[スポンサーリンク]

ケムステニュース

潤滑剤なしで抜群の滑りを実現する「自己潤滑性XXドーム」が開発されている

[スポンサーリンク]

避妊や性感染症予防に有効な「XXドーム」は、装着したときの感覚が非常に重要です。その中でも「滑りやすさ」をもたせることは特に重要な要素となるのですが、潤滑剤を塗布しなくても潤滑性を生み出す表面構造をもった「self-lubricating condom(自己潤滑性XXドーム)」が研究・開発されています。(引用:Gigazine 10月24日)

XXドームの多くはラテックスでできていますが、使用時の痛みや不快感を低減するために潤滑剤が塗布されています。しかし潤滑剤は、行為中の摩擦によってXXドームから削げ落ちるため摩擦の不快感を感じる人が多いそうです(筆者は使ったことがないのでわかりません!)。そこで、ボストン大学のMark W. Grinstaff教授らのグループは、ラテックス表面自体に親和性をもたせて摩擦を減らす「自己潤滑性」をもたせたXXドームを開発しています。

最近発表された論文によると、ラテックスのXXドームにa:重合開始剤である2-hydroxyethylacrylateとbenzophone、b:親水性ポリマーであるPolyvinylpyrrolidoneを含む水エタノール溶液をディップコーテングによって成膜し、30分のUV照射によって固定化させたそうです。コーティングを施していないXXドームと比べると光が反射していて表面がツルツルになっているように見えます。また、SEM画像でもラテックスの表面粗さがカバーされ、凹凸がなくなっています。

成膜方法、写真、SEM画像

 

次に摩擦を測定したところ、自己潤滑性XXドームは水(=体液)を潤滑剤とすることで潤滑剤+コーティングなしのラテックスと同定での摩擦係数を示すことがわかりました。さらに、潤滑剤+コーティングなしのラテックスでは時間がたつと摩擦係数が上昇していくのに対して、自己潤滑性XXドームは摩擦係数が一定かやや低下することがわかり、長時間の使用でも潤滑性が保たれることが示されています。

摩擦測定の結果

さらには、実際に自己潤滑性XXドームを使用してもらい、使用感のアンケートを取ったところ、85%の人が自己潤滑性XXドームが最も滑りやすく、73%の人が自己潤滑性XXドームが最もに気に入ったと答えたそうです。摩擦係数の比較では、潤滑剤+コーティングなしのラテックスと同等だったのに対して実際に使った場合には、それよりも優れていることが証明された結果といえます。

使用後のアンケート結果

論文中ではテストモニターが33人とまだ少ないことと、シリコンベースの潤滑剤をテストしなかったことに言及していて今後の研究の課題としています。著者のStacy Chin博士とMark W. Grinstaff教授は、HydroGlyde Coatingsという会社を設立していてこのテクノロジーの数年以内の実用化を目指しているようです。またこの研究は、Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏とその妻メリンダ氏が設立したビル・メリンダ・ゲイツ財団の援助によって行われたものです。

XXドームというとてもニッチな産業にも関わらず今なお多くの研究が行われているということは、HIV感染の深刻さが反映され多くの人が根絶を願って努力を続けていると考えられます。またこの人間の行為をいかに良くするかという究極的な探索だからなのかもしれません。

<注意> 特に問題ない記事ですが、用語を掲載するとG社から怒られるので、一部をXXと掲載しています。ご了承ください。

関連書籍

関連リンクとケムステ過去記事

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. ヤンセン 新たな抗HIV薬の製造販売承認を取得
  2. 化学コミュニケーション賞2022が発表
  3. 「イオンで農薬中和」は不当表示・公取委、米販2社に警告
  4. 室内照明で部屋をきれいに 汚れ防ぐ物質「光触媒」を高度化
  5. 夢・化学-21 化学への招待
  6. 米FDA立て続けに抗肥満薬承認:Qsymia承認取得
  7. 三共・第一製薬の完全統合、半年程度前倒しを検討
  8. 住友化学、Dow Chemical社から高分子有機EL用材料事業…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 化学者のためのエレクトロニクス入門④ ~プリント基板業界で活躍する化学メーカー編~
  2. 太陽電池を1から作ろう:色素増感太陽電池 実験キット
  3. アレノフィルを用いるアレーンオキシドとオキセピンの合成
  4. Chemical Science誌 創刊!
  5. 元素ネイルワークショップー元素ネイルってなに?
  6. プレプリントサーバー:ジャーナルごとの対応差にご注意を【更新版】
  7. 私立武蔵高 の川崎さんが「銀」 国際化学オリンピック
  8. ホーナー・ワズワース・エモンス反応 Horner-Wadsworth-Emmons (HWE) Reaction
  9. 第32回ケムステVシンポ「映える化学・魅せる化学で活躍する若手がつくばに集まる」を開催します!
  10. 特定の場所の遺伝子を活性化できる新しい分子の開発

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

超塩基に匹敵する強塩基性をもつチタン酸バリウム酸窒化物の合成

第604回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 元素戦略MDX研究センターの宮﨑 雅義(みやざぎ…

ニキビ治療薬の成分が発がん性物質に変化?検査会社が注意喚起

2024年3月7日、ブルームバーグ・ニュース及び Yahoo! ニュースに以下の…

ガラスのように透明で曲げられるエアロゲル ―高性能透明断熱材として期待―

第603回のスポットライトリサーチは、ティエムファクトリ株式会社の上岡 良太(うえおか りょうた)さ…

有機合成化学協会誌2024年3月号:遠隔位電子チューニング・含窒素芳香族化合物・ジベンゾクリセン・ロタキサン・近赤外光材料

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年3月号がオンライン公開されています。…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。第一弾・第二弾につづいて…

ペロブスカイト太陽電池の学理と技術: カーボンニュートラルを担う国産グリーンテクノロジー (CSJカレントレビュー: 48)

(さらに&hellip;)…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回の第一弾に続いて第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業との…

CIPイノベーション共創プログラム「世界に躍進する創薬・バイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第104春季年会(2024)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界に躍進…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1

今年も始まりました日本化学会春季年会。対面で復活して2年めですね。今年は…

マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例 -なぜあの企業は最短でMI推進を成功させたのか?-

開催日:2024/03/21 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP