[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

アルカロイドの科学 生物活性を生みだす物質の探索から創薬の実際まで

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4759814183″ locale=”JP” title=”アルカロイドの科学 生物活性を生みだす物質の探索から創薬の実際まで (DOJIN ACADEMIC SERIES)”]

概要

アルカロイドはその顕著な生物活性のため,さまざまな学問進展の「原動力」として注目され続け,医薬品開発の鍵化合物としても重要な役割を担っている.

本書は生薬学,天然物化学,有機合成化学,生化学,薬理学,毒性学,創薬化学,分析化学といった各分野におけるアルカロイドの基礎的な内容から最新の研究成果までを盛り込んだ待望の成書である.アルカロイドの研究体系とその広がりを俯瞰できる(引用:化学同人

対象

  • 有機化学者
  • 天然物化学者
  • 医薬品・ケミカルバイオロジー関係の研究者

内容

アルカロイドの書籍が出版されたという話を聞き、早速手に入れた。編者は「Dr.アルカロイド」(勝手に名付けました)である千葉大学高山廣光先生だ。高山先生は個人的に化学も然ることながら、人間的にもステキな先生である。アルカロイドファン?の一人として購入。

早速届いた書籍をみてみると、あれ?なんかこれめちゃくちゃ分厚くない?

比べるものがないとわからないので、マクマリー英語版と比べてみた。

 

なんとページ数は560ページもある。確かにアルカロイドのことを語れば、数千ページでも足りないくらいだが、ニッチな同人シリーズにおいても最多ページだ。目次もみてみると、これまた長い。第25章まである。ここに掲載するのを戸惑うぐらい長いので、目次はここをご覧あれ。

さて、中身について述べると、一言で言えば、「アルカロイド祭り」である。アルカロイドに関連する研究者がいい意味で好き勝手に自分のアルカロイド科学を語っている。

アルカロイドってなんぞや?というひとはケムステ読者にはあまりいないと思うが、広義には窒素を含む化合物のこと。遠い昔は植物から取られたアルカリ性を示す化合物をアルカリっぽい化合物でアルカロイドといったが、植物だけでなく、海洋や微生物や昆虫、動物そこらじゅうにある含窒素化合部物で、現在2万種以上の化合物が知られている。

知られている化合物で言えば、タバコのニコチンや、鎮痛剤であるモルヒネ、世の中にある危険度ドラッグもすべてアルカロイドあるが、「ほほう、それがアルカロイドか。」と思った人はこのへんで満足し、この書籍には手を出さないほうがよい。

もう一度いうが、そんな化合物群の天然からの単離や構造決定、合成、生合成、ケミカルバイオロジー、医薬品などなど有機化合物の構造満載の「アルカロイド祭り」なので、一般的にはまったく理解できないであろう。

「アルカロイド祭り」の書籍ページ例

 

この書籍が適している人は、こんな化合物群を手に取り研究し始めた研究者の卵(大学4年生〜大学院生以上)や、アルカイドに青春をかけようとする若者達だ。

洋書にはアルカイドの名著はたくさんあるが、ここまでたくさんアルカロイドづくしの日本語書籍はみたことがない。筆者もアルカロイド研究にどっぷり使っていた身であるので、知っている部分は多いものの、楽しく読むことができた。

中身に少し触れてみると、

アルカロイドは種々多様な構造を有していおり、それらを人工合成するアルカロイドの全合成の項もたくさんページ数を割いている。個人的にはほとんど知っている内容・研究者であったがまとめてみると大変勉強になる。折角なので、パラウアミンのようなピロールーイミダゾールアルカロイドの全合成も個人的にはぜひ取り上げてほしかった。

第19章ではアルカロイドに関わる医薬品がまとめて網羅されているのもよい。アルカロイドをリード化合物としてデザインされた医薬品の経緯についても記載されており、大変わかりやすい。

長瀬先生が執筆されている第20章「オピオイドのドラッグデザインと医薬品開発」はモルヒネなどに代表されるアルカロイド鎮痛薬の医薬品開発について述べている。メディシナルケミストリーの基礎であり、スムーズに読むことができた。

これ以外にも第25章に記載のある「危険ドラッグの分析化学」が面白かった。危険ドラッグの構造決定かと思いきや、危険ドラッグ内にある微量の異性体や副生成物について構造を決めている。純度が問題になることが多い危険ドラッグだが(もちろん本体もよろしくない)、その健康被害はこれら異性体や副生成物からくるものも多いという。それらの分析方法がなかなか参考になった。

以上、乱筆となるが、総じてアルカロイドマニアならばさらりと楽しく読める内容、そうでなくとも化合物の構造を理解できる人なら歴史あるアルカロイド科学を俯瞰することができる、良書であるといえる。値段が少し高いのが玉にキズであるが研究室に1冊ぜひ購入してみてみてはいかがだろうか。

関連書籍

[amazonjs asin=”0124173020″ locale=”JP” title=”Alkaloids: A Treasury of Poisons and Medicines”][amazonjs asin=”1461277566″ locale=”JP” title=”Alkaloids: Chemical and Biological Perspectives”]
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. The Art of Problem Solving in Or…
  2. Cyclopropanes in Organic Synthes…
  3. 炭素文明論「元素の王者」が歴史を動かす
  4. 立体電子効果―三次元の有機電子論
  5. できる研究者の論文生産術―どうすれば『たくさん』書けるのか
  6. 活性酸素・フリーラジカルの科学: 計測技術の新展開と広がる応用
  7. フタロシアニン-化学と機能-
  8. 理系のための口頭発表術

注目情報

ピックアップ記事

  1. 化学企業のグローバル・トップ50
  2. 製薬業界の研究開発費、増加へ
  3. カンファー(camphor)
  4. 転位のアスレチック!(–)-Retigeranic acid Aの全合成
  5. マスクをいくつか試してみた
  6. DABを用いた一級アミノ基の選択的保護および脱保護反応
  7. TMSClを使ってチタンを再生!チタン触媒を用いたケトン合成
  8. 三つの環を一挙に構築! caulamidine 類の不斉全合成
  9. パーキンソン病治療の薬によりギャンブル依存に
  10. 機能を持たせた紙製チップで化学テロに備える ―簡単な操作でサリンやVXを検知できる紙製デバイスの開発―

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年9月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP