[スポンサーリンク]

化学教育

世界のエリートが今一番入りたい大学 ミネルバ

[スポンサーリンク]

概要

・校舎がない(4年間で世界の7都市をめぐる)
・教師は「講義」も「テスト」もしない
・全寮制なのに、授業はすべてオンライン
ハーバードやスタンフォードを超える人材が
なぜ、この「ありえない」大学に殺到するのか?
創立3年で、生徒が全米トップのクリエイティブ思考力!
最高の教育を、適正な価格で、より多くの人へ――
真の教育革命を遂げる「仕組み」をつくりあげた
驚異のベンチャー大学「ミネルバ」の全貌を、初めて明かす!(内容紹介より)

対象

  • 大学教員
  • 高等教育の現場・指揮・設計に関わる方
  • 先進的な教育を求める高校生・大学生

内容

近年あちこちで話題となっている、ミネルヴァ大学(Minerva Schools at KGI)に関する日本初の解説本です。

従来の高等教育には様々な問題が指摘されていますが、遅々として変革は進みません。ミネルヴァ大学は最新テクノロジーとゼロベースの教育システム構築によってこの解決を目指そうとする理想――「高等教育の再創造」をミッションに掲げ、2014年に創設されました。キャンパスをもたず、全ての授業をオンラインのアクティブラーニングでこなすのが最大の特徴です。

創立5年にもかかわらず、世界中から2万人以上の受験者が集まり、合格率は2%程度の狭き門となっているようです。しかも創設者であるBen Nelsonは当時35歳、教育業界の経験は一切無かったという話ですから、何から何まで規格外の話といえます。

ミネルヴァ大学と従来の大学の違い

授業は全てオンラインのアクティブラーニング

講義形式は極めて定着率が低く、効率の悪い教育法であることは数々の研究から指摘されています(学生は内容の9割を半年で忘れてしまう)。MOOCが発達した現代でもなお、講義形式は根強いままです。

ミネルヴァ大学では、授業は全てオンラインで行われており、通学時間も不要になるため、学生は時間を有効に使えます。授業はアクティブラーニング形式で、事前学習課題を提出した学生のみ参加できる仕組みです。90分の授業時間のうち、教員の話す時間を10分以下(連続4分以下)に制限し、残り80分がディスカッションに充てられます。学生の評価や授業改善には、システムで自動計測される個々の発言時間も考慮されます。

多様性の確保

多様性やマイノリティ優遇を謳う欧米でさえ、名門大学の留学者数は10-15%に過ぎません。最近では入試に優先枠があるとの指摘もあり、多様性とは一体なんぞや?という議論にもなっています。要するに名門大学であっても、学生のほとんどは自国民という実情なのです。

ミネルバの学生は80%が留学生です。学業成績、過去の課外活動成果、独自の思考・コミュニケーションテストで合否が決められ、受験にかかる費用もほぼゼロです。これにより、国/制度/経済的なバックグラウンドによって挑戦・学び機会に差がでないよう工夫されています。

4年間で7つの国際都市に渡り住む

海外文化を最も効果的に理解し国際感覚を育むには、土着の人たちと同じ生活を経験するのが最も良いとする考えに基づき、学生達は4年間で7つの国際都市を移り住み、現地の機関と共同プロジェクト・インターンを行いながら生活します。現地には学生寮のみが作られ、華美なキャンパスはありません。オンライン授業のみで物理的なキャンパスを必要としないため可能になっています。

学生を集めるために、キャンパスの豪華さを大学間が競い続けている(応じて授業料の高騰が続いている)現実とは一線を画しています。

知識ではなく、幅広い分野に応用できる「知恵」を磨く

いっそう変化の激しい時代になっているにも関わらず、旧来からの教育機関は「決まり切ったことを教えるプログラム」から脱却できていません。

ミネルヴァ大学では変化の激しい時代でも活躍できるスキルを習得することを目的とした教育プログラムが組まれています。すなわち、数十に区分される「実践的な知恵」のコンセプトを1年次に徹底的に教えます。これは、最低でも2つ以上の専門学部で活用される、far transfer(一見関係ない分野にも知識を運用すること)が可能なもの、という指針で選び抜かれており、常時アップデートされています。分かりやすく言うなら「ものの見方を矯正するプログラム」と形容できるでしょうか。

「実践的な知恵」のコンセプトに関しては、下記の続編に詳しく解説されていますので、興味ある方はそちらをご覧下さい。

所感

本書はミネルヴァ大の取り組みを持ち上げるばかりでなく、現状の課題にもちゃんと触れており、フェアな視座から読者が判断できる筆致になっています。あまりにも独自な教育システムについて真価が問われるのはこれからでしょうが、マネするしないは別に学部教育の新規な在り方として、教育関係者は知っておくべき話題の一つかと思います。

我が国でもアクティブラーニングの重要性が叫ばれて久しくあるのですが、やはり思うように普及を見せていないのが実情ではないでしょうか。本書が指摘するとおり、昔ながらの教育思想が根強いことも一因なのでしょうが、実際問題として誰しもやるべきことで手一杯な中での変革には「適切なリソース投下とインセンティブ設計」が必要不可欠であるように思えます。

少人数のアクティブラーニングは、マスプロ授業に比べ個別対応がかなり増えるため、意味あるレベルで機能させるには同じリソース投下量だと全く不足する印象です。現実的に人やお金を増やせないのであれば、学校の数を減らすか、同一リソースで非属人化できるICTシステムへと投資することが絶対的に必要に思えます。

いいからやれよと言うばかりでは、現場負担が増える一方です。昨今いよいよリアルな話になりつつある若手流出に繋がったり、高邁な理想も画餅と堕していくばかりではないでしょうか。教育機関やその制度設計側にも、責任を伴う優先順位付けや経営センスが必要とされる時代だと思われます。

関連動画

関連リンク

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 先制医療 -実現のための医学研究-
  2. 理系のためのフリーソフト Ver2.0
  3. 立体電子効果―三次元の有機電子論
  4. 有機化学の理論―学生の質問に答えるノート
  5. 毎年恒例のマニアックなスケジュール帳:元素手帳2023
  6. 【書籍】化学探偵Mr.キュリー4
  7. ハートウィグ有機遷移金属化学
  8. 桝太一が聞く 科学の伝え方

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. オキソニウムカチオンを飼いならす
  2. 巨大複雑天然物ポリセオナミドBの細胞死誘導メカニズムの解明
  3. 第7回ImPACT記者懇親会が開催
  4. 「つける」と「はがす」の新技術|分子接合と表面制御 R3
  5. アステラス製薬、抗うつ剤の社会不安障害での効能・効果取得
  6. 論文・学会発表に役立つ! 研究者のためのIllustrator素材集: 素材アレンジで描画とデザインをマスターしよう!
  7. ゲヴァルト チオフェン合成 Gewald Thiophene Synthesis
  8. 細胞の分子生物学/Molecular Biology of the Cell
  9. π-アリルイリジウムに新たな光を
  10. 金大発『新薬』世界デビュー

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

注目情報

最新記事

材料開発を効率化する、マテリアルズ・インフォマティクス人材活用のポイントと進め方

開催日:2023/06/07 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化…

材料開発の変革をリードするスタートアップのデータサイエンティストとは?

開催日:2023/06/08  申し込みはこちら■開催概要MI-6はこの度シリーズAラウ…

世界で初めて有機半導体の”伝導帯バンド構造”の測定に成功!

第523回のスポットライトリサーチは、千葉大学 吉田研究室で博士課程を修了された佐藤 晴輝(さとう …

第3回「Matlantis User Conference」

株式会社Preferred Computational Chemistryは、7月21日(金)に第3…

第38回ケムステVシンポ「多様なキャリアに目を向ける:化学分野のAltac」を開催します!

本格的な夏はまだまだ先ですが、毎日かなり暖かくなってきました。皆様お変わりございませんでしょうか。…

フラノクマリン -グレープフルーツジュースと薬の飲み合わせ-

2023年2月に実施された第108回薬剤師国家試験において、スウィーティーという単語…

構造の多様性で変幻自在な色調変化を示す分子を開発!

第522回のスポットライトリサーチは、北海道大学 有機化学第一研究室(鈴木孝紀 研究室)で博士課程を…

マテリアルズ・インフォマティクス適用のためのテーマ検討の進め方とは?

開催日:2023/05/31 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

リングサイズで性質が変わる蛍光性芳香族ナノベルトの合成に成功

第521回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科理学専攻 物質・生命化学領域 有機化…

材料開発の変革をリードするスタートアップのプロダクト開発ポジションとは?

開催日:2023/06/01 申し込みはこちら■開催概要MI-6はこの度シリーズAラウン…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP