[スポンサーリンク]

化学一般

炭素文明論「元素の王者」が歴史を動かす

 

概要

人類の歴史は”炭素”の争奪戦であるというのが本書の主題である。

化学に関係の薄い一般読者

 

解説

もう既に様々な媒体で高い評価を受けている本書であるが、最近読み返してみたのでここで概説したい。

なるほど文明が興るのは食料を安定的に確保できるようになったからであり、戦争とはイデオロギーの対立よりも資源(古くはやはり食料)を巡る争いであるというのは歴史が証明している。ここで食料とは狩猟の時代から農耕の時代に変わった時からはデンプンが中心であり、現代では資源と言えば石油が真っ先に思いつく。それらは炭素の化合物に他ならない。その他にも香辛料の確保の為に大航海時代が幕を開けたこと、タバコ(ニコチン)、茶(カフェイン)、酒(エタノール)などの嗜好品が人類史を大きく動かしたことなどは明らかであり、やはりここでも炭素をめぐる冨の争奪があったことは想像に難くなく、著者の主張にはうなずける部分が多い。

この手の歴史を動かしたのは・・・なる書と言えば、シャレド・ダイヤモンド著「銃・病原菌・鉄」がある。「銃・病原菌・鉄」は主にヨーロッパが栄えたのは何故かという視点、すなわち南北米大陸やアジアをヨーロッパが蹂躙せしめた要因はどこにあったのかを詳細に述べた大書であるが、著者のダイヤモンド氏の専門とは少し離れた分野であるせいか、やや情報の正確性や結論の飛躍が散見される。しかし、佐藤氏はもともと有機化学が専門であったことから、本書の内容は一般向けに丁寧に化学について説明されており、専門家でなくても容易に理解が進むことであろう。個々の物品例えば酒と人類史のようなテーマの書は数多くあるが、その中心となる物質から説明に入る語り口は有機化学者ならではのオリジナリティがある。

ただ「炭素文明論」というタイトルはいささかエキセントリック過ぎる感があり、文明の勃興や衰退の原因が炭素にあるという壮大な人類史に関する内容を期待して手にすると少し肩すかしをくうかもしれない。名著「ゼロリスク社会の罠 「怖い」が判断を狂わせる」よりも一段高いところからの視点であるが故に致し方ないところか。

また、窒素に関する項は確かに人類史と化学が密接に関わっているので興味深いのだが、本書では主題から大きく外れてしまうのでなくてもよかったかのように思う。

いずれにしても本書は化学、特に有機化合物と人類史の密接な関係を解く野心的な著作であり、化学の専門家ではない読者にこそ勧めたい名著である。

 

関連書籍

The following two tabs change content below.
ペリプラノン

ペリプラノン

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。
ペリプラノン

最新記事 by ペリプラノン (全て見る)

関連記事

  1. 生涯最高の失敗
  2. 大村 智 Satoshi Omura
  3. Purification of Laboratory Chemi…
  4. 理系のための就活ガイド
  5. 有機化学の理論―学生の質問に答えるノート
  6. 有機反応機構の書き方
  7. 2009年8月人気化学書籍ランキング
  8. 2009年6月人気化学書籍ランキング

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 二酸化炭素 (carbon dioxide)
  2. コーリー・バクシ・柴田還元 Corey-Bakshi-Shibata (CBS) Reduction
  3. アジサイから薬ができる
  4. ナトリウムトリス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボロヒドリド:Sodium Tris(1,1,1,3,3,3-hexafluoroisopropoxy)borohydride
  5. 100円で買えるカーボンナノチューブ
  6. たばこと塩の博物館
  7. 香月 勗 Tsutomu Katsuki
  8. ヤマハ発動機、サプリメントメーカーなど向けにアスタキサンチンの原料を供給するビジネスを開始
  9. 生物活性分子のケミカルバイオロジー
  10. 「不斉化学」の研究でイタリア化学会主催の国際賞を受賞-東理大硤合教授-

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

NMRの基礎知識【測定・解析編】

本シリーズでは、NMRの原理から実例までをできるだけ分かりやすくご紹介したいと思います。前回の【原理…

「人工知能時代」と人間の仕事

デジタル技術の進歩は著しく、特に、人工知能(AI)と呼ばれる機械学習システムの進歩は、世界の労働者の…

特定の刺激でタンパク質放出速度を制御できるスマート超分子ヒドロゲルの開発

第134回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 工学研究科 合成·生物化学専攻 浜地研究室の重…

有機合成化学協会誌2018年1月号:光学活性イミダゾリジン含有ピンサー金属錯体・直截カルコゲン化・インジウム触媒・曲面π構造・タンパク質チオエステル合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年1月号が昨日オンライン公開されました。…

アミン化合物をワンポットで簡便に合成 -新規還元的アミノ化触媒-:関東化学

アミン化合物は医薬品、農薬などの生理活性物質をはじめ、ポリマーなどの工業材料に至るまで様々な化学物質…

独自の有機不斉触媒反応を用いた (—)-himalensine Aの全合成

近年単離されたアルカロイド(—)-himalensine Aの全合成に初めて成功した。独自開発した二…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP