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有機合成化学協会誌2024年5月号:「分子設計・編集・合成科学のイノベーション」特集号

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有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年5月号がオンライン公開されています。

新年度も落ち着いてきて,研究に集中できる時期ではないでしょうか.筆者も楽しい時期です.

有機合成化学協会誌,今月号は「分子設計・編集・合成科学のイノベーション」特集号です!非常に豪華な著者陣となっています.絶対楽しいです.

今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。

巻頭言:天然物サイエンスにおける天然物合成の役割

今月号は,名古屋大学大学院生命農学研究科 西川俊夫 教授による巻頭言です.天然物に関わる化学,天然物サイエンスは裾野の非常に広い研究分野です.
筆者も,天然物合成が化学に与える影響は大きいと考えており,西川先生に同意いたします.必読です.

芳香環メタモルフォシス

依光英樹*

*京都大学大学院理学研究科化学専攻

 著者らの研究室で10年ほど前から展開してきた、様々なアプローチに基づく芳香環の元素置換、元素挿入、およびそれらの複合反応(芳香環メタモルフォシス)が、開発の経緯から反応機構を含め、わかりやすく紹介されています。反応化学のみならず、機能性分子科学や医農薬化学を含む幅広い研究領域の読者の興味を惹く内容が、豊富に提示されている優れた総合論文です。

PETプローブ開発を指向した分子設計と合成戦略

丹羽 節1,2,3*細谷 孝充2,3*

1*九州大学大学院薬学研究院

2*理化学研究所生命機能科学研究センター

3*東京医科歯科大学生体材料工学研究所

 標識反応を知っていますか?著者らの「分子リノベーション技術」から化学反応開発の新しい側面を見ることができます。化学反応にもとめられることを考えさせられる総説で、新反応開発に興味のあるかた必読です。

遷移金属触媒を用いたフラグメントカップリング反応の開発

島住竜馬、鳶巣 守*

*大阪大学大学院工学研究科

 本総合論文では、阪大の鳶巣先生らが進めている「フラグメントカップリング」反応について解説されています。従来の遷移金属触媒によるクロスカップリング反応とは異なり、ケトン、エステルなど基幹原料を基質として利用でき、結合形成に触媒以外の試薬添加を必要としないなど大きな利点があります。有機合成分野で近年注目されている「分子骨格編集反応」の最前線を学べる論文です。

アルテミシニンをモチーフとした骨格多様化迅速合成による抗感染症リード創製

大栗博毅*

*東京大学大学院理学系研究科化学専攻

 本論文は著者が精力的に展開している,天然物をモチーフとした『骨格多様化迅速合成』による化合物ライブラリーの構築と,天然物の『元素置換戦略』による医薬品リードの創製について,アルテミシニンを題材として,そのオリジナリティあふれる研究戦略を丁寧に解説されています。「合成生物学的なアプローチでは構築が不可能と想定される合成標的を設定し,有機合成化学を駆使して新規骨格を簡便に構築し…」の一文が心に刺さりました。まさに『次世代型天然物合成』といえるお仕事かと思います。特に是非ご一読を。

天然物全合成のためのテーラーメード有機触媒反応の開発

石川勇人*

*千葉大学大学院薬学研究院

種々の天然物を標的とする全合成の開発経緯を研究者目線で紹介した論文である。特に、二級アミン型触媒を用いる不斉有機触媒反応についての内容は一読に値する。有機分子触媒反応は、多くの触媒量が必要、官能基共存性が低いなどの課題があるように思われているが、本論文では最適化によって0.1 モル%の触媒量で高い選択性で生成物を得た事例などが紹介されている。

天然物ハイブリッド化による『分子のり』の創出

大好孝幸、木越英夫*

*筑波大学数理物質系化学域

最近注目されている「分子のり」を、2つの天然物のハイブリッド化に基づき分子デザインするという、ユニークかつ挑戦的な研究の成果が綴られている。著者らがこだわった合成経路の開発話から独自の分子デザインに至った経緯、そしてその活性評価の結果まで、分かりやすく解説されている。

天然物創薬を加速化する構造最適化プロセスの開発

市川 聡*、勝山 彬*、山本一貴*

*北海道大学大学院薬学研究院

天然物創薬は誘導体合成やライブラリー構築が煩雑であるというイメージを持っている人や実際に悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか。その解決案の一つとなりうる、画期的かつ斬新な天然物創薬のストラテジーが本論文にまとめられています。ぜひご一読ください。

シトクロムP450BM3を誤作動させる分子の開発と触媒的メタン水酸化

荘司長三*、有安真也、愛場雄一郎

*名古屋大学大学院理学研究科

「酵素触媒メタン酸化反応」

酵素の有機合成への応用は、最近になって一層活発に研究されていますが、タンパク質工学の手法による酵素の最適化が主流です。これとは全く異なるアプローチとして今回筆者らは、酸化酵素シトクロムP450BM3に対して単純な有機化合物を「デコイ分子」として活性中心近傍に作用させる酵素触媒の新しい最適化法によって、酵素が本来触媒できなかったメタンの酸化反応によるメタノールの選択的合成に成功しました。

高度にN-アルキル化されたドラッグライク環状ペプチドの一般合成法の開発

野村研一*、飯倉 仁*

*中外製薬株式会社

 ペプチドは魅力的な創薬モダリティとして注目されながら、膜透過性の低さに起因する短半減期・細胞内タンパクを標的にできないことが課題でした。これを解決する手法として、シクロスポリンに代表される “高度にN-Me化された環状ペプチド”があるものの、そのパラレル合成は非常に難しく創薬研究を困難にしていました。本論文はペプチド合成の詳細な反応解析・検討から“高度にN-Me化された環状ペプチド”の多検体合成を可能にした、創薬研究に資する大変すばらしい報告です。

リピドAの化学合成が拓くワクチンアジュバント開発

下山敦史*

*大阪大学大学院理学研究科

 COVID-19パンデミックにより、「免疫」を司る生命現象に多くの興味が集まっています。中でも、ワクチンの作用を増強させる働きを持つアジュバントの開発は、次なるパンデミックに対抗する重要な研究の一つです。本総説は、古い歴史を持つアジュバント活性天然物であるリピドAを基盤とした実用的アジュバントの開発に関して網羅的にまとめられた下山敦史先生(大阪大学)による大作です。ぜひご一読を。

生体内合成化学治療:マウス体内での金属触媒反応によるがん治療

田中克典*、Chang Tsung-Che

*東京工業大学物質理工学院応用化学系

*理化学研究所開拓研究本部田中生体機能合成化研究室

 生体内で有機合成反応を進行させ、薬理活性をもつ化合物を標的細胞の近傍で発生させる「生体内合成化学治療」。その技術と考え方が分かり易く書かれた総合論文です。有機合成化学の観点から、がん治療の新しいページを開こうとする開拓者の熱量溢れる研究をぜひお読みください。

 

これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。

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博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

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