[スポンサーリンク]

一般的な話題

「大津会議」参加体験レポート

[スポンサーリンク]

 

 

さて大津会議の紹介記事に続きまして、実際に第二回大津会議に選出された参加者、藤田大士博士*に参加体験レポートを書いて頂きましたので紹介したいと思います。

経歴:東京大学大学院工学研究科(藤田研2012年卒)現在、日本学術振興会特別研究員(博士)(同大学院理学研究科菅研究室)

 大津会議ープロローグ

ishot-60.png

ショッピングモールなんかに行くと、ガラス張りのエレベーターってありますよね。僕はあのシースルータイプのエレベーターが好きです。エレベーターが動き始める、あの「フワッ」という感覚。そして上昇と共に広がる視界。

「上からみると、こんな感じなんだー」

と、フロアを歩いているだけでは気付かない、小さな発見があったりします。

昨年10月に滋賀県の大津市で開催された「大津会議」。この会議に参加して僕が体験したことは、思えば、このシースルーエレベーターの体験にちょっと似ていたかもしれません。

大津会議?なんだそれ?

ishot-61.png

 

この、正直名前も聞いたことのなかったようなイベントに、僕が興味を持ち参加を申し込んだのは、実は極めて単純なミーハーな気持ちからでした。でもこのミーハーさ、皆様にもきっと理解して頂けると思います。なにしろ、この大津会議、そこに名を連ねる組織委員の面々は、

丸岡啓二|京都大学

山本尚|シカゴ大学

柴崎正勝|微生物化学研究所

鈴木國夫|名古屋産業科学研究所

と豪華な大御所ばかり。この名前を聞いたら、有機化学の分野に身を置く人間として、興奮せざるを得ないでしょう。これらの先生方が、「日本の化学界を率いる次世代のリーダーを育成しよう」と2010年に新しく立ち上げたのが、この大津会議です。

参照:〔対談〕「日本の化学」未来は明るいか? 山本 尚 vs. 柴﨑正勝 月刊化学Vol.67, pp12-17

通常の学会より応募するために少しだけ手間がかかりましたが、応募に必要な「研究概要」、「作文」、「推薦状」、「論文リスト」等を揃えて参加申込したのが、去年の夏前のこと。熱意が通じたのか、幸いにも16名のメンバーに入れて頂き、琵琶湖の湖畔、大津プリンスホテルへと乗り込む運びとなりました。

 

ありそうでなかった体験

博士課程も後半に差し掛かかり、後輩の指導等にも余裕が出てくると、いつからともなく、ちょっと「研究ができる」ようになった気がしてくるものです。僕自身も例外でなく、「このテーマ全然いまいちだなぁ」とか「これができたら面白いんじゃね?」などと、上から目線で偉そうなことを考えておりました。が、この「自分は色々とよく考えている」という不相応な自信は、大津会議で用意されたプログラムを前に、脆さを露呈してしまうことになります。

教授を始めとする研究室メンバーと、自分達の研究についてディスカッションすることは、皆様も日常的にやっていることですね。研究室によっては、研究プロポーザルを発表する機会も設けられているかもしれません。では、自分の研究の延長線上にないまったく新しいテーマ、これをしっかりとした形でプロポーザルし、本気でディスカッションしたことはありますか?

ishot-62.png

大津会議では、通常の研究発表(現在の研究)に加え、

独立した助教ポストが得られた場合にやりたいプロジェクト

という題目で、将来の研究について互いに発表し合います。皆が自信満々に発表する色とりどりなアイデア、それに対する様々な意見。ディスカッション中、組織委員の先生方が下さる思慮深いコメントもあり、非常に刺激的な時間でした。

「日本の学生には、研究プロポーザルを書く機会がほとんどない。だがアメリカでは、同世代の若者が、分厚いタイトな研究プロポーザルを書いてくる。もっとプロポーザルを書く機会を持って下さい。プロポーザルを書く機会を持つことで、論文を読む視点もまた新しいものになってきます。」

これは、シカゴ大の山本尚先生の言葉です。山本先生のご指摘通り、これまでを振り返れば人前で研究プロポーザルをし、評価される機会などまったくの皆無でした。大津会議という機会がなければ、この大事さに気付くこともなかったと思います。

さらに会議では、ラウンドテーブルディスカッションとして、

20年後の有機合成化学

我が国が取るべき道

の2つのテーマについて討論する機会も設けられています。これも予定されていた時間を大幅に超過するほど、議論は盛り上がりをみせました。今時の若者の一人としては若干の恥ずかしさもありましたが、こうしたトピックに正面から向き合う事で初めて、「自身の研究の立ち位置」、「化学の発展の方向性」、そしてこれに対し「自分がどのようなアプローチで研究を進めるか」など、頭の片隅で意識し始めることができるようになったと思っています。

「あぁ、この高さから物事を考えなくちゃいけないのか。」

まるでエレベーターが上昇した時のような視野の広がり。これが琵琶湖の湖畔で得られた何にも代えがたい経験です。

 

ishot-63.png

 

10年後、20年後の未来に向けて

「大津会議を一泊二日のイベントのみに終わらせるつもりはない。同窓生同士、仲間として、ライバルとして、互いに切磋琢磨できるコミュニティとして育てていく。」

この方針に基づき、参加者同士の継続的な交流を重視する点が、大津会議のもうひとつの特徴です。特に、同じ年の参加者同士の「横のつながり」だけではなく、歴代の参加者も含めた「縦のつながり」ができるよう、様々な工夫が凝らされています。

大津会議参加者にはそれぞれ会員番号が与えられ、名簿は毎年最新のものへと更新されます。この他にも、定期的に同窓会が開催される、会員限定のfacebookグループが作成されるなど、大津会議参加者間はもちろん、組織委員の先生方とも常に近い距離が保てる仕組みになっています。将来的には、大津会議会員だけが参加できるシンポジウムの開催など、現在進行形で様々なアイデアが検討されています。

ishot-64.png

このように、大津会議には「将来へと繋がる継続的な価値」を提供し続けて行こうという強い意志があります。大津会議が近い未来、有機化学界の中で存在感を増してゆくことは間違いないでしょう。個人的には、大津会議参加者の中から次々と有力な研究者が誕生し、大津会議が「若手の登竜門」と呼ばれる日も遠くないと確信しています。

化学の研究者を目指す熱い志を抱いている方、実験の繰り返しの毎日に何か新しい刺激が欲しい方、ぜひ大津会議への参加を検討してみてはいかがでしょうか?大津会議への参加が、あなたの将来に夢を実現するにあたり、何かの手助けになるかもしれません。

 

編集後記(ケムステ代表より)

 

以上、2つの記事に渡り大津会議の詳細および参加者からの体験レポートを紹介させていただきました。様々な意見があると思います。筆者としては我々の世代にはなかったこの新しい試みを羨ましく、そしてうれしく思います。化学は競争ではありません。しかし化学、研究に限らず、どの分野においても切磋琢磨できる仲間(ライバル)が必須であり、その存在が自分の120%の力を発揮させる、広い視野をもつきっかけとなる一助になる時が往々にしてあります。そんな化学における「類友」をつくることのできるこの会議にぜひチャレンジしていただきたいと思います。

 

応募〆切は6/15(金)ですのでお早めに!

応募はこちらから!

 余談ですが、この体験レポートを掲載するにあたり、どんな輩だこの野郎!(喧嘩売っているわけではないですよw)と勝手に思いまして、今年の「同窓会」の後の「2次会」に強引に乱入させていただきました。皆良い意味で活気があり、なによりも目が輝いていました。それだけで彼らのレベルの高さを理解し、満足させていただきました。

 

関連リンク

大津会議~リーダー育成塾 公式サイト

有機合成化学 未来を議論 「大津会議」 若手研究者ら成果発表 (京都新聞)

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 有機合成化学協会誌2019年11月号:英文版特集号
  2. 【緊急】化学分野における博士進学の意識調査
  3. SNS予想で盛り上がれ!2022年ノーベル化学賞は誰の手に?
  4. 銅中心が動く人工非ヘム金属酵素の簡便な構築に成功
  5. ホウ素-ジカルボニル錯体
  6. Angewandte Chemieの新RSSフィード
  7. 資金洗浄のススメ~化学的な意味で~
  8. イグノーベル化学賞2018「汚れ洗浄剤としてヒトの唾液はどれほど…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 軽量・透明・断熱!エアロゲル(aerogel)を身近に
  2. 山口マクロラクトン化 Yamaguchi Macrolactonizaion
  3. 自動車排ガス浄化触媒って何?
  4. Practical Functional Group Synthesis
  5. 摩訶不思議なルイス酸・トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン
  6. アメリカ大学院留学:研究室選びの流れ
  7. CETP阻害剤ピンチ!米イーライリリーも開発中止
  8. 自己組織化ホスト内包接による水中での最小ヌクレオチド二重鎖の形成
  9. 第27回ケムステVシンポ『有機光反応の化学』を開催します!
  10. ピセン:Picene

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年5月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

先端事例から深掘りする、マテリアルズ・インフォマティクスと計算科学の融合

開催日:2023/12/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

最新の電子顕微鏡法によりポリエチレン分子鎖の向きを可視化することに成功

第583回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 陣内研究室の狩野見 …

\脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介

※本セミナーは、技術者および事業担当者向けです。脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つと…

【書籍】女性が科学の扉を開くとき:偏見と差別に対峙した六〇年 NSF(米国国立科学財団)長官を務めた科学者が語る

概要米国の女性科学者たちは科学界のジェンダーギャップにどのように向き合い,変えてきたのか ……

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2025卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

細胞代謝学術セミナー全3回 主催:同仁化学研究所

細胞代謝研究をテーマに第一線でご活躍されている先生方をお招きし、同仁化学研究所主催の学術セミナーを全…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける回帰手法の基礎

開催日:2023/12/06 申込みはこちら■開催概要マテリアルズ・インフォマティクスを…

プロトン共役電子移動を用いた半導体キャリア密度の精密制御

第582回のスポットライトリサーチは、物質・材料研究機構(NIMS) ナノアーキテクトニクス材料研究…

有機合成化学協会誌2023年11月号:英文特別号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年11月号がオンライン公開されています。…

高懸濁試料のろ過に最適なGFXシリンジフィルターを試してみた

久々の、試してみたシリーズ。今回試したのはアドビオン・インターチム・サイエンティフィ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP