[スポンサーリンク]

化学一般

炭素文明論「元素の王者」が歴史を動かす

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4106037327″ locale=”JP” title=”炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (新潮選書)”]

 

概要

人類の歴史は”炭素”の争奪戦であるというのが本書の主題である。

化学に関係の薄い一般読者

 

解説

もう既に様々な媒体で高い評価を受けている本書であるが、最近読み返してみたのでここで概説したい。

なるほど文明が興るのは食料を安定的に確保できるようになったからであり、戦争とはイデオロギーの対立よりも資源(古くはやはり食料)を巡る争いであるというのは歴史が証明している。ここで食料とは狩猟の時代から農耕の時代に変わった時からはデンプンが中心であり、現代では資源と言えば石油が真っ先に思いつく。それらは炭素の化合物に他ならない。その他にも香辛料の確保の為に大航海時代が幕を開けたこと、タバコ(ニコチン)、茶(カフェイン)、酒(エタノール)などの嗜好品が人類史を大きく動かしたことなどは明らかであり、やはりここでも炭素をめぐる冨の争奪があったことは想像に難くなく、著者の主張にはうなずける部分が多い。

この手の歴史を動かしたのは・・・なる書と言えば、シャレド・ダイヤモンド著「銃・病原菌・鉄」がある。「銃・病原菌・鉄」は主にヨーロッパが栄えたのは何故かという視点、すなわち南北米大陸やアジアをヨーロッパが蹂躙せしめた要因はどこにあったのかを詳細に述べた大書であるが、著者のダイヤモンド氏の専門とは少し離れた分野であるせいか、やや情報の正確性や結論の飛躍が散見される。しかし、佐藤氏はもともと有機化学が専門であったことから、本書の内容は一般向けに丁寧に化学について説明されており、専門家でなくても容易に理解が進むことであろう。個々の物品例えば酒と人類史のようなテーマの書は数多くあるが、その中心となる物質から説明に入る語り口は有機化学者ならではのオリジナリティがある。

ただ「炭素文明論」というタイトルはいささかエキセントリック過ぎる感があり、文明の勃興や衰退の原因が炭素にあるという壮大な人類史に関する内容を期待して手にすると少し肩すかしをくうかもしれない。名著「ゼロリスク社会の罠 「怖い」が判断を狂わせる」よりも一段高いところからの視点であるが故に致し方ないところか。

また、窒素に関する項は確かに人類史と化学が密接に関わっているので興味深いのだが、本書では主題から大きく外れてしまうのでなくてもよかったかのように思う。

いずれにしても本書は化学、特に有機化合物と人類史の密接な関係を解く野心的な著作であり、化学の専門家ではない読者にこそ勧めたい名著である。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4334037062″ locale=”JP” title=”「ゼロリスク社会」の罠 「怖い」が判断を狂わせる (光文社新書)”] [amazonjs asin=”486313195X” locale=”JP” title=”ナショナルジオグラフィック プロの撮り方 露出を極める (ナショナル・ジオグラフィック)”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 切磋琢磨するアメリカの科学者たち―米国アカデミアと競争的資金の申…
  2. SDGsと化学: 元素循環からのアプローチ
  3. The Art of Problem Solving in Or…
  4. 日本にノーベル賞が来る理由
  5. アルカロイドの科学 生物活性を生みだす物質の探索から創薬の実際ま…
  6. 【書籍】機器分析ハンドブック3 固体・表面分析編
  7. ステファン・カスケル Stefan Kaskel
  8. Classics in Total Synthesis

注目情報

ピックアップ記事

  1. 米デュポン株、来年急上昇する可能性
  2. as well asの使い方
  3. 有機合成化学協会誌2018年12月号:シアリダーゼ・Brook転位・末端選択的酸化・キサンテン・ヨウ素反応剤・ニッケル触媒・Edoxaban中間体・逆電子要請型[4+2]環化付加
  4. GoogleがVRラボを提供 / VRで化学の得点を競うシミュレーションゲーム
  5. ブラン・ウレー クロロアルキル化 Blanc-Quellet Chloroalkylation
  6. 男性研究者、育休を取る。
  7. 実験メガネを15種類試してみた
  8. 特許の基礎知識(2)「発明」って何?
  9. ジフェニルオクタテトラエン (1,8-diphenyl-1,3,5,7-octatetraene)
  10. 第52回―「多孔性液体と固体の化学」Stuart James教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年3月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP