[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

酸で活性化された超原子価ヨウ素

[スポンサーリンク]

初めまして。しおこんぶと申します。大学院で有機化学を専攻しており、現在博士後期課程の学生です。Chem-Stationには以前からとても活用させていただいて、特に学部時代にレポートの宿題が出た時には大変お世話になりました。私自身まだまだ知識不足は否めませんが、博士課程の学生となった今、今度は自分が面白いと思った論文や化学ネタをみなさんに紹介して、一人でも多くの方に”やっぱり化学は面白い”と思ってもらいたくてこの度ケムステスタッフにしていただきました。もし記事にツッコミどころがあれば是非指摘していただければと思います。さて少し前置きが長くなりましたが、今回は最近JACSに投稿された超原子価ヨウ素に関する論文を紹介します。

Ⅲ価の超原子価ヨウ素化合物は、アピカル位の配位子が高い脱離能をもつことに起因して非常に高い酸化力を有し、調整の容易さやコスト面からも有用な酸化剤として汎用されています[1]。一般的に超原子価ヨウ素化合物が酸によって活性化されることはご存知の方も多いかもしれません。しかしながら、その活性種の単離、同定に至った例は少なく、外的要因により安定化を利用したものに限定されています(図1)[2]

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-10-29-21-29-57

図1

 

活性化された超原子価ヨウ素化合物の観測と単離・同定

“Acid Activation in Phenyliodine Dicarboxylates: Direct Observation, Structures, and Implications”

Izquierdo, S.; Essafi, S.; Rosal, I.; Vidossich, P.; Pleixats, R.; Vallribera, A. Ujaque, G.; Lledos, A.; Shafir, A. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 12747. DOI: 10.1021/jacs.6b07999

今回、ICIQのShafirらは酸による超原子価ヨウ素化合物の活性化について詳細に調査しました。それでは以下論文の内容を紹介していきます。

まずPhenyliodine Dicarboxylate (PIDA)に対し、BF3·Et2Oを加え、そのNMRピーク変化を観察しています。その結果、BF3·Et2O を1.2当量添加した時に、PIDAピークの低磁場シフト変化は極大に達し、PIDA–BF3付加体の生成が示唆されました。さらに彼らはPIDA–BF3付加体の単離に成功し、X線結晶構造解析によって、その構造を明らかにしました。興味深いことに、超原子価ヨウ素上の配位子がトリフルオロ酢酸になるとBF3と相互作用しないことがNMRによって確認されました。

彼らは同様にTMSOTfによるPIDAの活性化メカニズムに関して調査しています。PIDAにTMSOTfを添加した場合、OAc基とOTf基の配位子交換が進行し、PhI(OAc)(OTf)が生成します。Shafirらは低温、不活性ガス雰囲気下でPhI(OAc)(OTf)の結晶化に成功し、X線を用いて構造を確認しました。また同一の反応溶液からZefirov試薬と呼ばれる超原子価ヨウ素化合物の二量化体、[PhIOIPh](OTf)2の単離・同定にも成功しています(図2)。

%e5%9b%b3%ef%bc%92

図2

また彼らはDFT計算を用いてPhI(OAc)–Xの配位子Xが酸化能に与える影響を調べました。結果、今回単離に成功したPIDA–BF3付加体やPhI(OAc)(OTf)はそれぞれPIDAよりも酸化能が上昇していることを明らかにしています(図3)。

%e5%9b%b3%ef%bc%93

図3

 

以上のように、Shafirらは実験化学、計算化学を用いることで、酸による超原子価ヨウ素化合物の活性化のしくみを解明しました。本研究は超原子価ヨウ素化学に新たな1ページを加える内容だと言えるのではないでしょうか。超原子価ヨウ素をよく使うという方にとって、一読の価値有る論文だと思います。

 

参考文献

  1.  (a)Zhdankin, V.-V.; Stang, P.-J. Chem. Rev. 2008, 108, 5299. DOI: 10.1021/cr800332c (b)Yoshimura, A.; Zhdankin, V.-V. Chem. Rev. 2016, 116, 3328. DOI:10.1021/acs.chemrev.5b00547
  2.  (a)Miyamoto,K.; Yokota, Y.; Suefuji, T.; Yamaguti, K.; Ozawa, T.; Ochiai, M. Chem.–Eur. J. 2014, 20, 5447.  DOI:10.1002/chem.201304961(b)Yoshimura, A.; Zhdankin, V.-V.; Nguyen, K.-C.; Klasen, S.-C.; Saito, A.; Nemykin, V.-N. Chem. Commun. 2015, 51, 7835. DOI:10.1039/C5CC02009C

関連書籍

しおこんぶ

しおこんぶ

投稿者の記事一覧

有機化学専攻の博士課程の学生。ものづくりの匠になりたい。

関連記事

  1. 小さなフッ素をどうつまむのか
  2. サムスン先端研恐るべし -大面積プリンタブルグラフェンの合成-
  3. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑪:どっちもク…
  4. 有機合成化学協会誌2017年8月号:C-H活性化・アリール化重合…
  5. 光触媒の力で多置換トリフルオロメチルアルケンを合成
  6. Nitrogen Enriched Gasoline・・・って何…
  7. 各ジャーナル誌、続々とリニューアル!
  8. 触媒量の金属錯体でリビング開環メタセシス重合を操る

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 東レ科学技術賞:東京大学大学院理学系研究科奈良坂教授受賞
  2. 水素 Hydrogen -最も基本的な元素で、燃料電池の原料
  3. 私がケムステスタッフになったワケ(5)
  4. 18万匹のトコジラミ大行進 ~誘因フェロモンを求めて②~
  5. ハウザー・クラウス環形成反応 Hauser-Kraus Annulation
  6. 立体特異的アジリジン化:人名反応エポキシ化の窒素バージョン
  7. ディークマン縮合 Dieckmann Condensation
  8. edXで京都大学の無料講義配信が始まる!
  9. 研究助成金を獲得する秘訣
  10. ヨードラクトン化反応 Iodolactonization

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

コロナウイルスが免疫システムから逃れる方法(2)

前回の記事では、コロナウイルスの基礎知識とコロナウイルスが持つRNA分解酵素(EndoU)について述…

第79回―「高分子材料と流体の理論モデリング」Anna Balazs教授

第79回の海外化学者インタビューは、アンナ・バラズ教授です。ピッツバーグ大学 化学・石油工学科に在籍…

コロナウイルスが免疫システムから逃れる方法(1)

新型コロナウイルスによる感染症が、世界中で猛威を振るっています。この記事を書いている私も、大学の閉鎖…

換気しても、室内の化学物質は出ていかないらしい。だからといって、健康被害はまた別の話!

Human health is affected by indoor air quality. On…

海外機関に訪問し、英語講演にチャレンジ!~② アポを取ってみよう~

海外学会のついでに近郊機関に訪問し、ディスカッションと英語講演にトライしてみよう!シリーズ記事です。…

海外機関に訪問し、英語講演にチャレンジ!~① 基本を学ぼう ~

筆者は年1~2回ほど海外学会へ参加し、研究成果を対外的に発表しています。ここ数年はそれに数日の滞在を…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP