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アメリカで医者にかかる

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アメリカの大学院に進学する際、とても悩んだのが、医療保険についてです。アメリカでは医療費がとても高い上に、日本のような国民健康保険制度が整っていない、という事実はよく知られているものの、「ではどうすればいいのか」についてはなかなか情報が得られませんでした。そこで今回は、化学とは少し離れたテーマですが、学位留学や海外ポスドクでアメリカに行かれる方も多いと思うので、アメリカの保険事情と私の体験を紹介しようと思います。(個人によって事情が異なる場合もあるので、より正確な情報は大学や保険会社から得るようにしてください。)

1. 学位留学の際の保険

大学には、「全ての学生が、大学の基準を満たす医療保険(Medical Insurance)に加入していなければならない」という規定があります。多くの場合、医療保険は大学を通じて自動的に加入され、必要ない人のみ非加入(waiver)の申請をすることになります(図1)。国民皆保険の整っていないアメリカでは、自分や家族の勤務先を通じて保険に入る、というのが一般的なので、アメリカ人学生は「大学の保険に自分で加入」または「両親の保険に入り、大学の保険は非加入」という形をとっているようです。留学生の私は当然ながら、両親の保険に入るという選択肢はないので、自分の大学を通じて保険に加入しています。

ポスドクや訪問研究員の場合も、一定の労働基準を満たせば大学を通じて保険に加入することができます。もちろん、外部の保険を自分で探して加入するという選択肢もありますが、保険料がかなり高額になってしまうことがほとんどなので、大学の保険に入るのがベストだと言えます。

図1. 大学の医療保険(Medical Insurance)の非加入要件。他で加入している保険が上記の条件を満たせば、大学の保険を非加入にすることができる。

2. 大学の保険の内容

私の大学で加入できる保険には、医療保険(Medical)・歯科保険(Dental)・眼科保険(Vision)の3種類があります。図1のような非加入要件があるのは医療保険(Medical)のみなので、歯科・眼科に関しては加入しないという選択肢もあります。ただし、通常の医療保険(Medical)では歯科や眼科での医療費がカバーされないので、私は念のため全てに加入しています。大学院生の年間保険料はこれくらいです。(ただし、補助金の有無などにより保険料は大学ごとに異なっており、医療保険(Medical)の相場は1500〜3500のようです。)

  • 医療保険(Medical):750</li>  	<li>歯科保険(Dental):350
  • 眼科保険(Vision):30</li> </ul> さて、これらの保険が医療費をどうカバーしてくれるのかというと、日本とシステムが結構違います。まず、<u>アメリカの保険は、その保険会社の提携している医療機関でないと費用をカバーしてくれません。</u>とは言っても、アメリカで一般的な<strong>PPO</strong><strong>(Preferred Provider Organization</strong><strong>)</strong>というタイプの保険では、<u>たくさんある提携医療機関の中から自由に病院を選んで受診することができ、提携機関外でも少しは保険が効きます。</u>かかりつけ医(primary care physician)を選び、その医者の紹介を通して専門医に行く、という手順は要りません。病院に行く必要ができた際に、保険のwebページで近くの専門医を検索したり、大学のHealth Centerに問い合わせるなどすれば、保険が効く専門医を簡単に見つけることができます。一方、<strong>HMO</strong><strong>(Health Maintenance Organization</strong><strong>)</strong>というタイプの保険では、提携医療機関外では保険がほとんど効かず、専門医に行くにもかかりつけ医を通さなければいけません。ただし、HMOでは自己負担額や保険料が安いというメリットがあります。  医療費の負担額については、もう少し複雑です。もともとの医療費が高く、日本のように「自己負担3割」、というわけでもないので、<u>保険が効いても自己負担額は結構高額</u>になります。アメリカの保険では、<strong>年間自己負担額(</strong><strong>deductible)</strong>という額が決められており、自己負担額がそれに達するまでは保険が効きません。それなので、その年に初めて病院に行った時などは、それまでの自己負担額がゼロなので全額自己負担、ということになったりします(図2)。その年のdeductibleを払い終えれば、その後は定められた割合(co-insurance)に合わせて負担することになります。さらに、年間の自己負担額が一定の額(out-of-pocket maximum)を超えると、その後は保険が100%カバーしてくれるようになります。 <img class="aligncenter wp-image-62699" src="https://assets.chem-station.com/uploads/2019/02/1d1b5d62cff2c2544a4de8f5cae56092.png" alt="" width="633" height="306" /> 図2. アメリカの保険の仕組み。 この他にも、co-payment(固定の診察料)やpremium(保険料)など、アメリカの保険には聞きなれないワードがいろいろとあるので、渡航される方は事前に調べておくと役立つと思います。(参考リンク:<a href="https://kenkoindiana.jimdo.com/%E7%97%85%E9%99%A2%E3%81%AE%E3%81%8B%E3%81%8B%E3%82%8A%E6%96%B9-seeking-medical-care/%E5%8C%BB%E7%99%82%E4%BF%9D%E9%99%BA-health-insurance/">1</a>, <a href="https://winlabo.com/post-597">2</a>) <h4>3. 病院に行く代わりにできること</h4> 保険が効いてもアメリカの医療費は結構高いので、私を含め周りの日本人は、よほどのことがない限り病院には行かないようにしています。代わりにできることと言えば... <ul>  	<li>大学のStudent Health Centerに行く(学生全員が無料。インフルエンザの予防接種や定期検診もやってもらえる。)</li>  	<li>軽いケガや病気は市販の薬で対応。</li>  	<li>渡航前や一時帰国の際に日本の病院で診てもらう。</li> </ul> 私は、これまで大きなケガや病気を経験することはなかったため、眼科・歯科以外の医療機関にはかかっていません。インフルエンザの予防接種は大学のHealth Centerで打ってもらい、スポーツで軽い肉離れになったときは大学のスポーツメディカルへ行き、ノロウイルス(?)にかかった際には市販薬で対応することができたので、病院に行かずにこれまでの大学生活を過ごしています。とは言っても、大学のHealth Centerや市販薬では対応できないケガや病気になってしまう可能性もあるので、アメリカの保険や医療費について、事前にある程度知っておくと安心です。 <h4>4. 実際に病院に行ってみて</h4> 最後に、実際に病院(歯科)に行った際の経験を紹介します。流れは以下の通りです。 <ul>  	<li>PPO内の歯科を探す。(友達に聞く・Yelpで検索・保険のwebページで調べる)</li>  	<li>電話または来院して予約をとる。(PPO内の歯科かどうかしっかり確認。)</li>  	<li>歯科に行く。(ID・学生証・保険カード・SSNの控えを持参。)</li> </ul> 図3aに、実際にかかった費用を示しています。定期健診やクリーニングに関しては全て保険の特典でカバーされ、無料でした。ただし、治療に関しては、虫歯はなかったのですが「この辺り歯茎が下がってるからレジンで被覆しておくねー。」と言われ、<u>会計の際に支払った額は</u><u>133(約15,000円)でした。

    図3. 歯科でかかった費用。「保険なし」は、歯科保険に非加入の場合に自己負担しなければいけなかった額を示す。PPOの保険加入者には、医療費が割引され、割引後の額を保険会社と加入者が負担する。(a)-(c)はそれぞれ別の医療機関。

    さらに、「親知らず2本が斜めに生えていて、放っておくと虫歯になるかもしれないから、4本とも抜きましょう。」と勧められ、口腔外科(oral surgeon)にも行くことになりました。歯科からの紹介先で診察・X線撮影を行うと、費用は142</u><u>(約16,000</u><u>円)</u>でした(図3b)。実は、<strong>紹介元の歯科は保険会社と提携していたものの、紹介先の口腔外科は提携外(</strong><strong>PPO</strong><strong>外)</strong>であったために、自己負担が多くなってしまったようです。<u>親知らず抜歯の見積りは、</u><u>4</u><u>本・全身麻酔で1,630(約178,000円、保険なしでは2140</u><u>)</u>でした。  さすがにこれは高額なので、治療法を変えて費用を抑える交渉をしたり、他の医療機関を探したりしました。他を探す際にも、診察・見積りだけで毎回100程度かかってしまいかねないので、電話のみでおよその費用を教えてもらい、問い合わせた中から良心的な歯科を1つ選んで受診しました。最終的に抜歯にかかった額は、4本・局所麻酔で$538(約59,000円)でした。最初の見積りと比べるとかなり費用が抑えられましたが、日本では同様の治療が10,000円程度でできるので、アメリカの医療費の高さを実感しました。私の場合は、「日本への帰国時には人と会う予定を優先したい」との理由から、アメリカでの治療を選びましたが、緊急以外の場合は日本の病院に行った方が費用は抑えられるはずです。

    治療自体に関しては、医療先進国とも言われるアメリカなので、あまり不安はありませんでした。医師との会話において知らない英単語が頻出し、説明を理解するのに少し苦労はしましたが、分からない部分は聞き返したり、自分でも治療について調べるなどすれば、特に問題ありませんでした。

    5. おわりに

    海外で研究するとなると、研究環境だけでなく生活環境の違いも経験することになります。特に医療費の高さは、「まぁこれも経験。」と言って簡単に割り切れることではないので、事前に情報収集と対策(+心の準備)をしておくと良いと思います。

    ちなみに、日本で加入する海外留学保険に関しては、実際に使用したことのある人(加入後、保険請求をしたことのある人)が身近におらず、具体的な情報があまり得られなかったため、本記事では触れていません。加入の際には、大学の規定や法律でアメリカの保険にも入る必要があるかどうかや、利用の手順(加入はしたけど使い方は知らない、とならないように)について確認しておくと良いと思います。

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大学院生。化学科、ケミカルバイオロジー専攻。趣味はスポーツで、アルティメットフリスビーにはまり中。

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