[スポンサーリンク]

一般的な話題

2010年ノーベル化学賞予想―トムソン・ロイター版

前回までに海外版ケムステ版と称してノーベル化学賞の予測を紹介してきました。まったくいろいろな見方ができる賞の一つであるかと思います。そして毎年恒例でもあります、トムソン・ロイター社選定によるノーベル賞有力候補者が、このたび発表されました!化学賞候補として今年はなんと日本人の名が! さてさて予想に上がったのはどんな人たちなのでしょうか?

【多孔性金属-有機骨格の合成法および機能化学の開拓】

kitagawa_yaghi.jpg
北川 進 (京都大学)
オマー・ヤギー (米カリフォルニア大学ロサンゼルス校)

両教授は金属-有機構造体(Metal-Organic Framework: MOF)と呼ばれる材料の開発に貢献した化学者です。

MOFは適切な有機配位子と、金属クラスターを重合させてできる結晶性多孔性材料です。
金属と有機物のハイブリッドなので軽量であり、有機配位子をチューニングするだけで孔の機能を精密調整できるのが他に無い特徴として挙げられます。

MOFの応用例はさまざまに知られていますが、特にガス貯蔵材料としての応用が有望視されています。たとえば水素はクリーンエネルギーとして重要なガスですが、それを高密度で貯蔵し、安全に運搬することは極めて難しいです。MOFは軽量性に富み高い比表面積を持つため、水素貯蔵材料としても抜群の性能を示すとされています。

b802256a-ga.gif

現在爆発的な成長と研究競争を見せている流行分野の一つであり、本分野のパイオニアたる両教授の論文引用数は、どちらも破格の数値となっています。とはいえ実用化についてはもう少し研究が必要そうな印象で、実際にノーベル賞を受賞するのはまだ先・・・でしょうか。

【DNAマイクロアレイの発明と応用】

Patrick_Brown_1-e1413270008369
パトリック・ブラウン(米スタンフォード大・ハワード・ヒューズ医科研究所)

DNAマイクロアレイとは数万~数十万のDNA断片を基板上に配列させたものであり、遺伝子発現を迅速かつ網羅的に調べる目的で用いられます。

brown_01.jpg

この技術を使えば、例えば「薬物投与後や発病後にどの遺伝子がたくさん発現しているか?」などといったことを、きわめて迅速に解析することが可能です。現在では疾病診断や、研究ツールとして大変有効に使われています。

ブラウン教授はこの技術の発明者として知られています。

【DNA複製阻害インターカレーター+生物無機化学】

lippard.jpg
ステフェン・リパード (米マサチューセッツ工科大)

リパード教授は生体分子と金属の境界領域、すなわち生物無機化学の領域で活躍する研究者のひとりで、生体高分子と金属の相互作用・その解析を主軸テーマとして研究を進めています。

彼らのグループはメタロインターカレーター、すなわちDNA塩基対の間に挿入し、二重鎖を複製阻害する白金錯体を世界で初めて開発しました。

これはシスプラチンに代表される白金系抗癌剤の作用機序の解明、ひいてはより高活性な抗癌剤を開発していくための基礎的知見へと直結する研究成果となりました。

cisplatin_1.gif

また他にもメタンモノオキシゲナーゼ(MMO)などの金属含有酵素の構造解析や、NO蛍光センサーの開発などについても、世界的な業績をあげておられます。

今回のトムソン予想では、将来のノーベル医学賞はおそらくガチたる山中伸弥教授(京都大学)、経済学賞の清滝信宏教授(米プリンストン大)もチョイスされ、化学賞以外からも日本人が多く選ばれました。日本のサイエンスのレベルの高さが端的に伺える、喜ばしい結果だったのではないでしょうか。

今年のノーベル化学賞は、10月6日に発表です。楽しみに待ちましょう!

関連リンク

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ニッケル触媒による縮合三環式化合物の迅速不斉合成
  2. 高分子鎖デザインがもたらすポリマーサイエンスの再創造
  3. 有機レドックスフロー電池 (ORFB)の新展開:オリゴマー活物質…
  4. 超若手科学者の発表会、サイエンス・インカレの優秀者インタビュー
  5. グサリときた言葉
  6. システインの位置選択的修飾を実現する「π-クランプ法」
  7. クリスマス化学史 元素記号Hの発見
  8. 「anti-マルコフニコフ型水和反応を室温で進行させる触媒」エー…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. パリック・デーリング酸化 Parikh-Doering Oxidation
  2. Slow down, baby, now you’re movin’ way too fast.
  3. アルキンの水和反応 Hydration of Alkyne
  4. 奇妙奇天烈!植物共生菌から「8の字」型の環を持つ謎の糖が発見
  5. C-CN結合活性化を介したオレフィンへの触媒的不斉付加
  6. 2013年就活体験記(1)
  7. キラルアニオン相関移動-パラジウム触媒系による触媒的不斉1,1-ジアリール化反応
  8. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」③(解答編)
  9. トリフルオロ酢酸パラジウム(II):Palladium(II) Trifluoroacetate
  10. 顕微鏡で有機分子の形が見えた!

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

(−)-Salinosporamide Aの全合成

(−)-salinosporamide Aの立体選択的全合成が達成された。アザ-ペイン転位/ヒドロア…

クラウド版オフィススイートを使ってみよう

クラウド版オフィススイートとはOffice onlineやGoogle ドライブなどのことで、ソフト…

NHCが触媒する不斉ヒドロフッ素化

キラルなN–ヘテロ環状カルベン(NHC)を触媒として用いたα,β-不飽和アルデヒドに対する不斉ヒドロ…

ケミカルバイオロジーとバイオケミストリー

突然ですが、質問です。有機化学と無機化学。違いは説明できますか?「生体物質をあつかうものが有…

改正特許法が国会で成立

特許を侵害したと疑われる企業に専門家が立ち入り検査する制度を新設する改正特許法が10日午前の参院本会…

創薬人育成サマースクール2019(関東地区) ~くすりを創る研究の醍醐味を知る!~

動物や臓器に代わる画期的な実験ツールとして注目される生体機能チップ、原薬(API)合成に不可欠なプロ…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP