[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

キラル超原子価ヨウ素試薬を用いる不斉酸化

“A Chiral Hypervalent Iodine(III) Reagent for Enantioselective Dearomatization of Phenols”
Dohi, T.; Maruyama, A.; Takenaga, N.; Senami, K.; Minamitsuji, Y.; Fujioka, H.; Carmmerer, S. B.; Kita, Y. Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 3787. doi:10.1002/anie.200800464

 大阪大学薬学系研究科・北泰行教授らによる報告です。 北教授のグループでは、超原子価ヨウ素試薬をもちいた合成法の開発に長年取り組んできており、今回はそのバックグラウンドを活かした報告になります。

ヨウ素は通常アニオンとしての-I価、有機ヨウ素試薬としてのI価が最も安定に存在しますが、適当な酸化剤で処理するとⅢ価やV価といった超原子価をとりうることが知られています。

こういった超原子価ヨウ素試薬[1]は、低毒性で環境調和性が高く、穏和な条件下で酸化反応を進行させるため、近年多用されるようになっています。よく知られた合成用試薬としては、PhI(OCOCF3)2(PIFA)、PhI(OAc)2 (PIDA)、IBXDess-Martinペルヨージナンなどが挙げられますが、いずれもアキラルな試薬です。

キラルな超原子価ヨウ素試薬を用いた不斉酸化は、これまで報告例はありませんでした。

特にヨウ素(Ⅲ)によるフェノール類の脱芳香化型酸化は、カチオン性中間体を経て進行する傾向にあり(下図右:Dessociative)、試薬が構築するキラル領域から離れた点で反応が進行します。このため、不斉誘起が大変難しいといわれてきました。

kita_hyperI_2.gif

北教授らのグループは冒頭図に示すようなキラル二核超原子価ヨウ素試薬をデザインしました。試薬は既知のキラルスピロジオール[2]から以下のように合成されます。

kita_hyperI_2.gif

カチオン性中間体形成よりも酸化反応が速く進行することを期待し、本試薬を分子内反応型の基質に適用したところ、有意なエナンチオ選択性の発現が見られることが分かりました。極性溶媒を用いるとeeが低下し、R”=OMeの場合には0%eeとなることから両メカニズムの競合が示唆されています。

また、mCPBAを再酸化剤として用いれば、触媒量のヨウ化物による酸化も可能となります。

現時点では試薬の調製やエナンチオ選択性、基質一般性などの面で諸々の課題が残されていますが、今後の更なるチューニングにより、汎用性の高い新規酸化反応へと発展していくことが期待されます。

関連文献

  1. 超原子価ヨウ素試薬に関する最近の総説:(a)  Zhdankin, V. V.; Stang, P. J. Chem. Rev. 2002, 102, 2523. DOI: 10.1021/cr010003+ (b) Moriarty, R. M. J. Org. Chem. 2005, 70, 2893. doi: 10.1021/jo050117b
  2. Birmanm, V. B.; Rheingold, A. L.; Lam, K.-C. Tetrahedron: Asymmetry 1999, 10, 125. doi:10.1016/S0957-4166(98)00481-9

 

関連書籍

関連リンク

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. アルコールをアルキル化剤に!ヘテロ芳香環のC-Hアルキル化
  2. 分子振動と協奏する超高速励起子分裂現象の解明
  3. ノーベル賞いろいろ
  4. 中学入試における化学を調べてみた 2013
  5. 明るい未来へ~有機薄膜太陽電池でエネルギー変換効率7.4%~
  6. as well asの使い方
  7. 酸で活性化された超原子価ヨウ素
  8. 日本発化学ジャーナルの行く末は?

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 京大融合研、産学連携で有機発光トランジスタを開発
  2. 3.11 14:46 ③ 復興へ、震災を教訓として
  3. 盧 煜明 Dennis Yuk-ming Lo
  4. 逐次的ラジカル重合によるモノマー配列制御法
  5. 高い発光性を示すヘリセンの迅速的合成
  6. 大阪大学インタラクティブ合宿セミナーに参加しました
  7. 三菱化学、酸化エチレン及びグリコールエーテルの価格を値上げ
  8. 階段状分子の作り方
  9. ストライカー試薬 Stryker’s Reagent
  10. 「抗炎症」と「抗酸化」組み合わせ脱毛抑制効果を増強

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

出光・昭和シェル、統合を発表

石油元売り2位の出光興産と4位の昭和シェル石油は10日、2019年4月に経営統合すると正式に発表した…

天然物の全合成研究ーChemical Times特集より

関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」。年4回発行のこの無料雑誌の紹介をしています。…

「アジア発メジャー」狙う大陽日酸、欧州市場に参入

大陽日酸は北米に次ぐ成長が見込める欧州市場に参入を果たす。同業の米プラクスエアが欧州で展開する産業ガ…

典型元素触媒による水素を還元剤とする第一級アミンの還元的アルキル化

第149回のスポットライトリサーチは、大阪大学大学院工学研究科 博士後期課程3年の木下 拓也 (きの…

有機合成化学協会誌7月号:ランドリン全合成・分子間interrupted Pummerer反応・高共役拡張ポルフィリノイド・イナミド・含フッ素ビニルスルホニウム塩・ベンゾクロメン

化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年7月号がオンライン公開されました。今月号のキ…

ウィリアム・ロウシュ William R. Roush

ウィリアム・R・ロウシュ(William R. Roush、1952年2月20日(Chula Vis…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP