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化学者のつぶやき

MSI.TOKYO「MULTUM-FAB」:TLC感覚でFAB-MS測定を!(1)

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有機合成反応追跡として最も簡便なのは TLC (Thin layer chromatography)ですね。化合物を知り尽くしている有機化学者にとってTLCでの動きを見れば反応確認は十分かもしれません。ですが、反応追跡を極性の変化のみならず質量分析(Mass spectrometry; MS)でも得られたら便利です。

質量情報は、研究室においてあるGC-MSやLC-MSを使えば得ることができます。ですがクロマトを使っているのでどうしても時間がかかります。できればTLCを展開している間に、クルードサンプルでMS情報を得たい。

このような希望、ありませんか?

そんな希望を叶える装置「MULTUM-FAB」がMSI.TOKYO社から販売されています。MSをご存知の方は「え?FABって大型機器室で一番大きい装置でじゃなかった?」と疑問を感じることでしょう。

このMULTUM-FABはこれまでの装置からは想像がつかないような変遷を遂げたマシンなのです。今回はこのMULTUM-FABについて2回にわけてMSの基礎から紹介させていただきます。

*本記事は名古屋大学ITbMモレキュラーストラクチャーセンターのチーフコーディネーターが執筆したものを、編集し公開しています。

 

MSってどんな装置?

質量分析計は、試料導入部・イオン源・分析部・イオン検出部・データ処理部から構成されております。これらの組み合わせにより装置の特徴が生まれることからMS会社は組み合わせの相性・用途・価格などを考慮して装置を開発しております。

例えばGC-MSに使われている分析部である四重極型(quadrupole; quadまたはQ)、飛行時間型(time of flight; TOF )および磁場型(二重収束型またはsector)を用途に応じて比較してみると下記の表1のようになります。

 

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表1 MSの分析部の比較

 

実際に販売されている装置で比べてみると、「試料を分離してから測定」・「揮発性低分子限定」・「コンパクト」「安価」・「整数質量測定」で組み合わせると、GC-EI-QUAD-MS(いわゆるGC-MS)が該当します(図1)。

 

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図1 GC-MS(出典:JEOL

 

ここの、「コンパクト」・「安価」・「整数質量測定」を「なるべくコンパクト」・「精密質量測定」に置き換えると、GC-EI-TOF-MS(いわゆるGC-TOF)が該当します(図2)。ラボにはギリギリ置ける(?)大きさですが値段はGC-MSの数倍になります。

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図2 GC-TOF(出典:JEOL

 

さらに「精密質量測定」・「EI, FAB, FD, FI等多様なイオン源が搭載可能」に置き換えると、「コンパクト」ではないsector-MS(いわゆる磁場型)のみ該当します(図3)。

 

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図3 磁場型 (出典:JEOL)

MSに搭載されている様々なイオン化法

質量分析を行うためには、サンプルをイオン化させる必要があり、サンプルの種類に応じた様々なイオン化法が開発されております。

昔から今まで汎用されてきた手法としてはGC-MSに搭載されている電子イオン化法(Electron ionization; EI)があります。そして近年使われている手法としては、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(Matrix-assisted laser desorption ionization; MALDI)およびLC-MSに搭載されているエレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization; ESI)などが挙げられます。2002年のノーベル化学賞の技術ですね。

今回紹介したいのは高速原子衝撃(Fast atom bonbardment; FAB)というイオン化法を搭載したMSです。

 

イオン化FABって?

FABは過去の記事(MSの基礎知識)にも記載されているように、EIよりもソフトなイオン化法であるため 分子関連イオン情報が得やすく、MALDIおよびESIと比較して夾雑物に強いため、精製度が低いサンプルでも測定できるという優れたイオン化法です。

しかしながらFABを搭載したマシンは磁場型のみ販売されています。そして磁場型マシンは、年々減少傾向にあるのが現状です。理由は昨今の装置(数百kg)と比較して装置が大きく重く(3トン)場所をとるから、です(図4)。また、精製さえ行えば他のイオン化法でまかなえるサンプルが多く、オービトラップのように誰でも簡単に精密質量が測定できるマシン(過去の記事参照:サーモサイエンティフィック「Exactive Plus」: 誰でも簡単に精密質量を!)に人気があることから磁場型質量分析計はアカデミックおよびダイオキシン分析(公定法には磁場型と四重極型が記載されているが、高感度・高選択性により磁場型が選ばれている)など特殊な用途以外新規購入されにくくなっています。

磁場型FABの構造

図4 磁場型FABの構造

 

このように絶滅の危機に瀕しているFABですが、なくなってしまうのはあまりにも勿体無い話です。有機合成研究において、予想しなかった生成物が得られることは日常茶飯事であり、そんな時に精製せずとも質量情報が得られるFABはありがたい存在です。さらには精製を行ってESIで測定してもイオン化の過程でまわりの溶媒と反応してしまい検出できないとか、夾雑物を除去しきれずMALDIでは何も見えないような時、FABは力強い存在ですね。

絶滅の危機に瀕したFABを救ったMULTUM技術とMSI.TOKYO

 

「でも、大多数の化合物はEI, MALDI, ESIでみえるよね。磁場型MSは大きくて重たいからラボに置けないし、操作間違えるとマシンを壊すって言われているので、自分で測定するのもなんだか怖いし。」

 

このような声に応えるべく、MSI.TOKYO社が開発したのが「FABを搭載した飛行時間型MS」です。その大きさなんと、デスクトップパソコンサイズ!ラボに楽々置けるんです。場所替えだって楽々!理想的な使い方としては、TLC用サンプルの一部をFABでも分析、でしょうか。

と、ここからこの機器の紹介をしたいところですが、長くなりましたので次回に続きます!

 

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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