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【速報】2011年ノーベル化学賞は「準結晶の発見」に!

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スウェーデン王立科学アカデミーは5日、2011年のノーベル化学賞を、イスラエル工科大特別教授のダニエル・シェヒトマン博士(70)に贈ると発表した。   授賞理由は「準結晶の発見」。賞金として1000万スウェーデン・クローナ(約1億1000万円)が贈られる。   塩やダイヤモンドなどの結晶では、原子が規則正しく並んで基本的な形を作り、それがずっと繰り返されている。これに対し、準結晶は、基本の形はあるが、その繰り返しのパターンが一定ではない。基本的な形を複雑に並べた、イスラム寺院のアラベスク模様に似ている。シェヒトマン博士が1982年、アルミとマンガンの合金で初めて発見した(引用:読売新聞)。

 

完全に肩透かしを食らった本年のノーベル化学賞。ケムステも含め、どこでも完全に予想が外れました。ここまできれいに外すとは思っても見ず、笑ってしまいました。前々から言っているように当たったからと違って何の得もないのですが。

受賞者のダニエル・シェヒトマン博士は専門を限れば物理学者(固体物理・物性物理)となります。化学に当てはめれば固体化学、無機材料分野となるでしょうか?1999年にノーベル賞の前哨戦でもある(そういってもこれだけでも素晴らしい賞です)ウルフ賞を物理学部門で受賞してます。受賞候補者の90%以上はフォローできていると自負していたのですが、物理畑の人ということもあって、さすがにフォローしきれておりませんでした。すみません。とはいってもこれまでの常識を覆した、分野を超えたすばらしい発見であることはいうまでもなく、化学とか物理という枠を超えた「サイエンス」と呼ぶべき業績の一つなので、どっちでもよいのではないか、というのが本音です。

ということで速報が遅れました。完全な専門外なので詳細に触れるのは難しいですが、なるべく一般向けに解説させていただきます。

準結晶とはなんぞや?

変換しても「準決勝」しか一発で出こない準結晶とはなんぞや?簡単にいうと、結晶(クリスタル)でもなく非晶質(アモルファス)でもない固体物質状態のことです。

もうすこし踏み込んでみましょう。結晶(crystal)というのは見た目がキレイなところからお分かりなように、原子がキレイに並んでいる状態です。礼儀正しく?ならんでいるので、遠目からはどこから見ても同じです(長距離秩序がある)。身近にあるものとしては、食卓塩(NaCl)なんかが結晶状態にある固体です。

それに対して非晶質(アモルファス:amorphous)というのは、ばらばらとまではいきませんが、全体からみると並び方に全く秩序がない状態になります。代表的なものとしては、ガラスがそうです。

シェヒトマン博士の発見まで固体材料にはこの2つの状態しかないと思われていたんですね。それを覆し、第三の構造である、「部分的にみると並んでいる」状態がある固体を発見したのです。より専門的な用語を使って記述するならば、「並進対称性と周期性を欠くパターンでありながら、空間を埋め尽くすことができる長距離秩序のある状態」です。これが現在「準結晶(クエイサイクリスタル:quasicrystal)」とよばれている状態です。

whatisquasicrystal.png結晶、アモルファス、準結晶

準結晶の発見物語

1982年、シェヒトマン博士はサバティカル(教員のための長期休暇)の間、米国ジョンズホプキンス大学に滞在し、研究を行なっていました。4月8日の朝、液状のアルミニウム・マンガン合金を急冷した固体の回折像を観測したところ、彼は結晶にもアモルファスにも似つかないパターンを発見したのです。その時のシェヒトマン博士のノートが残っていました(下図。ノートって大事ですね)。ノートには「10 Fold???」と記載されており。当時の博士の驚きをよく表しています。

note_daniel.png

1982年準結晶発見時のシェヒトマン博士のノート
(ノーベル財団プレスリリース資料より)

 そう、古典的な理論では「回折像は1回、2回、3回、4回および6回の回転対称性しか考えられず、結晶中の原子配列パターン(空間群)は全部で230種類しか無い」とされていたのです。

一方、シェヒトマンらによって得られた回折像は5回の回転対称性を有しており、観測データから合理的に導き出される3次元構造は正二十面体(イコサヘドロン:icosahedron)でした。これまでの考えにはまったく当てはまらない、もっといえば「あってはならない」構造だったのです。

しかしシェヒトマンには教科書よりも自らを信ずるに足る結晶学の経験がありました。この異常な結果こそが真実である、科学者コミュニティこそが間違っているという確信を持ち、すぐに論文にまとめてJournal of Applied Physics誌に投稿しました。しかし結果はEditor Reject。あまりに荒唐無稽と思われ、審査にすら回してもらえなかったのです。

そこでシェヒトマンは共著者であるCahn, Blech, Gratiasらにデータの再チェックを依頼して問題がないことを確かめ、再投稿します。最終的に1984年にPhysical Review Letters誌に掲載される運びとなります[1a]。
icosahedron.png  不安定ですぐに結晶質に戻ってしまうため、実験的にもその解析は大変な作業だったといいます。ところが発表された当初は、あまりに非常識な結果ゆえに周り の人達からは全く受け入れられませんでした。研究所長からは結晶学の教科書を渡され、「もう一度結晶学を学び直しなさい」とまで言われ、同僚からは嘲笑されます。最終的には当時属している研究グループを去るよう通達されてしまいました。画期的で常識を覆すような発見をした人物にありがちな、不遇な出来事といえます。

 

構造の決め手・ペンローズのタイリング

このような渦中にあって、シェヒトマンの報告を見たある物理学者2人(LevineとSteinhardt)は、この異常な構造が正しいとの確信を抱きます。

この鍵となったのが、ペンローズのタイリングと呼ばれる図形です。これは物理学者ロジャー・ペンローズによって考案された、「5回軸対称性をもちつつも非周期的であり、しかし平面をあますことなく埋め尽くすことができる」という特殊なパターンです。よくよく眺めてみると、秩序だったパターンでありながら、厳密には繰り返していないことが見て取れます。

このパターンを結晶モデリングに応用した結晶学者がいました。「平面でこういうパターンが存在するなら、3次元に拡張して、固体材料の原子でも類似の配置を考えて良いのでは?」と考えたのですね。LevineとSteinhardtの2人は、このモデルがシェヒトマンのデータに合致すると考え、ある程度の周期性がある(quasiperiodic)結晶=「準結晶(quasicrystal)」という命名をしました[1b]。これにより、準周期的な固体の存在を確たるものにしようとしたわけです。

penrose_tiling.png

ペンローズのタイリング (Wikipediaより引用)

発見後ようやく…

その後、東北大学金属研究所の蔡安邦らが他の金属を使って「安定な」準結晶を創出しました(1987年)。そのおかげで、準結晶の構造解析および物性確認が進み、ようやく広く認知されるようになりました。

その後金属・固体材料ばかりか、コロイド・ポリマー・組織化ナノ粒子などを含む100種類以上の物質で準結晶状態が発見されるに至ります。これで、合金に特別なものではなく確かに「第三の固体」として扱って良いことが確かなものとなりました。

「固体といえば結晶・非晶質しか無いのが常識だ!結晶といえばこれだけしか無い!」とされていた状況下において、第三の状態を発見したわけです。結果として「結晶の定義を書き換えてしまった」と言えるほどのブレイクスルーになりました。

しかしながら、なぜ準結晶という状態が安定に存在するのか?などなど、現在でも基本的なことは多く解明されておらず、まだまだ研究は続けられています。

 

難しいことはいいから、なんの役に立つの?

化学賞で受賞したからには、この点は皆が気になるところでしょうか。

今回受賞対象となった研究はきわめて基礎的な位置づけにあり、直接的な応用や、抜群の物性を持つ材料の発見にはまだ結びついていないという現実のようです。

しかしその秩序的特徴から、準結晶状態の物質は「結晶・非晶質とはちがう両者の中間的な物性をもつ」と考えられています。このため準結晶からは「硬い、熱を通さない、摩擦係数が低い、導電性が低い」などの物性が期待できると考えられています。将来的には、全く理解を超えた材料が、準結晶物質の中から見つかる・・・?かもしれません。

 

実はノーベル賞最有力候補だった?

物理学分野では

1986年 高温超伝導体の発見(1987年ノーベル物理学賞)

1985年 フラーレンの発見(1996年ノーベル化学賞)

に加えて、この

1984年 準結晶の発見

が1980年代の3大発見として認識されていました。そういうわけで今回のノーベル賞は「遅すぎた受賞」とも言えるのかもしれません。

応用性の面では確かにまだまだといえますが、物質を眺めるまったく新たな視点を提供した発見ということで、高く評価されるべきであることは間違い有りません。

 

筆者は門外漢なので簡単な紹介で申し訳ございませんが、以上で概説をオシマイにします。改めて、おめでとうございます!

 

関連文献

  1. (a) Shechtman, D.;  Blech, I.; Gratias, D.; Cahn, J. W. Phys. Rev. Lett. 1984, 53, 1951. DOI: 10.1103/PhysRevLett.53.1951 (b) Levine, .; Steinhardt, P. J. Phys. Rev. Lett. 1984, 53, 2477. doi:10.1103/PhysRevLett.53.2477
  2. Special Issues for Quasicrystal: Philosophical Magazine 2008, 88, issue 13-15. [link]
  3. Tutorial review: Vekilov, Y. K.; Chernikov, M. A. Physics-Uspekhi 2010, 53, 537.  DOI: 10.3367/UFNe.0180.201006a.0561

 

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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