[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

アミドをエステルに変化させる触媒

アミドはタンパク質のアミノ酸をつなぐ重要な結合様式であり、天然物や医薬品においてもよくみられる官能基です。アミノ基上の窒素原子の非共有電子対がカルボニル基と共役することで、アミドの炭素–窒素結合は二重結合性を獲得し、求核剤に対して高い安定性を示すことが知られています(図 1a)。そのため、アミドの炭素–窒素結合の切断は困難です。

生物は細胞機能の制御やタンパク質の分解のため特定のアミド結合(ペプチド結合)の切断を行いますが、この切断は、生体内のプロテアーゼを触媒とし、温和な条件(体温、ほぼ中性)で進行します。一方、合成化学においては、一般的に強酸や強塩基、高温などの激しい反応条件を必要とするのが常識です(図 1b)。

2015-10-16_02-59-11

図1 アミドの反応性

 

安定なアミド結合をどーにかして変換するためには、あるトリックを使えば可能となります。具体的な例は示しませんが、アミドを強制的にねじって共役をきってみたり、アミドのカルボニルをより活性化するために、金属がうまく配位できるような置換基を窒素上に導入してみたり。そのようなトリックを使わなければ、やっぱりアミドは安定です。大事なことなのでもう一度いいますが常識です

最近その常識を覆すような反応が最近報告されました。米国カリフォルニア州立大学のHoukGargらは強酸、強塩基をもちいない温和な条件でのアミドのエステル化反応を開発したのです。

 

“Conversion of amides to esters by the nickel-catalysed activation of amide C–N bonds”

Hie, L.; Fine Nathel, N. F.; Shah, T. K.; Baker, E. L.; Hong, X.; Yang, Y.-F.; Liu, P.; Houk, K. N.; Garg, N. K.;Nature2015, 524, 79.

DOI: 10.1038/nature14615

 

ではどのようにアミド結合を切断(活性化)したのでしょうか?みていきましょう。

 

アミド結合を活性化する

著者らは、アミドの炭素–窒素結合(C–N結合)を遷移金属触媒で活性化することで、エステル化反応を進行させようと考えました。すなわち、C–N結合が遷移金属触媒に酸化的付加した活性種2に対して、求核剤を作用させることでカルボニル基に求核剤が付加した化合物3とアミン4が得られると想定しました(図 2a)。

検討の結果、遷移金属触媒にフェノール誘導体[1]やアニリン誘導体[2]などの強固な炭素–ヘテロ原子結合の活性化が可能であるニッケル触媒を、求核剤はアルコールを用いることでアミドからエステルへの変換反応を可能としたのです(図 2b)。

 

2015-10-16_03-09-36

図2 アミド結合の遷移金属触媒による活性化

 

基質適用範囲

本反応は芳香族アミドに限られますが、芳香族上の置換基は電子求引基、供与基に関わらず適用可能であり、ヘテロ芳香族アミドに対しても反応は問題なく進行します。窒素上の置換基は、アルキル基のみでは反応は起こらず、フェニル基や電子求引性の置換基がある場合に反応は進行します(図 3a)。求核剤は、嵩高いアルコールや糖のような複雑なアルコールも適用できます(図 3b)。アミドとエステルが共存し、不斉点をもつ化合物もアミドが選択的にエステル化され、脱離したアミノ酸誘導体のエナンチオ過剰率も保持されるようです (図 3c)。

2015-10-16_03-10-19

図3 ニッケル触媒を用いたアミドのエステル化反応

 

反応機構について

推定反応機構を図4に示します。初めに触媒1のNHC配位子が一つ解離し、芳香族アミドの芳香環が1に配位することで中間体2を形成します。続いて、ニッケルにC–N結合の酸化的付加が起こり、3を経て配位子交換により中間体4となります。ニッケルの還元的脱離により中間体5を形成した後に、生成物の解離とともに触媒1が再生することで触媒サイクルは完結します 。

 

2015-10-16_03-10-53

図4 触媒サイクル

 

また、本反応機構において、1) 律速段階は酸化的付加であること 2) 反応全体の自由エネルギー変化は負となり、反応の進行を熱力学的に支持することをDFT計算により明らかとしています。

 

まとめ

今回著者らは、遷移金属触媒によるアミドの直接的なC–N結合の活性化にはじめて成功しました[3]。本反応により、アミドは変換しうる官能基としてみなすことができ、合成戦略の幅が拡がります。今回はアミドのエステル化の報告ですが、例えば、用いる求核剤を変えたり、脱カルボニル化反応[4]により、アミドを様々な官能基に変換できる可能性があります。結合活性化研究の未来とそれを実現させる優れた配位子および触媒の登場が楽しみですね。

 

参考文献

  1. Rosen, B. M.; Quasdorf, K. W.; Wilson, D. A.; Zhang, N.; Resmerita, A.-M.; Garg, N. K.; Percec, V. Rev. 2011, 111, 1346. DOI: 10.1021/cr100259t
  2. Tobisu, M.; Nakamura, K.; Chatani, N. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 5587. DOI: 10.1021/ja501649a
  3. Ouyang, K.; Hao, W.; Zhang, W.-X.; Xi, Z. Rev. 2015. ASAP. DOI: 10.1021/acs.chemrev.5b00386
  4. Amaike, K.; Muto, K.; Yamaguchi, J.; Itami, K. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 13573. DOI: 10.1021/ja306062c

 

The following two tabs change content below.
bona
愛知で化学を教えています。よろしくお願いします。
bona

最新記事 by bona (全て見る)

関連記事

  1. 神経細胞の伸長方向を光で操る
  2. Chemistry on Thanksgiving Day
  3. 【追悼企画】不斉酸化反応のフロンティアー香月 勗
  4. その反応を冠する者の名は
  5. BASF150年の歩みー特製ヒストリーブックプレゼント!
  6. 有機レドックスフロー電池 (ORFB)の新展開:高分子を活物質に…
  7. 天然有機化合物のNMRデータベース「CH-NMR-NP」
  8. 「ELEMENT GIRLS 元素周期 ~聴いて萌えちゃう化学の…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ケミカルジェネティクス chemical genetics
  2. 還元された酸化グラフェン(その1)
  3. ブラッドリー・ムーアBradley Moore
  4. ピーターソンオレフィン化 Peterson Olefination
  5. ビシナルジハライドテルペノイドの高効率全合成
  6. ガーナーアルデヒド Garner’s Aldehyde
  7. クルト・ヴュートリッヒ Kurt Wüthrich
  8. 液体キセノン検出器
  9. グラファイト、グラフェン、ナノグラフェンの構造と電子・磁気機能【終了】
  10. ショウガに含まれる辛味成分

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

触媒のチカラで拓く位置選択的シクロプロパン合成

嵩高いコバルト錯体を触媒として用いた位置選択的Simmons–Smith型モノシクロプロパン化反応が…

「原子」が見えた! なんと一眼レフで撮影に成功

An Oxford University student who captured an image…

2018年3月2日:ケムステ主催「化学系学生対象 企業合同説明会」

2月も後半となり、3月1日の就活解禁に向けて、2019年卒業予定の学生のみなさんは、就活モードが本格…

高専シンポジウム in KOBE に参加しました –その 2: 牛の尿で発電!? 卵殻膜を用いた燃料電池–

1 月 27 日に開催された第 23 回 高専シンポジウム in KOBE の参加報告の後編です。前…

化学探偵Mr.キュリー7

昨年3月からついに職業作家となった、化学小説家喜多喜久氏。その代表作である「化学探偵Mr.キュリー」…

き裂を高速で修復する自己治癒材料

第139回目のスポットライトリサーチは、物質・材料研究機構(NIMS) 構造材料研究拠点 長田 俊郎…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP