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世界の中心で成果を叫んだもの

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2020年オリンピック開催が東京に決まりました。世界のトップアスリートが集うオリンピックが自国で開催されるなんて滅多にないこと。まだ先の話ですが、ワクワクしますね。

7年後に向けて、世界で闘う日本のアスリートには今後注目が集まっていくことでしょう。しかしいつも悲しく思うのは、分野は違えども世界を舞台にしている研究者にはなかなか注目が集まらないという事実です。研究者も、オリンピックに向けて負けないようにアピールしていく必要があります(?)

というわけで、今回は市民に感動を伝える研究アピール・成果発表について考えていきたいと思います。

なぜ研究アピール・成果発表をするのか?

成果発表する動機として、たくさんの人が「税金を使っている以上は社会的な責任があるから」と答えてきています。しかし我々は、責任のためだけに研究しているわけではありません。新しい知識や技術を得たときの喜びを、もっと単純に伝えていくべきだと考えています。

理想は、その発見がどのようにおもしろいかを、より多くの人に伝えることです。しかし私は、たったひとりにでも伝われば発表した価値があると考えています。科学の最先端は、人類にとってそれ以前には存在していなかった世界です。

サイエンス・フィクションに過ぎなかったことを現実にした!

と、誰かに伝え、世の中に広めていけばいいのではないでしょうか。

Google Scholarでお馴染みの「巨人の肩の上に立つ」という言葉の通り、最新の科学技術は過去の多くの研究成果を基にして存在します。優れた研究成果があっても人の目に触れなければ、その分だけ技術の進歩が遅くなります。機会損失をなくし、科学技術の進化を加速する。どんな小さな成果でも、広く発表しておけば予想外の結果を生み出す可能性があります。科学技術の発展は自分ひとりで成し遂げられるものではありません。

自分のため・周りのため

たくさん予算を集めよりよい地位に就くことは、自分がやりたい研究を行う上で必要不可欠だと思います。成果の発表は仕事の知名度や評判を高め、自らが過ごしやすい環境を作るきっかけになります。さらには科学技術全般に注目が集まり、研究者全体の地位向上に繋がる可能性があります。

しかし最大の収穫はお金や地位ではありません。研究へのフィードバックです。自分とは少しでも異なる視点から研究に対するコメントが得られれば、今まで出てこなかった研究のヒントになるかもしれません。成果の発表によって研究が磨かれ、さらに新しい成果を発表する、いいループができあがれば研究が楽しくなり、関心を高め続けることにも繋がります。

世界一流の化学者のプレゼンテーションは、誰にでもわかりやすく、他の発表者とはひと味違ったものが多いという印象をもっています。世間に成果を発表する経験はプレゼンの力を高めるなど、研究の世界においても生きてくるでしょう。

プレスリリースを出す

論文などの成果が出たらすべきはプレスリリースです。

京都大学の場合、学内に記者室があります。資料を準備して広報課に連絡すれば取り次いでもらえます。近隣の大学からも利用することができます。論文などの成果を発表する際、資料の「投げ込み」・「記者レク」・「記者会見」を選択することになります。私が利用したことのある記者レクは、科学メディアの科学記者に直接プレゼンして説明するというものです。

プレスリリースの文書は一般市民にわかりやすいように、図を多用しつつ簡潔なものにしましょう。用語解説は脚注にせず、スムーズなひとつの文章にすることが大事だと私は感じています。理化学研究所のプレスリリースのように、60秒でわかるような簡潔なバージョンを用意しておくといいかもしれません。

記者レクでは、要点をわかりやすく丁寧に説明できるように準備しましょう。スライドではキャッチーな図表とともに、報道して欲しい内容を強調しましょう。

インターネットの活用

テレビや新聞といったメディアは自分の研究成果を世に広めるための強力な手段です。しかし保存性が悪いため、あとから掘り返されることは多くありません。運良く見つけられて少し詳しい内容が知りたくなったとしても、有名ジャーナルでオープンになっている論文はあまり多くありません。報道よりちょっと詳しい程度の内容は自分自身でインターネット上に残しておきましょう。

これからの時代、成果発表を有効に行うためにはインターネットメディアを積極的に利用すべきだと考えています。社会的には信用性が劣るかもしれませんが、きちんと選べば丁寧かつ正確に伝えてもらえると感じています。有名サイトに掲載されれば、検索上位に出てくるという利点もあります。

私は有名ブログの事務所に自ら足を運んで記事を書いてもらったことがありますし、ワイリー・サイエンスカフェに論文紹介をお願いしたりもしています。これら両方に私の知り合いはいませんでしたが、メールを送ったところ快く引き受けてもらうことができました。自ら動いていくことが大事です。今後は海外サイトでのアピール方法も考えていくつもりです。

現状へのつぶやき

私には、(閉鎖的な研究環境の外にある)広い世界と繋がりをもってこそいい研究ができる、という信条があります。これからの時代を担う若い研究者は、積極的に社会とのつながりを探していくべきです。

分野外にはどうせわからない、勉強していない人に話してもしょうがない、論文さえ出していけば成果発表として十分だと考える研究者もいます。しかし将来において、世界中で論文数が増加した(日本からの比率が減っている)状況で埋もれてしまわないためには、研究費が減ることはあっても大幅に増えることが望めない日本で生き残っていくためには、世間からの注目が大きな助けになる時代が来るはずです。先手を打ちましょう。

研究アピールで目立つと、言いがかりに近い批判を飛ばしてくる人がいます。その目的は出る杭を打つことであり、研究の中身を評価しているわけではないことがほとんどです。恐れずに堂々と発表すれば、世の中の大半は好意的に評価してくれます。彼らに言いたい、うまくいっている研究者に嫉妬なんかしている暇はないのだと。やるべきは、何故それが世間で注目を浴びているかを分析し、自分の成果発表に取り込むことです。

メディアにも不満があります。科学大国として情けないことですが、大手新聞社の科学記者でも高校教科書レベルの化学を理解していない者がいます。プロとしてさすがに勉強不足だと感じましたが、世間と接触しない環境を作ってきた研究者側にも問題があるのかもしれません。興味深い成果を伝えていくことで市民から知の欲求が高まれば、需要に応じて正しくわかりやすい科学ニュースが増えていくものだと考えています。

先日私が記者レクチャーした際には、筆頭著者である私の名前を明示するようお願いしました。博士課程の学生がいくらアイデアを出し実験をしても、成果発表の際にはどうしても教員に注目がいってしまいます。若手研究者の地位は低く、民間への就職難やポスドク問題などが改善される兆しはありません。社会に向けて自ら積極的に、私たちが新しい世界を作り出しているんだとアピールしなければ何も変わらないでしょう。

2020年に存在するであろう科学技術を切り拓いていくのは我々研究者です。30年前に予想された空飛ぶ車が2015年に登場することはなさそうですが、今はまだ想像できない化学材料が2020年にはいくつか登場していることでしょう。東京オリンピックの試合がインターネットやテレビで放映される頃、スポーツと同じ規模で科学が取り上げられるようになっていればステキですね。それはもちろん、世界中でのことです。

今夏、絶海の孤島で知られる青ヶ島に上陸した際に出会ったバックパッカーが私の研究内容を知っていました。化学とまったく関係ない人にも自分の研究が広まっているのは、とてもうれしい状況です。近い将来、この記事を読んだみなさんにも体験して欲しいと思っています。

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GEN
国立大JK。エアロゲルやモノリス型マクロ多孔体を作製しています。専門分野はあいまいです。ピース写真付インタビューが化学の高校教科書に載りました。

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