[スポンサーリンク]

一般的な話題

ハニートラップに対抗する薬が発見される?

[スポンサーリンク]

 

スパイと言えば007ですよね。イケメンのスパイと美女が欠かせません。ジェームスボンドは謎の美女に手痛い目にあわされることが多いです。そう、実はその謎の美女は敵方のスパイだったなんていう展開はある意味でお約束となっています。

ボンドでなくても、世の殿方はおしなべて美女には弱いのがサガというもの。麗らかな女性に言葉巧みに言い寄られたら、ついつい秘密をしゃべってしまったり、大事な商談に失敗してしまったり、そうハニートラップに引っかかってしまうのです。

 

今回のポストではなんとそのハニートラップに引っかからなくなる魔法の薬(?)が発見されたという報告について紹介します。早稲田大学の渡部幹博士と九州大学の加藤隆弘博士らの研究です。

 

Minocycline, a microglial inhibitor, reduces ‘honey trap’ risk in human economic exchange

Watabe, M.; Kato, T. A.; Tsuboi, S.; Ishikawa, K.; Hashiya, K.; Monji, A.; Utsumi, H.; Kanba, S.

Sci. Rep. 3, 1685 (2013). Doi: 10.1038/srep01685

 

その魔法の薬とは、実は抗生物質のminocyclineです。Minocyclineはいわゆるテトラサイクリン系の抗生物質です。四つ環がありますね。既に臨床にも用いられており、主に経口投与によるニキビ菌に対する薬剤として使用されています。ミノマイシンなどの商品名ですが、特許は既に切れているので後発品も多くあります。
このminocyclineは確かに抗生物質として用いられていますが、ヒトの細胞に対して様々な作用があるようです。近年では神経保護作用抗炎症作用が注目されており、パーキンソン病などの神経変性疾患への効果も示唆されています。

minocycline

 

ミノサイクリンの構造

抗炎症作用発現のメカニズムの一つにNF-κBの核内への移行を阻止することにより脳脊髄中にある小膠細胞(しょうこうさいぼう、英: microglia)の活性化を阻害する効果が以前に報告されています。活性化T細胞ー小膠細胞のシグナル伝達を阻害することにより腫瘍壊死因子などのサイトカインの産生を抑制することで抗炎症作用を示すとされています。

なんだか専門的でよくわからないかもしれませんが、ではこの小膠細胞の活性化が阻害されると実際にはどんな事が起こるのでしょうか?今回の報告ではminocyclineのハニートラップに対する効果を測定しています。これは荒唐無稽な話ではなく、minocyclineが神経保護作用を有していることや、発作を抑える効果があるなど、脳の機能になんらかの作用を示す事が示唆されていたことからの類推と考えられます。実際、minocyclineの副作用としてはめまいがよく起こるようで、特に女性に対してはその傾向が高いそうです。なんだか今回の趣旨と微妙にリンクしているような。

さて、彼らの実験を見てみましょう。常套手段としてまず、98人の男性を薬剤を投与するグループと偽薬(プラセボ)を与えるグループの二つに分けます。全員に信頼ゲーム(trust game)をやってもらいます。被験者の男性には四日間薬剤を投与後、女性の写真を見せ手持ちの1300円のいくらをその女性に分け与えるかを答えてもらいます。また女性をどれくらい信頼できそうか、魅力的かを11段階で評価してもらいます。

 

honey_trap_1

 

Trust gameの極端なケースのスキーム (図は論文より引用)

実際はもう少し複雑なゲームですが、パートナーとしての信頼感と容姿、すなわち被験者が好む女性かどうかと金銭の相関関係を測定した訳です。その結果、偽薬を与えてゲームをしたグループでは、容姿が好ましいと評価が高かった女性ほど高い金額を分け与えるのに対し、minocyclineを投与したグループでは容姿の評価が高くても分け与える金額は変化しませんでした。

よって(統計学上ですが)この実験からminocyclineを投与された男性は、パートナーの女性の容姿などに惑わされることなく、平常通りにゲームを進めることができたと評価されました。Minocyclineのような物質が重要な商取引などでハニートラップにかからないような薬剤として応用される日がくるのかもしれません。あまり飲みすぎるとめまいがしてかえって商談に失敗するかもしれないので注意が必要ですね。
原文は未確認ですが、ロシアでは浮気を防止する薬が登場したとの報道もあったようです。

ちなみにこの論文はNature publishing group発行のScientific Reports誌に掲載されています。この雑誌はNPGの肝いりで登場したオープンアクセス誌ですので、どなたでも読むことができます。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4062769301″ locale=”JP” title=”警視庁情報官 ハニートラップ (講談社文庫)”] [amazonjs asin=”483878807X” locale=”JP” title=”007 COMPLETE GUIDE: 007コンプリートガイド (マガジンハウスムック)”][amazonjs asin=”475810686X” locale=”JP” title=”絶対わかる抗菌薬はじめの一歩―一目でわかる重要ポイントと演習問題で使い方の基本をマスター”][amazonjs asin=”4534029322″ locale=”JP” title=”抗生物質のはなし”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. もし新元素に命名することになったら
  2. 多角的英語勉強法~オンライン英会話だけで満足していませんか~
  3. 非常に小さな反転障壁を示す有機リン化合物の合成
  4. アジドの3つの窒素原子をすべて入れる
  5. 無保護糖を原料とするシアル酸誘導体の触媒的合成
  6. 第28回光学活性化合物シンポジウム
  7. 「シカゴとオースティンの6年間」 山本研/Krische研より
  8. 【ワイリー】日本プロセス化学会シンポジウム特典!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート:1-Butyl-3-methylimidazolium Hexafluorophosphate
  2. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑰:MacBook Airの巻
  3. 窒素 Nitrogen -アミノ酸、タンパク質、DNAの主要元素
  4. iPhoneやiPadで化学!「デジタル化学辞典」
  5. 理系女性の人生設計ガイド 自分を生かす仕事と生き方
  6. マテリアルズ・インフォマティクスにおける従来の実験計画法とベイズ最適化の比較
  7. 無水酢酸は麻薬の原料?
  8. 【ケムステSlackに訊いてみた③】化学で美しいと思うことを教えて!
  9. グリーンケミストリー Green Chemistry
  10. 徹底比較 特許と論文の違い ~その他編~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年5月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP