[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

光誘導アシルラジカルのミニスキ型ヒドロキシアルキル化反応

[スポンサーリンク]

可視光照射条件下でのアジン類のミニスキ型ヒドロキシアルキル化反応が開発された。官能基許容性が高いため、医薬品や天然物の合成への応用が期待される。

ミニスキ反応の進展

N–ヘテロ環化合物は天然物や医薬品に頻出する重要骨格である[1]。そのため、これらの直接官能基化反応は盛んに研究されている。例えばN–ヘテロ芳香族化合物のC–H官能基化反応として1971年に報告されたミニスキ反応が知られる(図1A)[2]。触媒に硝酸銀を、共酸化剤として過硫酸塩を用いることで、脱炭酸を伴いカルボン酸からアルキルラジカル、a-ケト酸からはアシルラジカルが生じる。この求核性の炭素ラジカルがプロトン化された求電子性N-ヘテロ環化合物(主にアジン類)へ付加し、芳香族置換反応が進行する。
近年ではより穏和な条件で炭素ラジカルを生成させる、ミニスキ型反応が報告されている。2010年、Baranらはラジカル前駆体としてアリールボロン酸を用いることで、室温・空気下で進行するミニスキ型C–Hアリール化反応を報告した(図1B)[3]。一方でMacMillanらは光触媒存在下、可視光の照射によりオキシアルキルラジカルを生成させ、アジン類のミニスキ型α–オキシアルキル化反応を開発している(図1C)[4]。しかし、いずれの条件においてもラジカルの生成や付加反応後の再芳香族化のために酸化剤が必要不可欠であり、基質の制限は避けられなかった。
以前、カタルーニャ化学研究所(ICIQ)のMelchiorreらは、acyl-DHP誘導体1を可視光により励起することでアシルラジカルが生成することを報告した[5]。今回、このラジカル生成法を応用し、アジン類とのミニスキ型ヒドロキシアルキル化反応が進行することを見出した。

図1. (A) ミニスキ反応、 (B) アリールボロン酸を用いたアリール化反応、(C) 光触媒を用いたオキシアルキル化反応、(D) 本論文の反応

 

“Photochemical C–H Hydroxyalkylation of Quinolines and Isoquinolines
Bieszczad, B.; Perego, L. A.; Melchiorre, P.Angew. Chem., Int. Ed. 2019, Early View.
DOI: 10.1002/anie.201910641

論文著者の紹介


研究者:Paolo Melchiorre 
研究者の経歴:
-1999 BSc, University of Bologna, Italy (Prof. P.G. Cozzi)
1999-2003 Ph.D., University of Bologna, Italy (Prof. P.G. Cozzi)
2006-2007 Postdoc., University of Bologna, Italy (Prof. G. Bartoli)
2007-2009 Assistant Professor, at University of Bologna, Italy
2009- Professor and Group Leader, Institute of Chemical Research of Catalonia (ICIQ), Spain
研究内容:光駆動型有機触媒を用いる不斉合成法の開発

論文の概要

本反応は、acyl-DHP誘導体1およびアジン2をアセトニトリル溶媒中TFA存在下、青色LEDを照射することで、ヒドロキシアルキル化体3を与える(図2A)。

2にキノリンを用いた場合には2、4位、イソキノリンを用いた場合には1位にヒドロキシアルキル化が進行する。本反応のacyl-DHP誘導体1には、芳香環の4位にハロゲン(3a)、トリフルオロメチル基(3b)、アミド(3c)をもつ化合物が適用できる(図2B)。また、芳香環のみならずシクロヘキシル基(3d)をもつ1を用いても反応が進行する。アジン2の官能基許容性は高く、酸化剤存在下では適用できない一級アルコール(3e)やアミン(3f)をもつ化合物や、医薬品(3g)にも適用可能である。
本反応は1)1への青色LED照射による1*の生成、続く一電子還元を伴うラジカルカチオンの生成、2)ラジカルカチオンの分解によるアシルラジカル4の生成、3)プロトン化され求電子性が向上したアジン5への付加、4)中間体6のスピン中心移動、5)7の一電子還元、プロトン化による3の生成、という機構で進行すると推定されている(図2C)。

本反応の鍵は、acyl-DHP誘導体1がアシルラジカルの放出後に生じるPyr-H·とPyr-H+による電子シャトル形成、およびアシルラジカルがアジン類に付加した後に起こるスピン中心移動(SCS: Spin Center Shift)である。

図2. (A) 最適条件、(B) 基質適用範囲、(C) 推定反応機構

 

以上、acyl-DHP誘導体の光励起により生じるアシルラジカルを用いた、キノリンおよびイソキノリンのミニスキ型ヒドロキシアルキル化反応が開発された。医薬品や天然物の効率的合成および誘導化への本反応の貢献に期待したい。

 参考文献

  1. Vitaku, E.; Smith, D. T.; Njardarson, J. T. Analysis of the Structural Diversity, Substitution Patterns, and Frequency of Nitrogen Heterocycles among U.S. FDA Approved Pharmaceuticals. J. Med. Chem.2014, 57, 10257–10274. DOI: 10.1021/jm501100b
  2. Minisci, F.; Bernardi, R.; Bertini, F.; Galli, R.; Perchinummo, M. Nucleophilic Character of Alkyl Radicals–VI: A New Convenient Selective Alkylation of Heteroaromatic Bases. Tetrahedron 1971, 27, 3575–3579. DOI: 1016/S0040-4020(01)97768-3
  3. Seiple, L. B.; Su, S.; Rodriguez, R. O.; Gianatassio, R.; Fujiwara, Y.; Sobel, A. L.; P. S. Direct C–H Arylation of Electron-Deficient Heterocycles with Arylboronic Acids.J. Am. Chem. Soc.2010, 132, 13194–13196.DOI:10.1021/ja1066459
  4. Jin, J.; MacMillan, D. W. C. Direct a-Arylation of Ethers through the Combination of Photoredox-Mediated C–H Functionalization and the Minisci Reaction. Angew. Chem., Int. Ed.2015,54, 1565–1569. DOI: 10.1002/anie.201410432
  5. Goti, G.; Bieszczad, B.; Vega-Peñaloza, A.; Melchiorre, P. Stereocontrolled Synthesis of 1,4-Dicarbonyl Compounds by Photochemical Organocatalytic Acyl Radical Addition to Enals. Angew. Chem., Int. Ed. 2019, 58, 1213–1217. DOI: 10.1002/anie.201810798

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. マテリアルズ・インフォマティクスに欠かせないデータ整理の進め方と…
  2. 2012年分子生物学会/生化学会 ケムステキャンペーン
  3. ポンコツ博士の海外奮闘録⑩ 〜博士,中和する〜
  4. 第16回次世代を担う有機化学シンポジウム
  5. ゲルのやわらかさの秘密:「負のエネルギー弾性」を発見
  6. 第25回 名古屋メダルセミナー The 25th Nagoya …
  7. 「銅触媒を用いた不斉ヒドロアミノ化反応の開発」-MIT Buch…
  8. 質量分析で使うRMS errorって?

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 元素川柳コンテスト募集中!
  2. Baird芳香族性、初のエネルギー論
  3. GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)
  4. 「文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり」シリーズ
  5. 日本科学未来館
  6. エステルを使った新しいカップリング反応
  7. 第13回ケムステVシンポジウム「創薬化学最前線」を開催します!
  8. ケムステタイムトラベル2010 ~今こそ昔の記事を見てみよう~
  9. 室内照明で部屋をきれいに 汚れ防ぐ物質「光触媒」を高度化
  10. リンを光誘起!σ-ホールでクロス求電子剤C–PIIIカップリング反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年11月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

5/15(水)Zoom開催 【旭化成 人事担当者が語る!】2026年卒 化学系学生向け就活スタート講座

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。化学業界・研究職でのキャリ…

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP