[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

基礎材料科学

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”4339066524″ locale=”JP” title=”基礎材料科学”]

概要

本書では,材料科学を「マルチスケールにわたる物質の階層性を理解し,その特性を人々の生活に役立つもの(材料)に反映する学問」と定義し,原子サイズから宇宙のスケールまでの広い範囲にわたる物質の性質を理解するために,以下の5章構成とした。
材料の諸性質を理解するうえで,材料内部での構成原子の配列を知ることは重要である。多くの材料は原子が周期配列した結晶であり,結晶学による分類が可能であるが,一方で,周期性を持たない非晶質や結晶とは異なる秩序を持つ準結晶のような比較的新しい材料も存在する。第1章「物質の構造」では,これらの構造に関する記述法や測定法に関して概説する。
第2章「材料熱力学」では,材料のような多数粒子の集合体の巨視的な性質を,熱力学を用いることによって,個々の粒子の運動を記述することなく,少数の変数によって記述する方法を解説する。
第3章「平衡状態図と相転移」では,物質が安定に存在する領域に関する情報を視覚的に得るための方法として,状態図について解説する。状態図は材料科学において,海図のような役割を果たしてくれるので,その読み方を身に付けることで,実際の材料を扱う際の強力なツールを手に入れることができる。
第4章「拡散現象」では, 拡散現象を記述する方程式を紹介し,特に固体内拡散についての基礎理論について解説する。
最後に,電気伝導,光の吸収や放出,磁性,機械的強度などの種々の材料の性質を考える際に,その材料を構成する原子間の結合様式を考えることが有効なことがある。第5章「材料電子論」では,そのような視点に立って,原子間の結合をつかさどる電子の振る舞いの記述法である量子力学について概説し,量子力学をもとにした材料物性の考え方について説明する。
各章の最後には章末問題を設け,その略解を巻末に,詳解をコロナ社のWebページに掲載した。本書の内容の理解と,実際の材料への応用方法の習得に活用していただきたい。

引用:コロナ社HPより

目次

1.物質の構造
1.1 結晶構造
1.2 回折結晶学
1.3 材料組織と格子欠陥
1.4 非結晶と準結晶
2.材料熱力学
2.1 熱力学の諸法則
2.2 熱力学関数
2.3 溶液・固溶体の熱力学
2.4 化学平衡
2.5 界面・表面の熱力学
3.状態図と相転移
3.1 状態図の熱力学
3.2 2成分系状態図
3.3 3成分系状態図
3.4 化学ポテンシャル状態図
3.5 相転移
4.拡散現象
4.1 フィックの法則
4.2 多成分系の拡散
4.3 固体内の拡散
5.材料電子論
5.1 量子力学の導入
5.2 原子軌道
5.3 分子軌道
5.4 結晶中の電子
5.5 具体的な物質の電子状態の見方

対象者

固体化学、材料物性を研究対象とする学部4年生-修士学生。特にこれから研究を始めたいが、どこから手を付ければと悩んでいる学生に向いている。

内容

化学系の学生においては広範な範囲である材料科学を一つの書籍で統一的に読める文献は少なく、物理化学、無機化学、固体化学、量子化学などの内容をもとに勉強し直す場合が多い。本書籍は材料科学を「マルチスケールにわたる物質の階層性を理解し,その特性を人々の生活に役立つもの(材料)に反映する学問」と定義し、それをもとに結晶学の基礎から熱力学さらに電子物性の基礎を包括的にまとめたものとなっている。

第一章では物質の構造に関して述べられている。結晶学での結晶構造のマナーに関して、Bravais格子や点群の観点から、数式をなるべく使わずに視覚的にわかるように書かれている。また構造においても合金などをどのように記述するべきかなどにおいて具体的な例を用いて説明されており、わかりやすい。また材料組織と格子欠陥に関しても欠陥のらせん転位や刃状転位に関して図から説明されており、直感的にわかりやすいものとなっている。またこのような本にしては珍しく、非晶質に加えて準結晶に関しても述べられており、たとえばペンローズタイルの記法で構造がどのように記述するべきかという着眼すべき点である。

第二章、第三章、第四章では、同一著者により実際の固体サンプルの相の振る舞いに関して一連の説明がなされている。第二章では材料熱力学に関して述べられており、多数粒子の集合体としての性質を述べるための基礎知識に関して詳述されている。系の定義から始まり、熱力学の法則、化学ポテンシャルの定義に基づく表面張力の記述など、非常に基礎的な内容が書かれており、第3,4章で必要不可欠となる知識を詳述するイントロとなっている。第三章では状態図と相転移に関して記述されている。二元系、三元系合金などにおける冷却における相図の読み方が紹介されており、実用的なテコの原理などからある組成が与えられたときに結晶がどのように出てくるかということに関して紹介されており、金属や酸化物での相図の見方について詳述されている。第四章では拡散現象に関して化学ポテンシャルの概念から説明されており、1次元モデルなどのモデル系から説明されており、溶液および固体における拡散現象に関して中空粒子などができるさいのKirkendall効果の説明も含めてされている。これらの章から物質の相状態のみかたに関しての基礎知識を身につけることができるだろう。

第五章では化学系では忌み嫌われている(?)量子論に基づいた電子状態に関して記述されている。いわゆる物理化学の教科書に記載されている水素原子の量子論や分子軌道法が非常にコンパクトに纏められた上で、固体結晶での自由電子モデルも含めて説明がされており、それらの類似点がコンパクトに纏められている。例えばバンド構造の分散関係の図がわからない学生などは一度手にとって見ると良いと思われます。

それぞれの章において、単語や専門用語の定義から詳述し、準結晶、相図、原子の拡散からバンド構造の読み方まで紹介されている。特に章末における引用参考文献は充実しており、初学者向けの書籍となっている。これをもとに論文での式などの意味を理解することができれば十分に役に立つのではと思います。また教員で材料科学に関連した講義などを行う際には本書籍の記載事項をもとに授業すれば学生にもわかりやすいものとなると思われ、教員も一度手に取ると役に立つと思います。

関連書籍

[amazonjs asin=”4339066176″ locale=”JP” title=”量子物質科学入門―量子化学と固体電子論:二つの見方”]

上記書籍は本書籍の著者でもある山本先生の書籍ですが、物質の電子状態を量子化学と固体電子論の両方の立場からみているという意味で貴重です。

関連リンク

章末問題の詳解

はいぶりっど。

投稿者の記事一覧

はいぶりっど化学者。好きな言葉は"The sky is not limited"

関連記事

  1. 一流ジャーナルから学ぶ科学英語論文の書き方
  2. 藤沢晃治 「分かりやすい○○」の技術 シリーズ
  3. Cleavage of Carbon-Carbon Single…
  4. 理系女性の人生設計ガイド 自分を生かす仕事と生き方
  5. フィンランド理科教科書 化学編
  6. ジョン・グッドイナフ John B. Goodenough
  7. 教養としての化学入門: 未来の課題を解決するために
  8. 【書籍】合成化学の新潮流を学ぶ:不活性結合・不活性分子の活性化

注目情報

ピックアップ記事

  1. 人工タンパク質、合成に成功 北陸先端大、エイズ薬剤開発に道
  2. ひらめききらめく:/1 「創」のとき、夢の鼓動 /北海道
  3. バートリ インドール合成 Bartoli Indole Synthesis
  4. オリーブ油の苦み成分に鎮痛薬に似た薬理作用
  5. 化学コミュニケーション賞2023を受賞しました!
  6. プロジェクトディレクトリについて
  7. クラプコ脱炭酸 Krapcho Decarboxylation
  8. “アルデヒドを移し替える”新しいオレフィン合成法
  9. ゾル-ゲル変化を自ら繰り返すアメーバのような液体の人工合成
  10. 大学の講義を無料聴講! Academic Earth & Youtube EDU

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2024年版】

今年もノーベル賞シーズンが近づいてきました!各媒体からかき集めた情報を元に、「未…

有機合成化学協会誌2024年9月号:ホウ素媒介アグリコン転移反応・有機電解合成・ヘキサヒドロインダン骨格・MHAT/RPC機構・CDC反応

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年9月号がオンライン公開されています。…

初歩から学ぶ無機化学

概要本書は,高等学校で学ぶ化学の一歩先を扱っています。読者の皆様には,工学部や理学部,医学部…

理研の研究者が考える“実験ロボット”の未来とは?

bergです。昨今、人工知能(AI)が社会を賑わせており、関連のトピックスを耳にしない日はないといっ…

【9月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】有機金属化合物 オルガチックスを用いたゾルゲル法とプロセス制御ノウハウ①

セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合物を“オルガチック…

2024年度 第24回グリーン・サステイナブル ケミストリー賞 候補業績 募集のご案内

公益社団法人 新化学技術推進協会 グリーン・サステイナブル ケミストリー ネットワーク会議(略称: …

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

開催日時 2024.09.11 15:00-16:00 申込みはこちら開催概要持続可能な…

第18回 Student Grant Award 募集のご案内

公益社団法人 新化学技術推進協会 グリーン・サステイナブルケミストリーネットワーク会議(略称:JAC…

杉安和憲 SUGIYASU Kazunori

杉安和憲(SUGIYASU Kazunori, 1977年10月4日〜)は、超分…

化学コミュニケーション賞2024、候補者募集中!

化学コミュニケーション賞は、日本化学連合が2011年に設立した賞です。「化学・化学技術」に対する社会…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP