[スポンサーリンク]

その他

先制医療 -実現のための医学研究-

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4758103461″ locale=”JP” title=”実験医学増刊 Vol.33 No.7 発症前に診断し、介入する 先制医療 実現のための医学研究”]

概要

増加する非感染性疾患の対策として注目される発症前診断,発症前介入を目指す先制医療を総力特集! がん,糖尿病,COPDといった主要な疾患の現状から技術開発まで「究極の医療」の最新知見をお届けします!(内容紹介より)

対象

  • 未来の医療に興味がある方
  • 医学・薬学の先端研究に携わる研究者
  • 次世代型の予防医療思想に興味がある方

解説

本書は究極理想の超最先端医療として提唱される『先制医療(preemptive medicine)』について、その思想から最新の取り組みまでを記したムック書籍である。

近年の疾病構造の変化および先進国社会に共通する高齢化によって、医学の重点課題と医療制度に変革が求められている。とりわけ日本においてはこの傾向が強く、超高齢化社会への対応を世界に先駆けて迫られている。

中でも非感染性疾患(non-communicative diseases, NCD)、すなわち心疾患、糖尿病、がん、肺疾患などは現在でも死亡率の大半を占め、治療も長引き医療費も高額になるため、社会保障費削減という観点からも早急な対策が望まれている。

 NCDは早期発見・早期治療がもっとも現実的な対策とされている。しかしながら現在の医療技術では発症後の症例しか見いだすことが出来ない。例えばアルツハイマー病のような疾患種では、発症後治療が有効に行えないこともある。諸々の社会的事情から、今後は予防を重点とする医療研究の必要性が高いと考えられる。

 『先制医療』は、予防医療(preventive medicine)をさらに進めた医療概念として位置づけられる。すなわち発症前に疾病罹患を予測して積極的な治療介入を行う、言い換えれば『疾病に対して先手を打つ』思想に基づく医療として定義される。さらには統計学的なマスデータに着目するのでは無く、一人一人のパーソナルデータに着目して将来予想される病気を防ぐという、個の精密医療を行うことを念頭に置いている。一方の予防医療は公衆衛生の集団的取り組みと、啓発などによる受動的介入をベースにするものであるとして、思想面からは両者は明確に区別されている。

先制医療思想を実現すべく、着手可能な研究としては以下のものが提案されている。

  • ゲノムレベルでの症例研究・疫学研究の統合活用
  • 病気になる前とかかりはじめ直後のマーカーを探索
  • 遺伝-環境関連素因の分子機構解明(エピジェネティクスとの関連から病理理解をすすめること)
  • 「生前から墓場まで」の膨大なライフログを多因子ビッグデータ処理して生命・疾病の理解を促すこと

この成果がもたらす究極的アウトプットとして位置づけられるのが、個別予防生命の予測であるとするのが、先制医療が描く壮大な絵である。

この潮流に沿った研究が今後活発化するとの想定のもと、化学/生物学の未来像を想像するための書籍として有用な一つだろう。

途轍もなく壮大なスケールの話に触れたい方、未来の医療に興味ある方は、是非一読を勧めたい。

関連文献

  1. 戦略イニシアチブ――超高齢化社会における先制医療の推進.科学技術振興機構研究開発戦略センター臨床医学ユニット.2011 [PDF]

関連書籍

[amazonjs asin=”4787819852″ locale=”JP” title=”日本の未来を拓く医療―治療医学から先制医療へ”][amazonjs asin=”B010PZ8SV2″ locale=”JP” title=”医と人間 (岩波新書)”]

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 北川 進 Susumu Kitagawa
  2. 【書籍】研究者の仕事術~プロフェッショナル根性論~
  3. ジョン・グッドイナフ John B. Goodenough
  4. ワールドクラスの日本人化学者が語る研究物語―『化学者たちの感動の…
  5. 化学のためのPythonによるデータ解析・機械学習入門
  6. Medical Gases: Production, Appli…
  7. Lead Optimization for Medicinal …
  8. The Sol-Gel Handbook: Synthesis,…

注目情報

ピックアップ記事

  1. アメリカ大学院留学:卒業後の進路とインダストリー就活(3)
  2. ビッグデータが一変させる化学研究の未来像
  3. 向山縮合試薬 Mukaiyama Condensation Reagent
  4. 分子標的薬、手探り続く
  5. 振動円二色性スペクトル Vibrational Circular Dichroism (VCD) Spectrum
  6. クロム光レドックス触媒を有機合成へ応用する
  7. 低分子の3次元構造が簡単にわかる!MicroEDによる結晶構造解析
  8. ヒンスバーグ チオフェン合成 Hinsberg Thiophene Synthesis
  9. 光延反応 Mitsunobu Reaction
  10. 富山化の認知症薬が米でフェーズ1入り

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年6月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

2024年の化学企業グローバル・トップ50

グローバル・トップ50をケムステニュースで取り上げるのは定番になっておりましたが、今年は忙しくて発表…

早稲田大学各務記念材料技術研究所「材研オープンセミナー」

早稲田大学各務記念材料技術研究所(以下材研)では、12月13日(金)に材研オープンセミナーを実施しま…

カーボンナノベルトを結晶溶媒で一直線に整列! – 超分子2層カーボンナノチューブの新しいボトムアップ合成へ –

第633回のスポットライトリサーチは、名古屋大学理学研究科有機化学グループで行われた成果で、井本 大…

第67回「1分子レベルの酵素活性を網羅的に解析し,疾患と関わる異常を見つける」小松徹 准教授

第67回目の研究者インタビューです! 今回は第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化す…

四置換アルケンのエナンチオ選択的ヒドロホウ素化反応

四置換アルケンの位置選択的かつ立体選択的な触媒的ヒドロホウ素化が報告された。電子豊富なロジウム錯体と…

【12月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】 題目:有機金属化合物 オルガチックスのエステル化、エステル交換触媒としての利用

■セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合物を“オルガチッ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP