[スポンサーリンク]

一般的な話題

異分野交流のすゝめ

[スポンサーリンク]

「ほかの学問との境界領域こそ豊富な金鉱が手つかずに残されているのです。」(野崎一

 

「時には踏みならされた道から離れ、森の中に入ってみなさい。そこではきっとあなたがこれまで見たことがない何か新しいものを見出すに違いありません。」(アレキサンダー・グラハム・ベル

 

皆さんの関心がある分野はどのような分野ですか?

基本的には化学であると思いますが、ひとえに化学といっても様々な分野がありますよね。日本化学会の年会に参加してみれば分かりますが、自分では正直理解が難しい分野が多数あります。そうしましとどうしても自分の分野のセッションの講演を聴いて、異分野のセッションしかない時間帯は観光モードに変わってしまうこともあるのではないでしょうか。

 

しかし、それでいいのでしょうか?

 

筆者は有機化学を専門として学位を取得後、かなり生物寄りのポジションで職を得ました。正直、最初は周りの人達が何をしゃべっているのか専門用語が理解不能でした。ウエスタンサザンだと、なんでこの人たち方角の話をしてるんだろうかという状態で、一から勉強し直しまして、現在では遺伝子がどうのこうのという話にも何とかついていけるようになりました。

その過程で気付いたのは、向こうもこちらの話には全くついてこれていないという事です。読者の皆様の中にも高い専門性を持った研究者同士は、お互いなかなか分かり合えないという経験をお持ちな方もいらっしゃるはずです。

 

でも、そのままでいいのでしょうか?

 

筆者はTwitterで気ままに有機化学さんご提供の、研究者に贈る名言botをフォローしております。その中で偉人たちはどこの国、どんな分野であっても同じような境地に達するもんだなと感心することがあります。

冒頭の言葉はその中から拾ってきたものです。異分野間の交流は全く新しい発見を導いてくれる大きな可能性を秘めているように思います。今は境界領域になっていないような意外な学問の組み合わせこそが、これからの化学の生きる道ではないでしょうか。

collaboration_2

例えば、”水”という最もありふれた分子に関する研究に興味がある研究者として、物理学物理化学分析学コンピュータ科学の分野で水そのものの研究をしているグループがあることでしょう。一方、有機合成化学高分子化学超分子化学の分野で自らユニークな分子を創成し、その分子と水との興味深い相互作用について研究しているグループがあるかもしれません。

そういった普段はとても学会の同じセッションにいないメンバーが、”水”をきっかけにもし出会える場があったならば、素晴らしいコラボレーションが生まれるかもしれません。

 

しかし、そんな機会に恵まれたとしても、いくつか気をつけなければならない事があると思われます。

まず、可能であればそのお互いのグループを取り持つチューターがいれば話は進めやすいことでしょう。異なる分野を主戦場としていますから、どうしてもお互いに通じない用語があるかもしれません。

collaboration_1

画像は文献より引用

共通のプロジェクトに関するディスカッションの際は、できるだけ自分の過去の経験について語らない方が良いかもしれません。変な先入観で議論が良くない方向に向かう可能性があります。

お互いが自分の専門の領域、心地よい場所に立って議論していては、真に新しいものは見いだせないのではないでしょうか。メンバー皆があまり心地よくない思いをするくらいが、チャレンジする価値のある、きっと素晴らしいプロジェクトになるに違いありません。

 

今回のポストはNature Chemistry誌からお馴染みBruce C. Gibb教授によるthesisを基にさせていただきました。前回のはこちら

Stretching the comfort zone

Gibb, B. C. Nature Chem. 7, 611-612 (2015). doi: 10.1038/nchem.2312

 

さあ皆さんもとりあえずCSJ化学フェスタ2015に参加して、コラボレーションの種を探してみましょう!

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4785771216″ locale=”JP” title=”別冊NBL No.149 共同研究開発契約ハンドブック―実務と和英条項例―”] [amazonjs asin=”4385364117″ locale=”JP” title=”中高生のための 科学自由研究ガイド”] [amazonjs asin=”4061531530″ locale=”JP” title=”できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. ふにふにふわふわ☆マシュマロゲルがスゴい!?
  2. 投票!2015年ノーベル化学賞は誰の手に??
  3. 保護基のお話
  4. ゲルセジン型アルカロイドの網羅的全合成
  5. 密着型フィルムのニューフェイス:「ラボピタ」
  6. 有機合成化学協会誌2023年5月号:特集号「日本の誇るハロゲン資…
  7. カルボン酸を触媒のみでアルコールに還元
  8. アレクセイ・チチバビン ~もうひとりのロシア有機化学の父~

注目情報

ピックアップ記事

  1. (–)-Batrachotoxinin Aの短工程全合成
  2. ウコンの成分「クルクミン」自体に効果はない?
  3. 新規色素設計指針を開発 -世界最高の太陽光エネルギー変換効率の実現に向けて-
  4. SciFinder Future Leaders 2017: プログラム参加のススメ
  5. メチオニン選択的タンパク質修飾反応 Met-Selective Protein Modification
  6. 電子実験ノートもクラウドの時代? Accelrys Notebook
  7. 内部アルケンのアリル位の選択的官能基化反応
  8. 投票!2017年ノーベル化学賞は誰の手に!?
  9. ノーベル化学賞まとめ
  10. 生体医用イメージングを志向した第二近赤外光(NIR-II)色素:③その他の材料

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年8月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP