[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

銀カルベノイドの金属特性を活用したフェノール類の不斉脱芳香族化反応

第120回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府 薬化学研究室(根本哲宏教授) 博士後期課程3年の中山 弘貴(なかやま ひろき)さんです

根本研究室では、創薬研究に向けた (1)高効率分子変換法の開発、(2)合成プロセスの短工程化を実現する触媒的合成法の開発、(3)生物活性有機化合物、天然物合成、(4)エピゲノム異常制御のための機能性分子合成 が行われています。

今回スポットを当てる中山さんは、銀カルベノイドを用いたフェノール類の不斉脱芳香族化反応を開発しました。アザスピロ環を有する化合物は有用な生物活性を示すものが多い一方で、三次元的に複雑な構造をもつことから合成は困難とされています。中山さんらによって開発された反応を用いれば、これらの化合物が簡便に合成できる可能性があります。

中山さんの成果はこの度JACS誌に掲載され、プレスリリースとしても発表されました。

Hiroki Nakayama, Shingo Harada*, Masato Kono, Tetsuhiro Nemoto*

”Chemoselective Asymmetric Intramolecular Dearomatization of Phenols with α-Diazoacetamides Catalyzed by Silver Phosphate”

J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 10188. DOI: 10.1021/jacs.7b04813

この研究において中山さんの指導にあたられた、原田慎吾助教からコメントを頂いております。

中山君は冷静沈着ながらも、研究プロジェクトに対し熱い闘志を持った一人前の化学者です。本研究テーマを進めるにあたり、反応設計からメカニズム解析まで、鋭い洞察力をフルに活用して検討を行い、最終的になぜこうなったと思わざるを得ない反応条件(水素結合制御の反応で2-Butanoneを溶媒、Benzoic acidを添加剤として使用)に辿り着きました。研究室では余り多くは話さず、背中で語るクールな先輩というイメージです。教員は勿論、同輩・後輩からの人望も厚い中山君ですが、今年度末には卒業を控えております。アカデミックの世界でも十分に活躍が期待できる稀有な人材ですが、PhDの取得後は某有名試薬会社で働く予定です。千葉大学薬化学研究室で培った経験をもとに、新天地ではさらに飛躍を遂げてくれるものと信じております。

原田慎吾

インタビューと合わせて、ぜひ原著論文も読んでみてください!

Q1. 今回のプレスリリースの対象となったのはどんな研究ですか?

「銀カルベノイドの金属特性を活用したフェノール類の不斉脱芳香族化反応」を開発しました。

多様な反応を起こす金属カルベノイドの化学選択性を触媒金属を用いて制御することにより、フェノール類の脱芳香族化を化学選択的に進行させることに成功しました。さらにキラルリン酸を配位子とする銀触媒を用いることで不斉脱芳香族化へも展開し、エナンチオ選択的な銀カルベノイド反応の開発に初めて成功しました。

本反応を用いることでフェノール類の様な平面分子から三次元的なアザスピロ環骨格を構築することができます。フェノール環のオルト位のみに置換基をもつ基質でも高いエナンチオ選択性で進行する点が、これまでの不斉脱芳香族化反応には無かった利点です。

また密度汎関数法に基づく理論計算により、銀カルベノイドが高い求電子性を有しており、反応性の差異に寄与していることを明らかにしました。

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

思い入れがあるのは、予期せずに銀触媒が良い結果を与えることを見出したところです。本研究は、近年盛んに研究されている「金属カルベノイドの反応性は配位する金属により異なる」という報告を基にしています。当初は報告例がある他の金属で検討を進めていましたが、ダメそうな実験結果が得られてきたことから研究を断念しつつありました。その際手元にあった銀触媒を念のためにと試したところ、望みの反応が中程度のエナンチオ選択性で進行したことから、最終的に最適化された銀触媒にたどり着きました。銀カルベノイドを有機合成に用いる例はあまり知られていなかったため、候補として考えていませんでしたし、得られた結果に非常に驚きました。あの時思いつきで銀触媒を試していなかったら、この結果は無かったと思います。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

収率を改善するところが難しかったのですが、添加剤として安息香酸を用いることで解決しました。溶媒や配位子、濃度や温度などを種々検討しましたが、収率は60%程度にとどまっていました。添加剤を加えようと考えましたが、銀カルベノイド反応の先行研究では添加剤を加えている報告はなく手探りの状態でした。数%で得られた副生成物の構造から推定した反応機構をもとに、プロトンソースを添加するアイデアを思いつきました。安息香酸をはじめとして種々のカルボン酸を検討した結果、収率を改善することができました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

将来的にも、化学を通じて新しいモノや価値を生み出すことを続けたいと考えています。学位取得後は企業の研究者として働く予定なので、工業的な側面からモノづくりに携わり、化学の進展に少しでも貢献していきたいです。私は薬学部において多くの科目を学ぶ中で有機化学にハマり、研究もそれ一筋で6年間続けてきました。今後は有機合成化学を基盤としながらも、それだけにとどまらず他の分野にも挑戦することで、自分の可能性を広げていきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

この研究は、上手くいかなかった実験の末にダメ元で試した実験で得られた予期せぬ結果からスタートしました。新しい発見は思いがけずに見つかることも往々にしてあります。それは運もあるのかもしれませんが、その様なセレンディピティに巡り合えるどうかはどれだけ真摯に研究に取り組んでいるかによると思います。上手くいかない結果が続いても、焦らずに1つ1つの実験を大切にしていけば、いずれチャンスを掴むことができるのではないでしょうか。

 

研究者の略歴

名前:中山 弘貴(なかやま ひろき)

所属:千葉大学大学院医学薬学府 薬化学研究室(根本研究室) 博士後期課程3年
研究テーマ:銀カルベノイドを用いたフェノール類の不斉脱芳香族化反応の開発と天然物合成への応用

略歴
2013年3月 千葉大学薬学部薬科学科卒業(濱田康正 教授)
2015年3月 千葉大学大学院医学薬学府総合薬品科学専攻修士課程修了(濱田康正 教授)
2015年4月―現在 千葉大学大学院医学薬学府先端創薬科学専攻博士後期課程(根本哲宏 教授)

関連記事

  1. 捏造のロジック 文部科学省研究公正局・二神冴希
  2. ホウ素と窒素で何を運ぶ?
  3. MOFはイオンのふるい~リチウム-硫黄電池への応用事例~
  4. 進撃のタイプウェル
  5. アメリカで Ph. D. を取る –研究室に訪問するの巻–
  6. インドールの触媒的不斉ヒドロホウ素化反応の開発
  7. Kindle Paperwhiteで自炊教科書を読んでみた
  8. 2002年ノーベル化学賞『生体高分子の画期的分析手法の開発』

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 大学発ベンチャー「アンジェスMG」イオン液体使った核酸医薬臨床試験開始
  2. 第29回 適応システムの創製を目指したペプチドナノ化学 ― Rein Ulijn教授
  3. クライン・プレログ表記法 Klyne-Prelog Nomenclature System
  4. 演習で学ぶ有機反応機構―大学院入試から最先端まで
  5. 細胞の分子生物学/Molecular Biology of the Cell
  6. P-キラルホスフィンの合成 Synthesis of P-chirogenic Phosphine
  7. ペンタフルオロスルファニル化合物
  8. 近傍PCET戦略でアルコキシラジカルを生成する
  9. ケイ素置換gem-二クロムメタン錯体の反応性と触媒作用
  10. よくわかる最新元素の基本と仕組み

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

“かぼちゃ分子”内で分子内Diels–Alder反応

環状水溶性ホスト分子であるククルビットウリルを用いて生体内酵素Diels–Alderaseの活性を模…

トーマス・レクタ Thomas Lectka

トーマス・レクタ (Thomas Lectka、19xx年xx月x日(デトロイト生)-)は、米国の有…

有機合成化学協会誌2017年12月号:四ヨウ化チタン・高機能金属ナノクラスター・ジシリルベンゼン・超分子タンパク質・マンノペプチマイシンアグリコン

2017年も残すところあとわずかですね。みなさまにとって2017年はどのような年でしたでしょうか。…

イミデートラジカルを経由するアルコールのβ位選択的C-Hアミノ化反応

オハイオ州立大学・David A. Nagibらは、脂肪族アルコールのラジカル関与型β位選択的C(s…

翻訳アルゴリズムで化学反応を予測、IBMの研究者が発表

有機化学を原子や分子ではなく、単語や文と考えることで、人工知能(AI)アルゴリズムを用いて化学反応を…

細胞をつなぐ秘密の輸送路

細胞から細く長く伸びるワイヤー状の管。サイトネームやトンネルナノチューブと呼ばれるこの管は、離れた細…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP