[スポンサーリンク]

一般的な話題

被引用回数の多い科学論文top100

[スポンサーリンク]

科学者ならば論文を投稿する際に、雑誌のIF(Impact Factor)を少なからず気にしまよね。

IFのいい雑誌に論文を掲載する事と同様に、掲載後の重要な指標となるものが、被引用回数という指標。IFと同じく様々な場面で重要な審査指標となっている場合が多くあるのではないでしょうか。では、被引用回数がこれまで最も多い論文はどの論文になるのでしょうか?

今回は、Nature編集者と化学ライターによって投稿された記事を紹介しましょう*。

 

“The top 100 papers”

Noorden, V.; Richard, R.; Maher, M.; Brendan, B.; Nuzzo, N.; Regina, R. Nature 2014. 514, 550-553,  DOI: 10.1038/514550a

 

1900年以降論文を対象とした調査なので、19世紀の論文は対象外ですが、大変面白い傾向があるようです。top100の論文はエクセル形式で簡単にdownloadできますので一度みてみるのもいいかもしれません。

*データはトムソン・ロイター社のWeb of Scienceから提供されたもので、2014.10.7時点の被引用回数が元になっています。

*本論文から引用している日本語はNature digestの翻訳者、三枝氏による日本語訳を引用・参考にしています。

 

top100に入るラインは?

まず、top 100というのがどの程度すごいことなのでしょうか。著者等は、そのすごさを次のように例えています。


・・・Web of Scienceには5800万件もの登録されている。これらの文献の最初の1頁のみをプリントアウトして被引用回数が多いものが上になるように積み重ねる と、キリマンジャロ山(5895m)と同じくくらいの高さになる。しかし、被引用回数トップ100に入る論文は頂上のわずか1cm分を占めるにすぎない。 1000回以上引用されている論文に範囲を広げてみても14499本しかなく、頂上から1.5m分にしかならない・・・

top100に入ることの難しさかがわかりやすく述べられてますね。

同時に彼らは次のように、調査によって予想外の結果を得たことを述べています。

・・・中でも驚きが大きかったのは、世界で最も有名な論文の多くはトップ100に入っていないことである。トップ100にランクインした論文を見ると、・・・第一線の発見はいくつかの含まれているものの非常に少数であり、圧倒的多数を占めているのは、各分野の研究に欠かすことができない実験方法やソフトウェアに関する論文であった。・・・

 

これは面白いですね。素晴しいノーベル賞級の論文がなぜ引用されないのでしょうか。この点に関して、ライデン大学科学技術センター所長のPaul Woutersと本著者等は、2つの科学者(界)の慣習によって理解できる部分もあると述べています。

  • 慣習①研究手法に関する論文の多くは「科学者がどのような研究と行っているかを科学者仲間に知らせるための標準的な参考文献になっています」
  • 慣習②アインシュタインの相対性理論のような真に基礎的な発見の被引用回数は妥当と考えられる回数よりも少なくなる傾向があるようで、こうした重要な発見はすぐに教科書に掲載されたり、引用の必要のないほど知られた用語として論文に登場するようになる。

 

top100:20世紀に最も進歩した科学分野の反映か?(化学は・・・)

残念ながら化学論文の被引用回数は、生物(バイオインフォマティクス、系統学)におされているというのが正直な感想です。現在のtop100は、20世紀に入って大きく進歩した生物学と大量のデータを処理できるコンピュータの進歩の影響が大きくそれらがそのまま反映されているようにもみれます。

top1,2,3を始め蛋白質生化学の論文がtop100のかなりの本数を占め、結果全体に大きな影響を与えています。

第一位は1951年にLowry等によってJ.Biol.Chem.で発表された、蛋白質定量法に関する論文です。他にも化学の皆さんでも一度は聞いた事のある細胞生物学や分子生物学で不可欠なツールに関する論文が多く登場します。

ノーベル賞を受賞したものとしては、DNA塩基配列決定法に関する論文(Sanger, P.)とPCRに関する論文(Mullis,K.)があります。どちらもノーベル化学賞としての受賞です。これらの論文の出現以降、塩基配列分析法に関係する論文が続々とtop100にランクインするようになったようです。ゲノム塩基配列決定法は、結果として様々な分野に恩恵を与えることになるのですが、そのためには大量のデータをいかに迅速に処理するかという技術的な問題が壁となっていました。1970年代からコンピューターの大きな発展とともに大量のデータを容易に扱えるようになったことで、Bioinfomatics 分野にたくさんの花を咲かせることになりました。BLASTやClustalWに象徴されるように、ウェブブラウザでプログラムを開けば、様々な情報の入ったdata baseから必要な情報を瞬時に提供してくれるようなソフトウェアは、利便性が高くため、需要があるもので信頼を勝ち得たものはランクインしています。ゲノム塩基配列決定技術の恩恵を受けたもう1つの分野が系統学(生物種間の進化関係を調べる)です。そのためこの分野からのtop100入りも多く見られます。

20世紀に入ってからおこったもうひとつ大きな流れとして現在の創薬が確立された時期であることがあげられます。統計学は生物医学分野、特に臨床試験においてその化合物の効果や安全性をみるため大変重要です。しかし、大量のデータを処理する能力がないと統計学の手法 を有効に利用することはできません。第11位の「カプランマイヤー推定法」の論文は1958年に発表されましたが、当初ほとんど引用がなかったようです。し かし、創薬の臨床開発手法の成熟とコンピューターの処理能力の向上に伴い、専門外の研究者も比較的手軽に利用できるようになったため被引用回数が伸び始めたと推測されます。

 

nature 2014-12-30 0.25.07

(図1. Nature, 2014, 514, 550 の図を一部改)

 

以上のように、生物に関係する分野では、その分野の中で時代に求められる有用な手法(生物学)や他の分野の技術の成熟の後に生物分野で利用される手法や理論(Bioinfomaticsや統計学)が被引用回数上位を占めているようです。

化学分野に関係の深いものでは、密度汎関数理論(DFT)に基づくソフトフェア関係が多くランクインしています。DFT関係だけで、top100のうち12本を占めているのは驚きです。この分野では生物関係者だけでなく、私達も多くの恩恵を受けています。化学者で恩恵を受けてる方も多い、Gaussianというソフトの基礎となる手法に関する論文は、第7位、第8位にランクインしています。ご存知の通り、Pople,JとKohnは1998年にノーベル化学賞を受賞しています。

もう1つ、化学に関係のあるソフトフェアとして、結晶学の結晶構造を解くソフトウェアSHELEXがあげられます。このソフトはSheldrick, G.という化学者が1970年代にプログラムを書き始め40年以上にわたって定期的にアップデートされているソフトです。Sheldrick氏は、「その手のプロジェクトで研究助成金を獲得できませんでした。私の仕事は化学を教えることだったので、余暇の趣味としてプログラムを書いたのです」そうです。2008年に彼がレビュー論文を発表し、その後たった6年で37978回引用され第13位に一気にランクインしたことからも、彼の積み重ねた業績のすごさが垣間みれます。

George M. Sheldrick

George M. Sheldrick

個人的に残念なのは、実験有機化学の分野から、ランクインが極めて少ないことです。材料系から数報ランクインしている程度です。飯島先生のカーボンナノチューブの発見に関する論文が36位に入っています。同じ日本人というだけですが、少し誇らしく思いました。

 

最後に

natureの記事の概要をお伝えしてきましたが、皆さんはどう思われたでしょうか。私は、被引用回数というのは、時代の流れや科学分野のブームに大きく左右されるものだと感じました。最後にエール大学の化学者Peter Moore教授の指摘で本寄稿を締めたいと思います。

被引用回数が欲しいなら、人々がやりたがっている実験を可能にするが、もっと容易にする手法を開発すればよい。そうすれば、宇宙の秘密を解き明かすよりはるかに上位にランクインできるであろう (翻訳 三枝小夜子 )

 

参考文献

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4326000333″ locale=”JP” title=”引用する極意 引用される極意”]
Avatar photo

MasaN.

投稿者の記事一覧

博士(工)。できる範囲で。

関連記事

  1. プラスチックに数層の分子配向膜を形成する手法の開発
  2. 創薬・医療系ベンチャー支援プログラム”BlockbusterTO…
  3. 含ケイ素四員環-その2-
  4. 第57回有機金属若手の会 夏の学校
  5. ゾウががんになりにくい本当の理由
  6. 発光材料を光で加工する~光と酸の二重刺激で材料加工~
  7. ChemTile GameとSpectral Game
  8. IR情報から読み解く大手化学メーカーの比較

注目情報

ピックアップ記事

  1. ロゼムンド・リンドセー ポルフィリン合成 Rothemund-Lindsey Porphyrin Synthesis
  2. 資金洗浄のススメ~化学的な意味で~
  3. セリ科植物に含まれる生理活性成分
  4. ガラス工房にお邪魔してみたー匠の技から試験管制作体験までー
  5. 大気中のメタン量、横ばいに/温暖化防止に朗報か
  6. 英語発表に”慣れる”工夫を―『ハイブリッド型報告会』のススメ
  7. JSRとはどんな会社?-1
  8. 新たな特殊ペプチド合成を切り拓く「コドンボックスの人工分割」
  9. 柳沢 正史 Masashi Yanagisawa
  10. おまえら英語よりもタイピングやろうぜ ~上級編~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年1月
月 火 水 木 金 土 日
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

大学院留学してよかったこと, 悪かったこと【英語, 経済面, オーバードクターに関するお話】

海外の大学で、その大学に籍を置く大学 (院) 生として留学することは「学位留学」と呼ばれたりします。…

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

ハロゲンの力で強力な結合を切断!天然物クマリンから医薬品・機能性材料原料のクマラノン類へ

第 722 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合…

観察を写真で残す!カメラ内蔵リアクタ EasyMax 102i を使ってみた

反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。とこ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP