[スポンサーリンク]

一般的な話題

特許の基礎知識(2)「発明」って何?

[スポンサーリンク]

特許法では、「発明」に対して特許権が与えられ、特定の人(個人や企業)がその発明を独占的に使えるようになっています。

では、「発明」とは何なのでしょうか?

前回の記事では、発明を「有用な技術」などと記載しました。これで間違っているわけではないのですが、本記事では少し詳しく、発明というものの「定義」について説明したいと思います。

そして、どのような技術が発明に該当するのか・しないのかを、化学の事例を交えて紹介したいと思います。

特許法での「発明」の定義

「発明」は、特許法では以下のように定義されています。

’この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。’

???

法律の条文を見て「なんのこっちゃ?」と思うかもしれませんが、重要なのは以下の2つです。

(1)「自然法則」を「利用している」こと

(2)「創作」であること(≒新しいこと)

これら(1)(2)両方に当てはまるものは発明、片方だけでも当てはまらないものは非・発明ということになります。

以下、化学や物理の分野では、どんなものが発明に該当するのか・しないのかを考えたいと思います。

 

発明に該当するもの

[新規化合物、新規材料]

これらは、明らかに「発明」に該当します。

そもそも化学は、物理化学の法則(熱力学、量子力学、統計力学)を土台としていますので、自然法則を利用しています。また、「新規な」化合物や材料を創ったということは、「創作」をした、ということになります。

 

[化合物の配合、組合せ(組成物)]

既知の化合物を絶妙に配合して(組合せて)有用なものを創った場合も、発明になります。例えば、塗料は、樹脂、色素、硬化剤、揮発性溶剤などを含み、1つ1つの成分は既知なことが多いですが、各成分を絶妙に組合せることで、性能アップすることがあります。

このような発明を、特許の分野では「組成物発明」といいます。

 

[既知の物質の新たな用途への適用]

これまで有用性が不明だった既知の物質について、例えば医薬品として効くことを見出した場合、新たな「使い道、用途」を創出したと言え、発明に該当します。

 

[合成方法、製造方法]

収率を高める新たな反応条件を見出した、10工程必要だったものを5工程にした、混ぜ方を工夫することで不純物が劇的に少なくなった、製造条件をちょっと変えると特性が大幅改善した・・・等、化合物や材料の製造方法の工夫も、立派な「発明」になります。

 

[測定方法、制御方法]

微量成分の分析法、物性の評価方法、過熱を抑える制御方法、化合物の分解を抑える保管方法、なども「発明」に該当します。

 

[装置、器具]

大きなところでは化学プラント、また、実験室にある各種の装置・器具なども、創意工夫により改良したものは「発明」になります。

 

発明に該当しないもの

[自然法則そのもの]

エネルギー保存則、熱力学第二法則などは、自然法則「そのもの」であり、自然法則を「利用」していませんから、特許法上の「発明」に該当せず、特許を取ることはできません。

もし貴方が世界で最初にエネルギー保存則や熱力学第二法則を定式化したならば、それはノーベル賞ものですが、それら法則は「発明」にはならないため、それを特許として独占することはできません。

化学の分野には多くの「◯◯則」と呼ばれる法則があり、特に基礎研究に携わる方の中には新たな◯◯則を定式化しようと日々奮闘されている方もいらっしゃると思います。しかし、◯◯則自体は発明にはならず、よって特許を取ることはできません(念の為述べておきますが、「発明」になるかならないかと、学術的価値とは全く関係ありません)。

 

[反応機構の解明]

触媒反応などの反応機構を解明することは、化学研究の重要な部分を占めます。しかし、反応機構の解明は、通常は「この世に既に存在する」化学反応の経路を解明するものであり、新たな「創作」がなされるものではないため、「発明」にはなりません(これも念の為述べておきますが、発明になるかならないかと、学術的価値は、基本的に無関係です)。

なお、反応機構の解明の結果、例えば触媒の新たな設計指針を得て、実際に新しい高活性触媒を設計できた場合には、その新しい触媒は「発明」になります。新たな触媒を「創作」しているためです。

 

[天然物]

天然物を、単に「発見」しただけだと、やはり、新たな「創作」とは言えず、発明には該当しません。

ただし、天然物から人為的に単離した化学物質や微生物などは、単離することにより自然とは異なったものを「創作」したと考えられるため、発明に該当します。

 

[データベース]

化合物や文献のデータベースは、極論すると「情報の集積」であり、「創作」ではありませんので、発明にはなりません。

ただし、独自の創意工夫により、検索性を高めていたり、検索+αの機能があったりする場合には、その部分については「プログラム」の発明として特許が取れる場合があります。また、検索可能なデータベースは、通常、著作権により保護されます。発明はならない(=特許は取れない)ですが、別の権利で保護を受けられるようになっています。

 

[合成テクニック]

あの人が合成するとなぜか収率が良い…ということがありますが、そういう「個人的技能」は、客観的に第三者に伝えられる「技術的思想」とは言えないため、通常、発明にはなりません。

ちなみに、特許庁が発明に該当しないと示している例に「フォークボールの投げ方」があります。合成テクニックとフォークボールの投げ方に共通性を感じるのは私だけでしょうか。

 

余談

最近のAI(人工知能)の潮流は、化学研究へも波及しています。そのうち(すでに?)AIが、新規化合物などを自律的に設計する、つまり、AIが’発明’をすることになるかもしれません。

しかし、AIが自律的に生み出した’発明’が、特許法上の「発明」として特許を取れるようにすべきかについては、様々な議論があり、実はまだ定まっていません。

(ちなみに、人間が主体で、AIをあくまで道具として使って発明をした場合は、通常、発明に該当します。)

AIの興隆は、伝統的な「発明」の定義をも変えるかもしれません。

 

参考文献

特許庁 特許・実用新案審査基準「発明該当性及び産業上の利用可能性」

 

関連書籍

 

P.A.

P.A.

投稿者の記事一覧

弁理士。都内特許事務所で化学・材料系メーカの特許出願等を担当。
特許という側面から日本の化学を盛り上げたいと考えています。

関連記事

  1. 元素占いはいかが?
  2. 有機合成化学協会誌2019年11月号:英文版特集号
  3. 有機合成化学協会誌2017年9月号:キラルケイ素・触媒反応・生体…
  4. 芳香族フッ素化合物の新規汎用合成法
  5. 水入りフラーレンの合成
  6. アメリカで Ph.D. を取る –結果発表ーッの巻–
  7. 茨城の女子高生が快挙!
  8. 科学を理解しようとしない人に科学を語ることに意味はあるのか?

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. BO triple bond
  2. 英会話イメージリンク習得法―英会話教室に行く前に身につけておきたいネイティブ発想
  3. MFCA -環境調和の指標、負のコストの見える化-
  4. 第二回 伊丹健一郎教授ー合成化学はひとつである
  5. かぶれたTシャツ、原因は塩化ジデシルジメチルアンモニウム
  6. エッシェンモーザーカップリング Eschenmoser Coupling
  7. CTCLS、製薬業界向けに医薬品の探索研究に特化した電子実験ノートブックを販売
  8. CO2の資源利用を目指した新たなプラスチック合成法
  9. 第98回日本化学会春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part III
  10. 向山酸化 Mukaiyama Oxidation

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

天然物生合成経路および酵素反応機構の解析 –有機合成から生化学への挑戦–

ケムステ海外研究記の第 33 回はテキサス大学 Liu 研究室に留学されていた牛丸理一郎先生にお願い…

海外機関に訪問し、英語講演にチャレンジ!~③ いざ、機関訪問!~

海外学会のついでに近郊機関に訪問し、ディスカッションと英語講演にトライしてみよう!シリーズ記事です。…

サントリー生命科学研究者支援プログラム SunRiSE

サントリー生命科学財団は1月31日、生命科学分野の若手研究者に1人当たり研究費1千万円を5年間、計5…

コロナウイルスが免疫システムから逃れる方法(2)

前回の記事では、コロナウイルスの基礎知識とコロナウイルスが持つRNA分解酵素(EndoU)について述…

第79回―「高分子材料と流体の理論モデリング」Anna Balazs教授

第79回の海外化学者インタビューは、アンナ・バラズ教授です。ピッツバーグ大学 化学・石油工学科に在籍…

コロナウイルスが免疫システムから逃れる方法(1)

新型コロナウイルスによる感染症が、世界中で猛威を振るっています。この記事を書いている私も、大学の閉鎖…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP