解明が進み、単一分子で複数の機能を有する分子の研究が活発化し…

光で結晶の傷が癒える!?光応答性分子を用いた自己修復への挑戦

第713回のスポットライトリサーチは、立教大学理学部(森本研究室)に所属されていた西村涼 助教にお願…

ウェビナー「化学的リン酸化試薬(モノリン酸化アミダイト)の開発とRNA合成への応用」アーカイブ配信中! 【富士フイルム和光純薬】

高純度RNA合成には、効率的な精製法の確立が不可欠です。そこで、名古屋大学大学院 理学研究科の阿部 …

有機合成化学協会誌2026年6月号:抗体・薬物複合体・機能性有機蛍光色素・速度論的反応機構解析・触媒的脱水型ベンジル化・植物由来モノマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年6月号がオンラインで公開されています(記事公…

50代で初めての転職。面接対策から退職交渉までフォローし、マッチングを成功させた「伴走」の重要性

40~50代からの転職に、不安を抱く人は少なくありません。年齢的なハードル、これまで築いてきたキャリ…

PFAS代替素材市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、202…

【28卒】太陽HD研究開発 1day仕事体験

太陽HDでの研究開発職を体感してみませんか?私たちの研究活動についてより近くで体…

分子間相互作用で「π–π スタッキング」を考える【芳香環の相互作用を見直す: 後編】

芳香環が平行に近接するときの分子間相互作用は、静電相互作用、分散力、脱溶媒和、誘起作用、交換反発とい…

MI Conf 2026 Materials Informatics Conference

MI Confとは4年目となる、MI実践知が集まる場。マテリアルズ・インフォマテ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP