[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

キラルシリカを“微小らせん石英セル”として利用した円偏光発光制御技術の開発

[スポンサーリンク]

第577回のスポットライトリサーチは、大阪工業大学 工学研究科 化学・環境・生命工学専攻 平井研究室の坂井 飛成(さかい ひなり)さんにお願いしました。

平井研究室では精密重合法を基盤とした新規高分子材料開発に関する研究に取り組んでいます。今回のプレスリリースでは、かご型シルセスキオキサン(POSS)含有高分子より調製したキラルシリカが“極小のらせん形状を持った石英セル”として働き、蛍光分子および溶媒分子を内包することで円偏光発光(CPL)の発光色の制御が可能になることを報告しました。

この研究成果は国立研究開発法人エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のムーンショット型研究事業(JPNP18016)および燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業(JPNP20003)、JSPS科研費(JP22K05245)により推進され、「JACS Au」誌、および大阪工業大学東京工業大学、国立陽明交通大学(台湾)よりプレスリリースで発表されました。

Controlling Circularly Polarized Luminescence Using Helically Structured Chiral Silica as a Nanosized Fused Quartz Cell

Hinari Sakai, Tsz-Ming Yung, Tomoki Mure, Naoki Kurono, Syuji Fujii, Yoshinobu Nakamura, Teruaki Hayakawa, Ming-Chia Li, and Tomoyasu Hirai

JACS Au 2023 3 (10), 2698-2702

DOI: doi.org/10.1021/jacsau.3c00390

研究室を主宰されている平井 智康准教授より坂井さんについてコメントを頂戴いたしました!

坂井 飛成君は4年生で研究室に配属されて以来、キラルシリカの用途探索に関する研究に取り組んできました。キラルシリカを調製するためのPOSS含有高分子はアニオン重合法に基づき調製するため、高度の技術を必要とします。器用で几帳面な、負けず嫌いの性格であり、数多くのキラルシリカの調製、キラルシリカへの分子内包に関する検討に果敢に取り組んでくれました。未踏領域となっていたキラルシリカのナノ石英セルとしての利用方法も坂井君の性格なしには発見できなかったと思います。教員として、坂井君の努力の成果を論文としてまとめることができてとても嬉しく思っています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

キラルシリカはキラル界面活性剤を鋳型とし、テトラエトキシシランのゾルーゲル反応を利用することで調製されてきました。しかしながら、得られるらせんのサイズが分子サイズと比較して大きいことが課題となっていました。我々は独自に立体規則性を制御したPOSS含有メタクリレート高分子に対して少量のキラルドーパントを添加し、この混合物を焼成することで分子サイズのらせん構造を有するキラルシリカを得ました。

一方、蛍光分子として、ピラニンに注目しました。ピラニンは水中では緑色、メタノール中では青色の蛍光発光を示します。調製したキラルシリカに対してピラニンおよび溶媒分子を内包させることで、緑〜青色の領域において蛍光発光色を制御したCPLが得られることを明らかにしました。また、キラルシリカの中に溶媒分子と蛍光分子が内包されていますのでこの材料は粉末として取り扱うことができます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

キラルシリカの調製と分子導入を成し遂げた点です。キラルシリカを調製すると振動円偏光二色性(VCD)から美しい分裂型のコットン効果が観測されます。一方、シリカは紫外から可視領域では透明であるため、円二色性(CD)では信号が得られません。クロモフォアがキラルシリカに内包され、さらにらせんに沿って配列されるならば、CD測定より特異なコットン効果を観測できるのではないかと考えました。実際に実験を行い、CDからコットン効果が観測された時は感動しました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

Q2とも関連がありますが、キラルシリカに対して導入可能な分子を選択した点です。透過型電子顕微鏡(TEM)観察像より、キラルシリカの空孔サイズは評価していましたが、導入できるはずのサイズからなる分子を思うように内包できない状況が続きました。キラルシリカを焼成する過程で極性官能基であるSi-OH骨格が残存していると仮説を立て、極性の高い分子を選択することで状況を乗り越えることができました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

今回の実験を通して様々な発見があり、化学の面白さを肌で感じることができました。微力ながら、化学を通じて、日本の社会をよりよいものにすることができる研究者になりたいと思っています。CPLは量子コンピュータ開発にも注目されている技術ですので、化学以外にも興味を持ちながら、材料開発に携わっていきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後まで記事に目を通していただき、ありがとうございました。研究を通じて、自分自身で考え成果を出すことも重要ではあるものの、研究室のメンバーをはじめとする周囲の人との関わりも重要であることを学ぶことができました。今後も人とのつながりを大切にし、様々な研究に積極的にチャレンジしていきたいと思います。

最後になりましたが、本テーマを推進する上でご指導賜りました平井智康 准教授、研究室のメンバーにこの場を借りて改めて御礼申し上げます。

また今回研究紹介という貴重な機会を設けてくださったChem-Stationスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。

研究者の略歴

坂井飛成(さかい ひなり)

大阪工業大学 工学研究科 化学・環境・生命工学専攻 平井研究室

高分子を鋳型とするキラルシリカの調製とその機能・物性評価

関連リンク

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 【書籍】化学探偵Mr.キュリー5
  2. スペクトルから化合物を検索「KnowItAll」
  3. 第8回慶應有機化学若手シンポジウム
  4. 直鎖アルカンの位置選択的かつ立体選択的なC–H結合官能基化
  5. 乙卯研究所 研究員募集 2023年度
  6. 環状アミンを切ってフッ素をいれる
  7. 研究室でDIY!~エバポ用真空制御装置をつくろう~ ④
  8. アスピリンから多様な循環型プラスチックを合成

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 金よりも価値のある化学者の貢献
  2. 有機合成化学協会誌2017年11月号:オープンアクセス・英文号!
  3. 「抗炎症」と「抗酸化」組み合わせ脱毛抑制効果を増強
  4. ノーベル賞の合理的予測はなぜ難しくなったのか?
  5. 機械的力で Cu(I) 錯体の発光強度を制御する
  6. 天然の保護基!
  7. 製造業の研究開発、生産現場におけるDX×ノーコード
  8. 松本和子氏がIUPACのVice Presidentに選出される
  9. 研究者へのインタビュー
  10. ジョージ・オラー George Andrew Olah

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年11月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

分子は基板表面で「寝返り」をうつ!「一時停止」蒸着法で自発分極の制御自在

第613回のスポットライトリサーチは、千葉大学 石井久夫研究室の大原 正裕(おおはら まさひろ)さん…

GoodNotesに化学構造が書きやすいノートが新登場!その使用感はいかに?

みなさんは現在どのようなもので授業ノートを取っていますでしょうか。私が学生だったときには電子…

化学者のためのWordマクロ -Supporting Informationの作成作業効率化-

「化合物データの帰属チェックリスト、見やすいんですが、もっと使いやすくならないですか」ある日、ラ…

酢酸ウラニル(VI) –意外なところから見つかる放射性物質–

酢酸ウラニル(VI) (UO2(CH3COO)2·2H2O) はウラニル (二酸化ウ…

機械学習と計算化学を融合したデータ駆動的な反応選択性の解明

第612回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学 大学院理工学府(五東研究室)博士課程後期1年の坂…

超塩基配位子が助けてくれる!銅触媒による四級炭素の構築

銅触媒による三級アルキルハライドとアニリン類とのC–Cクロスカップリングが開発された。高い電子供与性…

先端領域に携わりたいという秘めた思い。考えてもいなかったスタートアップに叶う場があった

研究職としてキャリアを重ねている方々の中には、スタートアップは企業規模が小さく不安定だからといった理…

励起パラジウム触媒でケトンを還元!ケチルラジカルの新たな発生法と反応への応用

第 611 回のスポットライトリサーチは、(前) 乙卯研究所 博士研究員、(現) 北海道大学 化学反…

“マブ” “ナブ” “チニブ” とかのはなし

Tshozoです。件のことからお薬について相変わらず色々と調べているのですが、その中で薬の名…

【著者に聞いてみた!】なぜ川中一輝はNH2基を有する超原子価ヨウ素試薬を世界で初めて作れたのか!?

世界初のNH2基含有超原子価ヨウ素試薬開発の裏側を探った原著論文Amino-λ3-iodan…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP