[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ハッピー・ハロウィーン・リアクション

[スポンサーリンク]

肌寒くなってきた昨今、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
10月31日といえば(1日過ぎてしまいましたが…)、皆さんご存知、ハロウィーン。”トリック・オア・トリート”のフレーズでおなじみの日―すなわち子供たちが、「同情するなら菓子をくれ」と叫びつつ練り歩くという、盛大なお祭りでもあるのです (違

・・・冗談はさておき、このイベントはすっかり日本でもポピュラーになったらしく、Jack-O’-Lanternを見かけることも珍しくなくなってきました。アメリカの学生よろしく、1ヶ月前からコスプレ衣装を用意して、当日はハジケ放題な域まで行き着くケースは流石に少ないみたいですが・・・。

そういうわけで今回は、ハロウィーンにちなんだ化学ネタを一つご紹介しましょう。

化学の世界はあまりに広く、深いもの。なんと世の中にはハロウィーン反応(Halloween Reaction)なるものが存在しているのです。


その気になる中身は、以下の動画をご覧あれ。

三種の溶液を混ぜあわせると、数秒のうちにオレンジ→暗青色へと色が段階的に変わる反応です。このJack-O’-Lanternを彷彿とさせるツートンカラーこそが、ハロウィーン反応と呼ばれるゆえんなのです。

溶液の中身は以下のとおり。化学的にはLandoltヨウ素時計反応と呼ばれる反応のヴァリエーションとされています。

1列目:.亜硫酸水素ナトリウム・デンプン水溶液(NaHSO3+starch aq.)
2列目: 塩化水銀水溶液(HgCl2 aq.)
3列目: ヨウ素酸カリウム水溶液(KIO3 aq.)

これらを順番に加えていくと、以下のような化学反応が連続的に起こります。

1. IO3 + 3 HSO3 → I + 3 SO42- + 3 H+

2. Hg2+ + 2 I → HgI2(オレンジ色の沈殿)
3. IO3 + 5 I + 6 H+ → 3 I2 + 3 H2O)
4. I2 + デンプン →  暗青色 (ヨウ素デンプン反応)

まずヨウ素酸イオンが亜硫酸と反応してヨウ化物イオンが生成、これが水銀(II)イオンと反応してオレンジ色の沈殿を生じます。一部残っているヨウ化物イオンがヨウ素酸イオンとさらに反応して、ヨウ素が生成します。これがさらにヨウ素デンプン反応を起こして、暗青色の溶液になり、オレンジ色の沈殿が隠れて見えなくなります。

上の動画では、右の容器ほどヨウ素酸カリウムの濃度が低くなっています。こうして色の変わるタイミングを変えているのです。

ちなみにこの反応は、別名オールド・ナッソー反応(Old Nassau Reaction)とも呼ばれています。オールド・ナッソーというのは、プリンストン大学の愛称です。プリンストン大の学生によって発見された反応であること、またオレンジ・黒のツートンが大学のシンボルカラーであることから、由緒正しくこう呼ばれているのだそうです。

princeton_univ_logo.gif

プリンストン大学の校章

視覚的にもインパクトある化学ですが、裏にある逸話もまた面白いですね。化学をたしなむ我々ならば、コスプレとはまた違った風に、アカデミックな形でハロウィーンを楽しんでみる―これもまた一興かもしれませんね。それでは、ハッピー・ハロウィーン!

 

関連文献

  1. Kauffman, G. B. “Lecture Demonstrations, Past and Present” The Chemical Educator, 1996, 1, 1. doi:10.1007/s00897960057a

 

関連動画

プリンストン大学校歌のタイトルもまた“Old Nassau”です。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4087204081″ locale=”JP” title=”非線形科学 (集英社新書 408G)”][amazonjs asin=”400026642X” locale=”JP” title=”新しい自然学―非線形科学の可能性 (双書 科学/技術のゆくえ)”][amazonjs asin=”4822282619″ locale=”JP” title=”生物時計はなぜリズムを刻むのか”][amazonjs asin=”4873114543″ locale=”JP” title=”Mad Science ―炎と煙と轟音の科学実験54 (Make:PROJECTS)”][amazonjs asin=”487311666X” locale=”JP” title=”Mad Science 2 ―もっと怪しい炎と劇薬と爆音の科学実験 (Make: PROJECTS)”][amazonjs asin=”0596514921″ locale=”JP” title=”Illustrated Guide to Home Chemistry Experiments: All Lab, No Lecture (Diy Science)”][amazonjs asin=”1449334512″ locale=”JP” title=”Illustrated Guide to Home Forensic Science Experiments: All Lab, No Lecture (Diy Science)”]

 

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 海外留学ってどうなんだろう? ~きっかけ編~
  2. 細胞内で酵素のようにヒストンを修飾する化学触媒の開発
  3. 共有結合で標的タンパク質を高選択的に機能阻害する新しいドラッグデ…
  4. 超原子価ヨウ素を触媒としたジフルオロ化反応
  5. アルミニウム工業の黎明期の話 -Héroultと水力発電-
  6. 地域の光る化学企業たち-2
  7. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑧(解答編…
  8. 【26卒】太陽HD研究開発 1day仕事体験

注目情報

ピックアップ記事

  1. リチウムイオン電池のはなし~1~
  2. マテリアルズ・インフォマティクスの基礎知識とよくある誤解
  3. 有機合成化学協会誌2022年8月号:二酸化炭素・アリル銅中間体・遺伝子治療・Phaeosphaeride・(−)-11-O-Debenzoyltashironin・(−)-Bilobalide
  4. フラーレン /Fullerene
  5. 技術者・研究者のためのプレゼンテーション入門
  6. 巨大な垂直磁気異方性を示すペロブスカイト酸水素化物の発見 ―水素層と酸素層の協奏効果―
  7. 試験概要:甲種危険物取扱者
  8. 日本学士院賞・受賞化学者一覧
  9. 第七回 生命を化学する-非ワトソン・クリックの世界を覗く! ー杉本直己教授
  10. 科学:太古の海底に眠る特効薬

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年11月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

熊谷 直哉 Naoya Kumagai

熊谷 直哉 (くまがいなおや、1978年1月11日–)は日本の有機化学者である。慶應義塾大学教授…

マシンラーニングを用いて光スイッチング分子をデザイン!

第657 回のスポットライトリサーチは、北海道大学 化学反応創成研究拠点 (IC…

分子分光学の基礎

こんにちは、Spectol21です!分子分光学研究室出身の筆者としては今回の本を見逃…

ファンデルワールス力で分子を接着して三次元の構造体を組み上げる

第 656 回のスポットライトリサーチは、京都大学 物質-細胞統合システム拠点 (iCeMS) 古川…

第54回複素環化学討論会 @ 東京大学

開催概要第54回複素環化学討論会日時:2025年10月9日(木)~10月11日(土)会場…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP