[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

個性あるTOC

[スポンサーリンク]

 

Enantioselective Intramolecular Friedel?Crafts-Type α-Arylation of Aldehydes
Nicolaou, K.C.; Reingruber,R; Sarlah, D and Brse, S. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 2086.
DOI: 10.1021/ja809405c

 スクリプス研究所K.C. Nicolaou教授らによる報告です。マクミラン触媒を用いてアルデヒドの分子内不斉α-アリール化を実現しています。

・・・とそんなことはともかく、このTOC(Table of Contents, グラフィカルアブストラクトともいいます)はなんだ??と思われた方、多いのではないでしょうか。

以前に天然物合成をレビューするブログTotallysynthetic.comでも取り上げられていましたが、環の中身が赤・青に塗りつぶされ、しかもグラデーションまでかかっています。さらにバックは薄い青。いままで見たことがなかった図なので、つい目がいってしまいました。内容がNicolaou教授にはめずらしい報告であったため、なおさらでした。


Nicolaou教授は、これまでも講演のスライドには激しい色使いのグラフィックスを用いていました。しかし構造式は以下のようにあくまで”普通に”書いていたのです。今年にはいってから急にカラフルになってしまったのです。

jo-2008-02351b_0046.gif

Nicolaou教授が合成した天然物

さらに、以下の3つの論文が立て続けにJ.Am. Chem. SocのASAPとAngew. Chem. Int. Ed.のEarly Viewに公開されていました。

 

ja-2008-08692j_0020.gif

New Synthetic Technologies for the Construction of Heterocycles and Tryptamines
Nicolaou,K. C.; Krasovskiy, A.; Majumder. U.; Trpanier, V.; Chen. Y-K. D.  J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 3690. DOI: 10.1021/ja808692j

 

ACIE2009_48_3444

 

Total Synthesis and Absolute Configuration of the Bisanthraquinone Antibiotic BE-43472B
Nicolaou, K.C.; Lim, Y-H.; Becker, J. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 3444. DOI: 10.1002/anie.200900058

ACIE_2009_48_3449

Total Synthesis of Sporolide B
Nicolaou, K.C.; Tang, Y.; Wang. J. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 3449. DOI: 10.1002/anie.200900264

 

こちらでは、環の中身はグラデーションがかったオレンジ、バックは青にすべて統一されています。また、構造式もC-C結合の長さが短くなっています。今回は3つともほぼ同じデザインですのでどうやら確立したようです(笑)。

美的センスは人それぞれですので、それに対しては評価しませんが、とにかく目立つ!皆さんも毎日論文チェックすると思うのですが、なんだこれ?と思いませんでしたか?実はそれを狙っているのかもしれません。つまり、TOCを見ただけでその研究者の仕事であるとわかる、中身を見てみたくなるということです。ブランディングの一種と言えるでしょう。PCで簡単に最新論文が見られるなか、このように目を引く工夫はネガティブな意味あいより大きい効果があるように思います。実際、つい目がとまって中まで読んでしまいましたから。

もちろん、見た目でなく「中身」で勝負したいものですが、筆者の意見としては結構効果的だと思います。学生に聞いてもほぼ同じ答えが返ってきたので、皆そういう意味では注目しているということでしょう。

いろいろ眺めて見ると、特徴的で個性的な構造式・TOCをデザインしている人は意外といるものです。

例えば、ハーバード大のE. J. Corey教授の構造式は、線は極太・元素はすべて太字です。そのため、見てすぐにわかります。最近は彼の弟子たち(たとえばCaltechのStoltz教授やスクリプス研究所のBaran教授などなど)もこぞって“Corey-type structure”を描いてくるようになったため、少しだけ目立たなくなりましたが・・・。

ja025848xn00001.gif

CoreyらのTOC

プリンストン大のMacMillan教授は、置換基・官能基に水色とピンクの球を用い、シンプルにまとめています。わかりやすく目立ってくれますが、青と赤が目を引くので注目すべきの不斉炭素-炭素結合が強調されないという弱点もあります。普通の研究者は新しく作られる結合を色付けしている人が多いようです。

ja077212hn00001.gif

MacMillanらのTOC

また、名古屋大の伊丹健一郎教授は芳香族化合物のC-H結合変換反応において、下図のような“青パックマン”と”赤パックマン”(勝手に名付けました)を芳香環の代わりに用い、簡単に結合してビアリール化合物が得られる様子を強調しています。それまでは、グラデーションがかった球のみで表現している論文が多かったのですが、グラデーションを用いず濃赤色と青色をにしてかなり目立たせています。この他にも2報ほど、この形式で報告しているようです。

ol-2008-019764_0004.gif

伊丹らのTOC

 以上、例を述べてみましたが、他にも特徴的なTOCを描いている研究者はいると思います。前述したように中身で勝負したいものですが、何事も見た目がよい物に惹かれるのも人間の性ですので、個性的なTOCは個人的には大歓迎です。構造式のみでつまらないと思われがちな有機化学を注目させる、一つの手段であると考えています。

【追記 2008.3.12】

本日Angew. Chem. Int. Ed. 誌にNicolaou教授の新たな全合成が報告されました。色がまた違う!!彼はシンガポールとサンディエゴに研究室を持っていますが、その違いというわけでもなさそうです。節操がないので、できれば統一した方がよい気がするのですが・・・どうでしょう?

anie20090438.gifTotal Synthesis of Hopeahainol A and Hopeanol
Nicolaou, K. C.; T. R. Wu.; Kang, Q.; Chen, D. Y.-K. DOI: 10.1002/anie.200900438

 

関連リンク

  • Abstract GraphicsTotallysynthetic.comで取り上げられたNicolaou教授のグラフィックに関する意見
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 2010年ノーベル化学賞予想ーケムステ版
  2. 研究者xビジネス人材の交流イベント 「BRAVE GATE Me…
  3. 嵩高い非天然α,α-二置換アミノ酸をさらに嵩高くしてみた
  4. Reaxys Prize 2012ファイナリスト45名発表!
  5. 研究室でDIY!~エバポ用真空制御装置をつくろう~ ②
  6. 【速報】Mac OS X Lionにアップグレードしてみた
  7. その反応を冠する者の名は
  8. マテリアルズ・インフォマティクス適用のためのテーマ検討の進め方と…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第40回「分子エレクトロニクスの新たなプラットフォームを目指して」Paul Low教授
  2. 禅問答のススメ ~非論理に向き合う~
  3. 第128回―「二核錯体を用いる触媒反応の開発」George Stanley教授
  4. 最新有機合成法: 設計と戦略
  5. パターノ・ビューチ反応 Paterno-Buchi Reaction
  6. 塩基の代わりに酸を使うクロスカップリング反応:X線吸収分光が解き明かすルイス酸の役割
  7. 5社とも増収 経常利益は過去最高
  8. 田辺製薬、エイズ関連治療薬「バリキサ錠450mg」を発売
  9. 第103回―「機能性分子をつくる有機金属合成化学」Nicholas Long教授
  10. スポンジシリーズがアップデートされました。

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年2月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
232425262728  

注目情報

最新記事

ケムステイブニングミキサー2025に参加しよう!

化学の研究者が1年に一度、一斉に集まる日本化学会春季年会。第105回となる今年は、3月26日(水…

有機合成化学協会誌2025年1月号:完全キャップ化メッセンジャーRNA・COVID-19経口治療薬・発光機能分子・感圧化学センサー・キュバンScaffold Editing

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年1月号がオンライン公開されています。…

配位子が酸化??触媒サイクルに参加!!

C(sp3)–Hヒドロキシ化に効果的に働く、ヘテロレプティックなルテニウム(II)触媒が報告された。…

精密質量計算の盲点:不正確なデータ提出を防ぐために

ご存じの通り、近年では化学の世界でもデータ駆動アプローチが重要視されています。高精度質量分析(HRM…

第71回「分子制御で楽しく固体化学を開拓する」林正太郎教授

第71回目の研究者インタビューです! 今回は第51回ケムステVシンポ「光化学最前線2025」の講演者…

第70回「ケイ素はなぜ生体組織に必要なのか?」城﨑由紀准教授

第70回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第69回「見えないものを見えるようにする」野々山貴行准教授

第69回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第68回「表面・界面の科学からバイオセラミックスの未来に輝きを」多賀谷 基博 准教授

第68回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

配座制御が鍵!(–)-Rauvomine Bの全合成

シクロプロパン環をもつインドールアルカロイド(–)-rauvomine Bの初の全合成が達成された。…

岩田浩明 Hiroaki IWATA

岩田浩明(いわたひろあき)は、日本のデータサイエンティスト・計算科学者である。鳥取大学医学部 教授。…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP