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分析化学

【書籍】機器分析ハンドブック3 固体・表面分析編

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2021/3/31に刊行されたばかりのホットな書籍をご紹介します。

(↓kindle版)

概要

はじめて機器を使う学生にもわかるよう,代表的な分析機器の使い方を平易に解説したハンドブック.(引用;化学同人書籍紹介より)

題目の通り、無機化合物や金属材料の定性・定量分析や結晶構造の解析を念頭に、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)、蛍光X線分析法、電子顕微鏡(SEM, TEM, EPMA)をはじめとする代表的な機器分析手法をまとめた、初学者向けの教科書です。「基礎から学ぶ」ことを第一に考え、各々の機器分析法の原理・装置の概要・特徴から実際の操作方法に至るまでを丁寧に解説しています。表題には「固体・表面」と銘打っていますが、試料を溶解する方法、そうして調製した溶液を用いる分析手法についても数多く掲載されています。

同じく化学同人から1996年に刊行されている「第2版 機器分析のてびき」(https://www.kagakudojin.co.jp/book/b62819.html)の後継にあたる書籍で、時代の変遷による分析機器や分析手法の発展に対応した形となっています。基礎知識の解説に重点をおきながらも、他のテキストにはない実験のテクニックを満載している点が特色です。

対象者

「最新の分析機器では、試料をセットしてボタンを押せば、解析された定量値が自動的に表示されるものが多い。つまり、分析機器の中身が見えず、ブラックボックス化している。便利ではあるが、表示されたデータをどう解釈してどう取り扱うかは、ユーザー次第である。いったん分析結果が報告されるとデータは独り歩きするので、危険な面もある。よって、分析機器の原理、装置構成をよく理解しておくことが大切である。本書では、大学で学ぶ学部生、院生に加えて、企業の若手研究者や分析に携わる初心者を対象として、各分析法の原理、装置構成、分析値が与えられる仕組みをできるだけ丁寧に説明することを心掛けた。ゴン書の内容を理解していれば、得られた分析結果に対してどのような注意が必要かわかるはずである。」(本書まえがきより)

・・・

学生向けの機器分析の教科書は総じて、原理か解析のいずれかに偏重したものが多く、実践的な測定に臨むうえではやや心許ないものです。対して、各分析法の各論を記した書籍では複数の分析手法を俯瞰しにくく、目の前の課題にどのような方法を適用するか判断するうえで不便でもあります。その点、本書は無期刑の測定を行う上での基礎知識を過不足なく、バランスよく記載されており、研究室や企業ではじめて測定に臨む際には重宝すると思います。

目次

1 熱分析(執筆者:鈴木晴(近畿大学理工学部)、中野元裕(大阪大学大学院理学研究科))

1.1 はじめに
1.2 熱測定の基礎
1.3 熱重量分析(TGA)
1.4 示差熱分析(DGA)と示差走査熱量分析(DSC)
1.5 おわりに

2 試料準備1 固体試料の溶解(執筆者:南秀明((地独)京都市産業技術研究所金属系チーム))

2.1 はじめに
2.2 器具と試薬
2.3 試料溶液の調製(分解法)
2.4 試料溶液の調製(融解法)
2.5 おわりに

3 試料準備2 分離操作(執筆者:加賀谷重浩(富山大学学術研究部工学系、井上嘉則(富山大学工学部)))

3.1 はじめに
3.2 液液抽出法
3.3 固相抽出法
3.4 共沈法
3.5 その他の方法
3.6 おわりに

4 原子吸光分析法(執筆者:今井昭光(徳島大学大学院創成科学研究所))

4.1 はじめに
4.2 原理
4.3 測定可能元素
4.4 装置の概要
4.5 測光データの処理
4.6 共存物質の干渉と抑制
4.7 分析操作
4.8 試薬類、器具・環境の汚染対策
4.9 前処理
4.10 測定結果の見方と解析方法
4.11 おわりに

5 誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)・質量分析法(ICP-MS)(執筆者:千葉光一(関西学院大学理工学部))

5.1 はじめに
5.2 誘導結合プラズマ(ICP)の特徴
5.3 ICP発光分析法
5.4 ICP質量分析法(ICP-MS)
5.5 測定上の注意―ICP原子スペクトル分析における干渉
5.6 おわりに

6 蛍光X線分析法(執筆者:辻幸一(大阪市立大学大学院工学研究科))

6.1 はじめに
6.2 蛍光X線の発生
6.3 蛍光X線分析で何がわかるか
6.4 蛍光X線分析の特徴
6.5 蛍光X線分析の分光方式
6.6 試料の準備
6.7 蛍光X線スペクトルの解釈
6.8 定量分析
6.9 いくつかのXRF装置の構成と利用例
6.10 おわりに

7 X線回折法(執筆者:井田隆(名古屋工業大学先進セラミックス研究センター))

7.1 はじめに
7.2 粉末X線回折測定装置のあらまし
7.3 粉末X線回折装置の取り扱い方
7.4 試料の調製
7.5 結果の解析

8 X線光電子分光法(執筆者:藤原学(龍谷大学先進理工学部))

8.1 はじめに
8.2 XPSの原理
8.3 XPS装置
8.4 XPS測定とデータ解析
8.5 おわりに

9 光学顕微鏡(執筆者:田中隆明(オリンパスナレッジセンター))

9.1 はじめに
9.2 金属顕微鏡の構成
9.3 金属顕微鏡の原理
9.4 基本の操作法
9.5 各種観察法の使い方と特徴
9.6 何が見えるか
9.7 おわりに

10 電子顕微鏡(TEM, SEM, EPMA)(執筆者:中野裕美(豊橋技術科学大学教育研究基盤センター))

10.1 はじめに
10.2 透過型電子顕微鏡
10.3 走査型電子顕微鏡
10.4 おわりに

11 プローブ顕微鏡(執筆者:小林圭(京都大学大学院工学研究科))

11.1 はじめに
11.2 SPMの原理
11.3 STMの原理
11.4 AFMの原理
11.5 カンチレバーの特性
11.6 フォースカーブ測定
11.7 摩擦力顕微鏡(FFM)
11.8 ダイナミックモード
11.9 ロックインアンプを用いた応用測定
11.10 SOM観察のコツ
11.11 おわりに

付録

付録1 試料溶解に用いられる試薬及びその溶解反応
付録2 無機元素分析のための各種試料の溶解例
付録3 特性X線のエネルギー
付録4 電子の結合エネルギー

感想

熱分析、原子吸光法、誘導結合プラズマ(ICP)、蛍光X線分析法、X線光電子分光法(XPS)、光学顕微鏡、電子顕微鏡(TEM, SEM, EPMA)、プローブ顕微鏡の各分析手法とその前段階としての試料調製法について、原理から装置の構造、分析と校正の手順、結果の解析、応用に至るまで、詳述されています。図表も多く、複雑な装置の仕組みや抽象的な概念についてもわかりやすく工夫が凝らされています。以下、代表的な章のあらましを簡潔にご紹介します。

第5章の誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法(OES)・質量分析法(MS)は分析化学の講義や実験で取り扱った経験のある方も多いかと思いますが、試料溶液中の元素の定性・定量を行う上ではもっとも有力な手法の一つです。本章ではその歴史やプラズマ温度と励起原子の割合の関係(Boltzmann分布)などの初歩的な原理から導入し、プラズマの発生方法、試料導入部の構造、試料とガスの流れなどの装置の構成を掘り下げ、様々な試料導入法とその長短を論じた上でクロマトグラフィーや質量分析(ICP-MS)への連結についても紹介しています。さらに、測定上の注意点として測定誤差につながる各種干渉現象について説明し、結果の妥当性の評価にも触れています。基本的な測定は本書の内容で十分満足できるものと思われます。

第6章の蛍光X線分析(XRF)では、モーズリーの見出した蛍光X線(とオージェ電子)の原理説明から入り、そこから得られる情報について説明しています。その上で、X線の分光方式をはじめとする装置構造、試料の調製法、定量分析の行い方、その他特殊な分析法についても紹介する構成となっています。

第10章の電子顕微鏡(TEM、SEM、EPMA)はかなり多岐にわたる内容構成です。まずTEM像から得られる情報、原理、試料調製法について述べ、ノーベル賞にも輝いたクライオ電子顕微鏡についても説明しています。また、アライメントとコントラストの調整、EDSやEELSによる元素マップの作製、電子線トモグラフィーでの3D像の構築についても紹介しています。続いてSEMについても原理、試料調製法から加速電圧の調整まで詳述されており、元素分析やEPMAについても触れられています。

・・・

私は企業に勤めてはじめて、無機化学・材料科学方面の測定に触れましたが、もっと早く、働き始めた頃に本書に出会っていればと感じられる良書でした。まず第一に、(第一巻、第二巻も含めた)本シリーズは一冊に掲載する内容の選定が非常によく考えられています。

例えば、元素分析に取り組むにあたって非破壊測定が必要であれば蛍光X線分析法を選択すべきですが、サンプルを溶解してもよいのであればICP-MSがもっとも精度・感度の高い手法となるでしょう。したがって、最初に蛍光X線分析で主要な構成元素と存在量を確定しておき、破壊分析が可能であることが判明次第ICPで微量元素の同定とより正確な定量を行うというアプローチが考えられます。そのような見地に立つと、本書のように複数の、直接関連のない分析手法を取り揃えて記載することには重要な意味があると思います。

また、そもそも現実の未知試料の分析、とりわけ定性分析においては、一つの分析法を試しておわり、ということは少なく、ICPや蛍光X線分析で構成元素が判明したらXPSで電子状態や価数を決定し、さらにXRDで結晶構造を、各種顕微鏡で表面構造を観察する、というように網羅的に分析法を試してみることもままあります。そのような側面からとらえると、本書に掲載されている項目は実によく練られているのではないかと思います。

これほどの内容の濃さがにもかかわらず、A5版でわずか200ページたらずに収まっているのも驚くべきことと思います。専門書籍は概して高額で学生にはなかなか手が届かないのが難点ですが、本書は定価¥2,310とこれだけの内容に比して良心的な価格設定ですので、ぜひお求めいただき、手に取ってご覧いただければと思います。

最後に

大学の研究室、あるいは企業等で新たに機器分析を行うにあたって、本書の内容を基礎事項として臨んでおくと、理解不足からの思わぬトラブルや手戻りは防げるのではないかと思います。本書のまえがきにも記されている通り、必要に応じてさらに詳しい書籍や総説をあたるのがよいのではないでしょうか。

また、本書には前編として、核磁気共鳴法(NMR)や赤外分光法(IR)をはじめ有機化合物(低分子)の分光分析をターゲットにした「機器分析ハンドブック 1 有機・分光分析編」、有機元素分析法や各種クロマトグラフィーなど分光分析以外の有機化合物の分析を主眼に置いた「機器分析ハンドブック 2 高分子・分離分析編」が出版されています。こちらもぜひご照覧ください。

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berg

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化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

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