[スポンサーリンク]

一般的な話題

ルーブ・ゴールドバーグ反応 その2

[スポンサーリンク]

rubegoldberg_reaction2.0.gif

こんにちは。新年度がスタートしました。本年度もChemStationを楽しんでいただければと思います。

さて、前回に引き続きルーブ・ゴールドバーグ反応を紹介します。「ルーブ・ゴールドバーグ反応」というのは、ピタゴラ装置などに代表される「ルーブ・ゴールドバーグ装置(Rube Goldberg Machine)」のように様々なカラクリを経由する楽しい反応のことです。
勝手な定義です。一般的な名称ではありませんから、これから就職活動される方は間違えて使わないように気を付けてくださいね。まぁ使わないと思いますが……

ちなみにタイトル図は寝過ぎないための装置。研究者はどうしても不規則な生活になりがちですのでこの装置を利用してみたらいかがでしょうか。ベッドを起こすほどの重たい球が転がっていきますので、利用の際は球を処理するための装置も別途必要となりますが……

ラジカルによる水素引き抜きを利用した反応を紹介します。同形式の反応はまとめて知っておくとよいかと思いますので。

まずはBarton反応から。この反応はアルコールを足掛かりに、飽和アルキル鎖にオキシムを導入することができます。一般式と対応する装置は下図の通りです。

 

rubegoldberg_reaction2.1-1.gif

A アルコールが塩化ニトロシルと反応し、

B 熱あるいは光照射により亜硝酸エステルが開裂、

C アルコキシラジカルがδ位から水素を引き抜き、

D 生じたアルキルラジカルはNOラジカルと反応、

E 互変異性を経て、オキシムが導入される。

F~Jはボールの動きを楽しんでください。

 

剛直な骨格を持つ分子でうまく反応が進行するため、ステロイド合成において古くから知られている反応です。

Practical Partial Synthesis of Myriceric Acid A, an Endothelin Receptor Antagonist, from Oleanolic Acid
J. Org. Chem. 1997, 62, 960-966.

 

rubegoldberg_reaction2.1-2.gif

今回は、ミリセリン酸Aの合成中間体の合成を紹介しました。本反応は、高い収率はあまり期待できない反応ですが、この系では85%という高収率で大量合成に成功しています。反応点である水酸基とメチル基がアキシャル方向に固定されているのが反応の進行に適切なのでしょう。

 

次はHLF(Hofmann-Loffler-Freytag Reaction)反応です。この反応も先ほどのBarton反応と同形式の反応ですが、多くの場合、導入されたハロゲンがよい脱離基となり、アミンからの巻き込みまでが一挙に進行します。基本的には下図のように、δ位水素を引き抜き、5員環形成が進行しますが、基質の設計次第で6員環を作ることもできます。

 

rubegoldberg_reaction2.2-1.gif

A アミンがハロゲンを攻撃、

B 窒素ラジカルが生成し、

C 水素を引き抜き、(基本的には分子間で基質から)ハロゲンを引き抜く。

D 生じたハロゲン化物はアミンからの攻撃により、

E 5員環(基質によっては6員環)を形成する。

 

この反応はBaranらによるオイデスマンテルペン類の全合成において巧みに利用されています。

Total synthesis of eudesmane terpenes by site-selective C-H oxidations
Nature 2009, 459, 824.

rubegoldberg_reaction2.2-2.gif

本合成の戦略は”two-phase”アプローチと呼ばれるもので、1)炭素骨格の構築、2)酸化、という2工程でテルペン類が生合成されるのを模倣したアプローチです。この研究の目標はタキソール(もしくはさらなる天然物・その類縁体合成への応用)にあるようで、タキソールの炭素骨格の構築、およびその酸化指針がそれぞれ報告されています。(Chem-Stationでも紹介されています)

 

最後に、「光で脱保護可能な保護基」を紹介しようと思います。ベンジル系の保護基と言われてすぐに思いつくのは、Bn基PMB基といったところでしょうか。まぁメトキシ基がさらに増えたものもありますし、人によってはトリチル基もベンジル系保護基に含めるかもしれません。o-ニトロベンジル基!これ思いつきましたか?

Photosensitive Protective Groups

Chem. Comm. 1966, 822.

rubegoldberg_reaction2.3.gif

光照射で外せるんです。光照射によって生じた酸素ラジカルがベンジル位の水素を引き抜くというのが鍵になっています。

 

さて、今回はBarton反応、HLF反応、そしてo-ニトロベンジル基の脱保護の3つの反応を紹介しました。どれも素反応としては非常に古くから知られている反応ですが、立派なC-H結合の官能基化です。これらのルーブ・ゴールドバーグ反応を使って何か楽しいことができそうだと思いませんか?

Avatar photo

らぱ

投稿者の記事一覧

現在、博士課程にて有機合成化学を学んでいます。 特に、生体分子を模倣した超分子化合物に興味があります。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 血液型をChemistryしてみよう!
  2. 電気化学の力で有機色素を自在に塗布する!
  3. Carl Boschの人生 その3
  4. ナノ学会 第22回大会 付設展示会ケムステキャンペーン
  5. 嗚呼、美しい高分子の世界
  6. 21世紀に入り「世界同時多発研究」は増加傾向に
  7. 有機合成化学協会誌2023年6月号:環状ペプチド天然物・フロキサ…
  8. 【ナード研究所】新卒採用情報(2025年卒)

注目情報

ピックアップ記事

  1. 水口 賢司 Kenji Mizuguchi
  2. Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis 5th Edition
  3. デヴィッド・ナギブ David A. Nagib
  4. セミナー「マイクロ波化学プロセスでイノベーションを起こす」
  5. カルボン酸をホウ素に変換する新手法
  6. 固体型色素増感太陽電池搭載マウスを買ってみました
  7. 免疫系に捕そくされない超微粒子の薬剤
  8. 創薬懇話会2025 in 大津
  9. 2011年ノーベル化学賞予想ーケムステ版
  10. 非常に小さな反転障壁を示す有機リン化合物の合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年4月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP