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学会風景2001

 

 今回は2001年3月28日〜31日まで行われた日本化学会第79春季年会について有機化学を中心に日記形式で風景をお話しよう。場所は神戸にある甲南大学。私は東京に住んでいるので、遠かったがちょっと旅行気分で楽しみであった。甲南大学は阪急岡本駅から徒歩10分の高台にあり、敷地も広くとてもいい大学。図1は正門前の様子である。年会開催時はスーツ姿の化学者もしくは化学者の卵たちでいっぱいであった。

 

50〜200人くらい入れる教室で分野別に学生または助手、研究員の方々がそれぞれ発表を行っていた。

図1 正門前

 

特別講演

 

 日本化学会各賞を受賞された方、著名な研究者、その他有名な賞を受賞された方々が、一回り大きな教室で行っていたのが特別講演である。私が聞いた有機合成に関連のある特別講演を簡単に紹介する。

 

 

 

 

 

図2 講演会場の様子

 

 「多様な天然生理活性物質の実勢的全合成と活性発言機構の解明」(早大理工 竜田邦明教授、28日)

 

 平成12年度日本化学会賞を受賞された天然物の全合成の権威である早稲田大学理工学部竜田教授の講演である。

竜田教授は本年度抗生物質の新しい化学合成法を開発に成功ている。ブドウ糖など安価な糖質を原料に使うのが特徴で、在来の化学合成や培養による製法に比べ、酵素や溶媒が不要になる利点がある。β(ベータ)-ラクタ ム系とテトラサイクリン系と呼ぶ2種類の抗生物質の合成に成功した。工業生産に応用できるよう改良すれば、低コストで効率のよい製造が可能になるという。

β―ラクタム系については、大腸菌などの増殖を抑制するカルバペネム(図3)と呼ぶ抗生物質の合成に成功している。ブドウ糖やコンニャクが含むマンノース、カニの甲羅などに含まれるグルコサミンなどの糖質から作る。合成自体は10工程と在来の製法よりも3-4工程多いが、反応に酵素を利用する必要がない。このため酵素を反応液に溶かす工程がなくなり、総合的には簡略化できるという。原料が糖質のため低コストで済む。

 竜田教授の他の合成した天然物については、同教授が編集担当している季刊化学総説45「天然物の全合成―Total synthesis of natural products」(日本化学会編)を読んでみるとよいだろう。

 

図3 カルバペネム系

 

 「カルボニル化のための新戦略」(大阪府立総合科学 柳日馨教授、29日)

 

 カルボニル基がとても有用なことは以前、トピックス「カルボニル」で相棒のボンビコールが簡単に説明した。一酸化炭素を導入しカルボニル化合物を合成する反応においては遷移金属触媒を使った反応が多く知られている。しかし、柳教授はその改良法ではない新しい方法論をラジカルカルボニル化という方向性で、遷移金属を必要としないカルボニル化反応を成功している。(I..Ryu,Chem.Soc.Rev.30(2001))

 

 「ハイブリッド型天然物の合成研究」(東工大院理工 鈴木啓介教授 29日)

図4のラビドマイシンように糖と芳香族のような生合成起源が異なる部分が共存する物質を「ハイブリッド型天然物」と呼ぶ。これらは、既存の合成法では合成できない場合が多く、鈴木教授はこのような化合物の合成研究を行い、抗腫瘍活性がある図4のラビドマイシンや抗真菌性等のあるプラジミンAを合成した。生化学的手法と有機化学的手法を組み合わせている合成法はとても参考になった。同教授は多くの文献、参考書を出しているので合成法についてはそちらを参照してみるとよいだろう。

 

図4

 

 「無尽蔵」(東理大理 向山光昭教授 ,29日)

有機化学を専攻している人でこの方を知らない人はいないというほど有名な、「向山アルドール反応」等の素反応、近年では「タキソール(図5)の全合成」を達成している向山教授の講演である。タキソール関連の話から始まって、若手へのメッセージ「研究究者は、一つのテーマをやり遂げたとき、次にどんな課題を取り上げるかを考える。面白そうなことは既に他の人がみんなやってしまっていて興味深い問題はもう残されていないのではないかと思うときがある。しかし、気が付かないだけで面白いチャレンジングなテーマは身近に無尽蔵に残されている。

図5

若い方々はいつも意欲を持って、次々と大切な問題を解明していくように努めて頂きたい。」「歴史があるから明日がある。個人、さらにグループの研究を通じて積み重ねた歴史は、必ず目的は達成出来るという信念につながり、如何なる場合にも自信をもって、次の研究に挑戦出来る。よい歴史を残していくことは研究者にとって大切なことである。」と語っておられました。(東京化成寄稿論文中でも同様なことを書いておられます。)

 同教授の講演は300人近くが入れる教室で立ち見も入れないほど多くの方が聴いていました。

 

 現在行われている研究の「スルフィンイミドイルクロリドを用いる新しいアルコール類の酸化反応」(図6)でSwern酸化に求められる厳密な反応温度の制御が必要なく、室温で長期間保存でき、取扱いが容易であるである酸化剤の話はとても興味があった。

図6 スルフィンイミドイルクロリドを用いるアルコール類の酸化反応

 

 「力量にある有機合成に向けて」(名大理 野依良治教授 29日)

 

 今年度文化勲章を受章された名古屋大学教授の野依良治教授の講演である。野依教授は不斉触媒BINAP(図7)の開発、他にも幅広い研究で知られている日本の有機化学者の第一人者である。執筆論文の引用においても影響力の高い論文として挙げられている。講演内容は物理有機化学の歴史から、若手への熱いメッセージ、研究内容を熱弁していらっしゃいました。野依先生はあと数年で退官ですが最も熱い研究者に見られました。

 

図7

(訂正:図のRh はRu の誤りです)

 

 

 「最近の生物有機化学研究」(Columbia Unv. 中西香爾教授 30日)

 

 中西香爾コロンビア大学化学科教授(Centennial Professor)は、名古屋大学、東京教育大学(現筑波大学)、東北大学を経て、現在の米国コロンビア大学で30年以上教鞭をとられています。教授は、150以上の生物活性天然物を単離、構造決定されたほか、発癌物質の物質レベルでの発癌メカニズムや、レチノイドを中心とした視覚研究など、生物有機科学においてのパイオニアです。構造決定の話と現在の研究内容を英語を交えながらお話になれました。

 

   「ポリアセチレン研究1966-2000」(白川秀樹名誉教授 30日)

 

 ノーベル化学賞受賞者の白川氏の講演である。最も大きい教室で行われたのだが、あまりにも人数が多く入場制限、写真撮影禁止の中行われ、残念ながらお聞きすることができなかった。

 

 講演の行われた研究は最先端の研究であり、注目されている研究でもあるのでとても参考になった。

 

展示会・ポスター

 

  

 図8は企業、大学の方の展示会、ポスター会場の風景である。甲南大学の体育館で28〜30日まで行われた。専門書の展示会では2割引で本が買え、その他の展示会でも、様々な資料をもらうことができる。多くの情報、様々な方々とお知りあいになることは学生であればなかなか体験できない有効な体験である。そのためには「見学する」だけでなく積極的に「参加する」こと必要だと思った。

 

図8 展示会、ポスター会場

 以上簡単に年会の様子を紹介してみたが、ここに紹介したものは一部であり、実際は5000人近くの方が、発表、講演を行っている。実際私も、コンピュータ、グリーンケミストリー関連の発表、講演も聞きたかったが、時間が重なって聴くことができなかった。特に研究を始めたばかりの学生にとっては、新鮮で仲間や著名な先生に会えることはとてもいい経験になると思う。自分の分野、これから専攻する分野、興味がある分野があれば、それを選択してぜひ聴いてみるとよい。今年度の日化秋季年会は千葉大学、春季年会は早稲田大学で開催される。日本化学会のHPで確認できるのでみてみるとよい。

(2001.4.9 by ブレビコミン)

 

参考、関連文献

 

・2001年(春)第79会春季年会 講演予稿集 日本化学会

季刊化学総説45「天然物の全合成」(日本化学会編)

I..Ryu,Chem.Soc.Rev.30(2001)

 

関連リンク 

 

日本化学会

日本化学会第79春季年会プログラム − PDF 版

甲南大学

竜田邦明教授/天然物の全合成 

鈴木啓介教授/ハイブリッド型生理活性分子の高効率構築法の開発(PDF)/ハイブリッド合成技術の開発

・向山光昭教授/制癌剤タキソールの不斉全合成

野依良治教授/文化勲章を受章/影響力の高い論文/ロジャー・アダムス賞授賞

 

【用語ミニ解説】

 

日本化学会

 

1878年(明治11年)に創立され、120年以上の 歴史と伝統を持ち、会員約4万名を擁する日本最大の化学の学会。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜田邦明教授

 

(写真:早稲田大学応用化学科より)

 

早稲田大教授。天然物合成の権威。4大抗生物質の全合成を達成したことで有名。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遷移金属

 

周期表の3A〜7A、8および1Bに属する元素 。

 

 有機金属化学事典―遷移金属
有機金属化学事典―遷移金属

 

 

 

 

向山光昭教授

 

現北里大学教授(2005)。縮合・脱水反応の権威。向山アルドール反応、向山酸化、向山ラクトン化向山酸化還元縮合反応 など多数の人名反応を開発。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中西教授

 

(写真:Pharmanex Macau

 

長年にわたるイチョウ葉の研究によって、
イチョウ葉から ギンコライドという成分の
抽出に成功。  1999年度に日本政府よ
り文化功労賞を受賞。