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化合物の秤量

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数mgを量り取るといったことは多くの化学系の研究者の皆様が日常的にされていることかと思います。しかし、果たしてその重さは正しい数値なのか?ということに関しては、量が少なくなればなるほど、本当にそれだけのモノが入ってるのか自信がない。。。といった経験は無いでしょうか? 過去のケムステの記事にもこの類の記事が出ていますが(例えばこちら)、今回の記事では具体的にどんなことをすれば秤量の誤差を減らせるのか?ということについて書いてみたいと思います。

はじめに

最近、全合成の終盤でマイナー生成物の秤量をしなければならないことがありました。化合物の量は1.0 – 0.5 mg程度です。個人的にはたとえd=0.01秤量天秤を使おうと、やはり小数点以下の数値が正確に測定できるか結構怪しいところです。かといって、やはり収率を出さなければならない以上、測定は絶対必要です。5mgを切る測定には特にホコリやアルゴンなどのコンタミ、静電気、容器への付着物など細心の注意を払っていますが、やはり一割程度の誤差は避けられないとも感じています。特に今回の記事では、最終物秤量やバイオアッセイのための化合物の秤量などに関して、どういったことに気をつけるべきか考えて見たいと思います。正確性を期すための方法など、良いものがあればコメントいただけると幸いです。

秤量の方法

一般的に化合物の秤量には空気中、オーブンから出し、冷却したフラスコの秤量、モノをいれて、乾燥、秤量といった方法が一般的かと思われます。その際には以下のことを気をつけることがあるかと思われます。

  1. 量上げする。量が上げられないような長い合成計画をそもそも立てない。(最近のstep economical total synthesisなどもこの一つ)
  2. 精密天秤を使う。
  3. バイアルやフラスコに封入するアルゴンについても気をつける。(実際それほど変わるのか不明)
  4. ホコリやシリカゲルのコンタミを避けるために、予め目的化合物の溶液をパスツールに綿を詰めろ過する。または、メンブレンフィルターでろ過する。
  5. フラスコやバイアルはむやみやたらと触らない。

さらに、正確な秤量には、例えば1.5-2 mLくらいの容量のバイアル(5 グラム程度の重さ)をMeOH洗浄→真空ポンプで乾燥→ピンセットでつまんでバイアルの計量→最終産物をバイアルに入れて→N2で吹き付けて乾燥→凍結乾燥のラインに数時間→ピンセットで取り出して秤量。といった具合に化合物の秤量をされている方もおられるかと思います。

反応剤の秤量

反応剤の秤量は得られた化合物の秤量などより幾分簡単で、確実な方法がいくつか存在します。

まずはじめに、ストック標準溶液を作成し、化合物を計る方法。が一般的かと思われます。特に、正確な当量計算が必要な反応剤や、吸水性の化合物(Ipc2BClなど)、融点が低く、量ったとしてもべちゃっとなってしまう反応剤(Boc2Oなど)、などの秤量に便利です。(尤も、融点の低い化合物は温めて溶液にしてから温めたシリンジで、という方法もありますが。)

液体の場合はガスタイトシリンジなどマイクロシリンジを使うことにより、正確なはかりとりが可能になります。

あとがき

正直誰も全合成の最終局面の細かい収率なんて信じてないというのが本当のところでしょうが、やはり正確な数値を出したいものです。もちろん、用途によって、例えば、Kd値やモル吸光係数などを求めたりする場合は、数mgの化合物をガチで測らないと正確性を期せない局面も存在します。秤量においてはどの程度の正確性が求められるのかしっかり把握した上で研究に取り組みたいものですね。

参考文献

[1] Wernerova, M.; Hudlicky, T. Synlett 2010, 2010, 2701. DOI:10.1055/s-0030-1259018.

Gakushi

投稿者の記事一覧

東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

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