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ポンコツ博士の海外奮闘録XXII ~博士,海外学会を視察する~

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第22話:博士,海外学会を視察する

ポンコツポスドク,学会参加を画策する。

──一定の研究成果があるとカガクシャが目指すACS Meetingには一体何があるのか。その謎を解明するため、ポンコツ調査隊はサンフランシスコの都市部へと向かった──

世間一般に基礎研究は社会の役に立たない仕事と揶揄されるが,研究活動と向き合う人間が評価指標を論文誌のIFだけにとらわれず,自分の関連研究が社会還元される可能性をほんのちょっとだけでも意識しているかどうかで,無駄に見える研究活動が実は社会に役立っていることを社会に認識させられる好循環が生み出されるのではないかと思う今日この頃,筆者は日々の実験生活に飽き飽きしていた。

研究生活をマクロ視点(線)で考えると有意義だと認識できるのかもしれないが,ミクロ視点(点)では実験結果,時間的猶予,人間関係等において良いこと,悪いことが波のように起き,実際の作業も地味で面白いものではない。筆者は「ヒャッハー!毎日の研究と実験が楽しくて仕方ないなぁー!」と言っている方がいるとリスペクトしつつもドン引きするタイプである。こいつはとんでもないドMだと。

研究室に篭りっぱなしでは個人的な思想(主観)に基づくミクロな視野が優位に先行し,マクロな視野を必要とする一般社会からますます浮世離れするため,外部の状況を拝見する必要性は高い。このような背景のもと,筆者はACS Meeting Fall 2023 in  San Franciscoに参加することを決めた。発表に関してはボッスに交渉する+要旨締切まで残り2日で準備が面倒だったため,視察だけに留めた。

ポンコツSouth CA民,San Franciscoに翔ぶ

──参加登録画面を開いた筆者は気づいた。ACS Meetingに参加する最大の壁は「金」だ──

筆者は野良研究者であることから参加費等は自腹であり,できる限りケチケチいきたかった。しかし,一般研究者の参加登録費はなんと799ドルというPixel 7 (256 GB)を購入してもお釣りが出る衝撃的なお値段だったため,筆者は発狂した(Fig. 1)。一応,ACS premium member(160ドル/年)であれば40%オフになるが,約160ドル+320ドル=480ドルで結局Apple Watch Series 8を買っても容易にお釣りが出る価格だったため,普通の参加を諦めた。

Fig. 1) 筆者がたまげた参加画面

一方,筆者が在籍する研究所には何名かの日本人企業戦士が派遣されており,幸運なことに企業戦士の方から他人を学会に潜り込ませる裏技が存在することを教えていただいた。具体的には,学会発表者は付随者の1名を100ドルで追加できるオプションがあるようだ。これを踏まえて筆者は,このオプション行使を前提に滞在ホテル等の工面を独自に行ない,SFの観光旅行日程をあれこれした(実際の滞在に関しては次回書く予定である)。そして筆者は,LAXを経由してSFへ旅立った。

ポンコツモグリカガクシャ,新しい学会形式を拝見する。

最近,ACS Meetingもハイブリット形式の学会に変更になったようで,現場にフル参加する人が大幅に減少したようだ。合理的な発想を非常に好むAmericanカガクシャ達は,野崎先生が有合協で記載した同様の経験を経て基本的にはオンラインで学会参加し1,自分の発表やシンポジウム,懇親会などがある日だけ現場に出向くというスポット参戦型に切り替えたようだった(資金的にも安いからだろう)。

この効率性は高名な先生方に非常に好評であり,全く高名ではない筆者も概ね同意するが,駆け出し学生には学会にフル参加して他大学の発表の雰囲気やポスターで研究内容の雑談等をし,最終的に自分で色々現場を感じて何かを掴み取って欲しいなぁと筆者は思った。デジタル化の普及によって現場でしかわからない雰囲気や物事を掴み取る訓練が希薄になり,その瞬間的な時にしか得ることのできない大切なことを見逃してしまうような人になって欲しくないからである。

学生時代,有機合成化学の金字塔であろうハラヴェン(エリブリン)の創薬開発研究でエーザイの田上克也先生の講演を聞く機会があった際に,ニッケル触媒の粒子がプロセス現場では不均一で細かくないものを使用していたために反応再現性の問題でつまづき,そこに気付くまでに大苦戦して危うくポシャりかけたという話を聞いたことがある。そういった単純なことだが重要なことにちゃんと気づくことができる,常に謙虚な姿勢で客観的に物事を判断できるカッコいい大人になれるかどうかは,若いうちに現場での観察眼を鍛え,そして立場が変わってもそれを忘れないことが重要なんかなぁ…知らんけど。と考えたことをふと思い出した。

その他,現場に行って経験するという名目で人のお金で遊びに行った風に見えないようにきっちり何かを得るように気をつけたいものだ(筆者はガチ自腹だから許されてほしい)

ポンコツモグリアカデミア,海外学会を堪能する。

ACS MeetingはChemistryという名のもとに,ありとあらゆる分野が集結する学会である。有機化学や無機化学,分析化学などはもちろんのこと生化学などの生物系分野の講演があり,さらには企業研究の発表も多い。筆者は日本化学会系の学会に参加したことがないため,こんな感じなのだろうか?と思いながら日本では経験できなさそうな講演に参加することにした。薬学会では生物系分野に加えて臨床系の研究も発表しているが,企業研究の発表は少ないため,筆者の興味を引いた。

移動自体に関しては,人混みが非常に苦手な筆者がスイスイ会場に潜り込むことができ,SFの安全地帯としてノンストレスで過ごせる場所だった(Fig. 2)。また,ACSのお土産品を容易に入手することができた。 しかし,過去に比べて大幅におみやげの種類も減っていたようだ。

お土産漁りに疲れ果てて床で座っていた筆者は,偶々,日本でお世話になっていた先生を発見した。少し人見知りが起きていた筆者は知り合いがいる安心感からダッシュで話を聞きに向かった。先生は過去の留学先のボッスから「この日は学会にいるから参加しにこい」と言われて渋々ACS Meetingに参加していたようであった。なお,お忙しいタイミングにも関わらず,自動的にフル参加であったであろう。お疲れ様でした。

ポンコツモグリアカデミア,企業の研究発表を勉強する。

結局,筆者が拝聴した講演はほぼ全て企業の研究発表であった。有名どころのアカデミアの講演も聞いても良かったが,企業との接点などまるでない筆者が企業研究を滅多に聞く機会などほとんどないため,優先して拝聴した。内容はもちろんのこと,スライド構成等で大変勉強になった。ラボのDefenceの時からずっと思っていたが,海外プレゼンターの講演は学生・著名な研究者問わず,非常にウィットに富んでおり,真面目な発表の中にもクスッと笑えるエピソードがどこかに含まれていて興味を惹きつけやすい。

つまり,海外プレゼンターは上方落語界の爆笑王と称された桂枝雀氏が提唱した緊張の緩和理論2-4を自然と研究プレゼンにおいても実行していた。この理論が「自分の研究を他人に興味を持たせて使わせるためのつかみ」技術として抜群の効果を示すことを改めて実感した。筆者のプレゼンも基本的の型としてこのスタイルでいきたいなぁとしみじみと思った。

と,学術的にも現場の雰囲気を掴み,ちゃんと勉強したと自称する筆者はもう2度とこないかもしれないSFを満喫するため,予定していた観光日程を消化することを目指した。

しかし,SFという街は容易にポンコツ氏に快適な朝を提供してくれなかった…

〜続く〜

参考文献

[1] 野崎 京子, 有機化学合成協会誌, 「両手を広げて」, 79 (2021).

[2] 長島 平洋, 笑い学研究, 「桂枝雀の「緊張の緩和」論を検証する(II) : 笑いを起こすひとつのメカニズムは計測・解明されうるのか?」, 15, (2008)

[3] “桂枝雀が語る 笑いの根底にある『緊張の緩和』と『笑いの分類・サゲの分類』”, お笑いテキスト, 2021/12/28, https://waraitext.com/post-17/

[4] 動画リンク:桂枝雀,「緊張と緩和 古典落語サゲの四分類

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いらすとや :アイキャッチ画像の素材引用元。

化学の素材屋さん:アイキャッチ画像の素材引用元②。

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たぶん有機化学が専門の博士。飽きっぽい性格で集中力が続かないので,開き直って「器用貧乏を極めた博士」になることが人生目標。いい歳になってきたのに,今だ大人になれないのが最近の悩み。読み方はナナメルorナナメェ…?

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