[スポンサーリンク]

一般的な話題

計算化学:基底関数って何?

[スポンサーリンク]

前回の記事でも述べたように、計算化学ではSchrödinger方程式を厳密ではなくとも解くために、波動関数の自由度を制限します。実際に計算する際には、どのような基底関数を選択するかで、波動関数の自由度が決まります。

今回も細かいところは省略して、ザックリと基底関数について説明します。

 

自由度の制限

まず、「波動関数を有限個の関数φ(=基底関数)の線形結合によって書ける」と仮定します。そうすると、分子軌道ψは下式で表せるようになります。Cは分子軌道係数、φは分子軌道、Nは分子軌道の総数です。

基底関数1

ここで更に、LCAO近似を用います。LCAOとは、Linear Combinations of Atomic Orbitalsの略です。分子は原子の集合体、つまり「分子軌道は、原子軌道の線形結合で表す事が出来る」という考えに基づいており、基底関数を各原子ごとに用意します。

例えば、CとHからなる化合物であったら下式のようになります。

 

基底関数4

 

Slater型基底&Gauss型基底

Slater型関数は、原子軌道の近似関数として広く用いられています。Gauss型関数は、Slater型関数に正確性において劣りますが、計算コストの面から、ほとんどの計算プログラムに置いて採用されています。

他に平面型基底、ウェーブレット型基底、混合基底などありますが、今回は割愛します。

基底関数2

最小規定系(minimal basis set)STO-nGなど聞いた事がある人が多いと思います。これは、各原子の内殻と価電子殻にそれぞれ1つずつSlater型関数を当てはめていったものです。

STO-nGは、Slater型関数をn個のgauss型関数を用いて表したものです。Slater型関数は、計算に時間がかかるため、gauss型関数を複数個用いて表しているのです。ちなみにSTOはSlater Type Orbitalの略です。

 

DZ、TZ、QZ

しかしながら、1個の原子が単独で存在している時の原子軌道と分子の中に存在している時の原子軌道では形が異なります。このようなとき、原子軌道の自由度を高めるために、異なる軌道指数を持つ複数個の関数を用います。異なる2つの軌道指数を有する関数セットをDouble Zeta(DZ)基底関数と呼びます。同様に、3つ、4つの関数をもつものをTriple Zeta(TZ)基底関数Quadruple Zeta(QZ)基底関数と呼びます。

このように、軌道指数を増やしていくほど、軌道の自由度・計算の精度は上がっていきますが、同時に計算コストも上がっていきます。

 

基本的な基底関数

6-31Gが最も頻繁に用いられていますが、有名なものとして次のような4種類の基底関数が存在します。(他にも無数にありますが、、、)

Pople系Huzinaga-Dunning系Roos ANO系Dunning cc-pV NZ系です。

基底関数3

 

 

どの種類を選ぶかは、先行研究を参考にすると言ったところでしょうか?「みんなが使っているものを使う」というのが鉄則です。非常に特殊な規定関数を使うと査読する人も「???」と思ってしまうでしょう!

もしも先行研究の無いものだったら、簡単な系について計算してみて実験値との誤差が少ないものを選ぶのが良いと思います。

 

分極(polarization)関数分散(diffuse)関数ECPなどに関しては今回説明を省略します。

 

基底関数には無数に種類がありますが、それぞれ周期表情のどの原子にまで適用できるかという事が決まっています。ちなみに筆者は、このページでよく確認しています。

http://www.hpc.co.jp/gaussian_help/m_basis_sets.htm

 

と、ここまで細かい説明は抜きにして基底関数についてザックリと説明しました。この記事の内容さえ理解できれば、あとは自分で勉強できると思います。

続きは実践有るのみです!

ゼロ

投稿者の記事一覧

女の子。研究所勤務。趣味は読書とハイキング ♪
ハンドルネームは村上龍の「愛と幻想のファシズム」の登場人物にちなんでま〜す。5 分後の世界、ヒュウガ・ウイルスも好き!

関連記事

  1. アロタケタールの全合成
  2. 天然階段状分子の人工合成に成功
  3. JCRファーマとはどんな会社?
  4. アリルC(Sp3)-H結合の直接的ヘテロアリール化
  5. 有機合成化学協会誌2019年6月号:不斉ヘテロDiels-Ald…
  6. 高難度分子変換、光学活性α-アミノカルボニル化合物の直接合成法
  7. 第3回ITbM国際シンポジウム(ISTbM-3)、第11回平田ア…
  8. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解貴金属めっきの各論編~…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. トシルヒドラゾンとボロン酸の還元的カップリング反応とその応用展開
  2. 化学研究ライフハック:情報収集の機会損失を減らす「Read It Later」
  3. 中国化学品安全協会が化学実験室安全規範(案)を公布
  4. エネルギーの襷を繋ぐオキシムとアルケンの[2+2]光付加環化
  5. 化学合成で「クモの糸」を作り出す
  6. 2004年ノーベル化学賞『ユビキチン―プロテアソーム系の発見』
  7. 「芳香族共役ポリマーに学ぶ」ーブリストル大学Faul研より
  8. 高分子鎖デザインがもたらすポリマーサイエンスの再創造|オンライン・対面併設|進化する高分子材料 表面・界面制御 Advanced コース
  9. クゥイリン・ディン Kui-Ling Ding
  10. 第20回 超分子から高分子へアプローチする ― Stuart Rowan教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年12月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2023年3月号:Cynaropicri・DPAGT1阻害薬・トリフルオロメチル基・イソキサゾール・触媒的イソシアノ化反応

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年3月号がオンライン公開されました。早…

日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 1

さて、日本化学会春季年会の付設展示会ケムステキャンペーンを3回にわたり紹介しましたが、ほぼ同時期に行…

推進者・企画者のためのマテリアルズ・インフォマティクスの組織推進の進め方 -組織で利活用するための実施例を紹介-

開催日:2023/03/22 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

Part 1・Part2に引き続き第三弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。…

第2回「Matlantis User Conference」

株式会社Preferred Computational Chemistryは、4月21日(金)に第2…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回のPart 1に引き続き第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける従来の実験計画法とベイズ最適化の比較

開催日:2023/03/29 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1

待ちに待った対面での日本化学会春季年会。なんと4年ぶりなんですね。今年は…

グアニジニウム/次亜ヨウ素酸塩触媒によるオキシインドール類の立体選択的な酸化的カップリング反応

第493回のスポットライトリサーチは、東京農工大学院 工学府生命工学専攻 生命有機化学講座(長澤・寺…

カーボンニュートラルへの化学工学: CO₂分離回収,資源化からエネルギーシステム構築まで

概要いま我々は,カーボンニュートラルの実現のために,最も合理的なエネルギー供給と利用の選…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP