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アラスカのカブトムシは「分子の防寒コート」で身を守る

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antifreeze_alaska1.jpg

(引用:Chemistry World)

アラスカなどの極地方には、極限環境で棲息している生きものが多くいます。

彼らの身体を構成するものは、もちろん炭素、水素、窒素、酸素・・・であり、そういう目で見れば、我々人間と大差ありません。

しかし彼らは、時には-70℃まで至るほどの厳しい気候から自分の身を守り、生命活動を続けています。その秘密とは一体全体何なのでしょうか?

この問いに対して新たな視点から回答を与える研究が、このほどアラスカの研究グループから報告されました。


彼らはアラスカの氷土に生息するカブトムシ(Upis ceramboides)から、ザイロマンナン(xylomannan)という化合物を単離しました。名前から想像できる通り、キシロース(xylose)およびマンノース(mannose)という2種の糖が連結した骨格をもちます。それに脂質分子が付加した形になっています。

これは不凍分子(Antifreeze Molecule)と呼ばれる化合物群にカテゴライズされます。

これまで発見された不凍分子としては、タンパク質骨格をベースとした不凍タンパク質が良く知られていました。

研究者達も当初は、「アラスカカブトムシからも、不凍タンパク質が見つかるに違いない」と考え、その発見に尽力していたようです。しかし結局見つからずじまい。最終的にこのザイロマナンの発見に行き着いたそうです。

ザイロマンナンのような、非タンパク型の不凍分子はこれまでに例が無く、働き方もタンパク型のそれとは異なっている、と考えられています。

仮説段階ではありますが、ザイロマンナンがお互い自己集積することによって、細胞膜の周りをコーティングし、細胞外でできてしまった氷の侵入を防ぐことで、細胞へのダメージを抑えているのではないか、と推測されています。

言ってみれば分子が織りなす「防寒コート」というわけですね。まったく自然界の優れた仕組みには恐れ入るばかりです。

この発見には、4年もの歳月が費やされたそうです。こういう地道そのものの研究があってこそ、我々が知りうる世界の境界というものが、じわりじわりと広がってゆく――それを忘れないようにしたいものですね。

 

関連文献

“A nonprotein thermal hysteresis-producing xylomannan antifreeze in the freeze-tolerant Alaskan beetle Upis ceramboides”
Walters, K. R., Jr.; Seriannib, A. S.; Sformoc, T.; Barnesc, B. M.; Dumana, J. G. Proc. Natl. Acad. Sci. USA published online 11/23/2009, doi: 10.1073/pnas.0909872106

 

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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