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スイスの博士課程ってどうなの?1〜ヨーロッパの博士課程を知る〜

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いきなりですが皆さん、博士課程で留学してみませんか?日本でも世界トップレベルの研究ができますが、それはヨーロッパでも同じです。というわけで今回はヨーロッパ留学のススメです。特にスイス、ドイツにおける博士課程留学について3回に分けて紹介させていただこうと思います。1回目の今回は、ヨーロッパの博士課程全般について、出願準備や出願に関する具体的内容を2回目に、最後の3回目には面接と合格後の手続きについてまとめました。はじめての記事なので拙いところもあると思いますが、関心のある方はどうぞお付き合いください。そして、ぜひヨーロッパへ!なお、ポスドク編についてはこちらをご参照ください。

 ヨーロッパの博士課程

ヨーロッパの博士課程の特徴を8つにまとめました。

  1. 研究機関、大学について
  2. 大学教育、研究環境について
  3. 給与、学費について
  4. 労働時間、休暇について
  5. 言語について
  6. 生活について
  7. 共同研究、国際会議について
  8. 就職について

では、これらについて1から順に紹介していきます。

 

1. 研究機関、大学について

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さて、大学院生(あるいは学部生)のみなさんはヨーロッパの研究機関をどれくらいご存知でしょうか?実は、化学の分野ではヨーロッパはアメリカほどではないかもしれませんが、たくさんの有名な研究所があり、多くの有名な教授がおられます。例えば、Nature Publishing Index – 2013 Global Top 200によると、ヨーロッパ本土にはMax Planck(ドイツ、5位)、CNRS(フランス、7位)、Helmholtz(ドイツ、13位)をはじめとする研究所に加え、EPFL(スイス、20位)、ETH(スイス、21位)、 LMU Münich(ドイツ、44位)、Delft University of Technology(オランダ、49位)、Utrecht University(オランダ、65位)、Uni. Zurich(スイス、69位)、TU Münich(ドイツ、74位)など、優れた業績を上げている大学もたくさんあります。(同ランキングで東大が8位、阪大41位、名大88位であることから、これら研究機関の研究レベルは非常に高いと言えるでしょう。研究設備や研究資金も十分あると思われます。

 

2. 大学教育、研究環境について

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国によって多少異なるようですが、ヨーロッパの大学教育はだいたい日本と同じで、学部(3年〜4年)、修士(1年〜2年)博士(約3年半から4年、生物系では5年程度)に分かれています。学部は授業だけで、研究室配属はないので研究しません。修士課程は1年間の授業の後、研究室か企業 (製薬、化学系) の研究所での3ヶ月程度の研修に参加し、残る半年間で修士論文に取り組みます。そのため、修士の卒業段階の研究遂行能力は日本の学部卒レベルと言ったところでしょうか。

博士課程では本格的に研究室に所属し、博士論文のための研究に専念します。通常、化学系の場合博士課程の契約期間は 3年半(4年程度に延長したり、3年程度に短縮する場合もあり) です。卒業要件は大学によって異なりますが、スイス、ドイツでは教授が認めれば卒業が可能です。フランスでは、給与の年限が3年と決められているので、必ず3年以内に学位をとるように指導されます。博士課程の間はteaching assistant(TA)として学部学生の一部の授業や実験補助(約600時間)を行わなければなりません。一方で、教授の裁量次第で授業が免除されることが多く、必要な単位はラボミーティングやCumulative Examなどで取得できます。

 

3. 給与、学費について

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さて、ヨーロッパでの院生生活のストロングポイント!給与です。こちらの研究室は、給料を払える分だけしか博士課程の学生やポスドクを採用しないのが普通です。というわけで、給与型の奨学金をもらっている学生以外は給料が支給されます。なので、博士に進学を決めたものの、学振外れてしまって収入が…ということにはなりません。金額はドイツ、フランスで学振程度、スイスでは年間47040CHF(1年目、日本円で530万程度、うち社会保障費を含めた税金は年間7000CHF程度)です。これらの給料で、授業料(スイスで年間9万円程度、ドイツでもほぼ同等の金額)や税金などを含めた生活費をまかなえ、プラス、ヨーロッパ生活も十分に満喫できます。また、奨学金があまりにも少額の場合は、家賃補助という形などで足りない分の給与がもらえる場合もあります(要相談)。さらに、扶養家族がいる場合は手当てまで出ることがあるそうです。ただし、これらは大学や研究所での雇用関係によって条件は多少異なるので注意してください。

 

4. 労働時間、休暇について

博士課程の学生は入学すると、教授との労働契約を結びます。契約上の就労時間は週休2日、約45時間労働ですが、当然のことながら、実際の拘束時間は実験で前後します。多くの学生 (スタッフも) が、朝は8時頃から研究を始め、夜はプライベートの時間としており、研究室に長居せず、大体7時半にはラボは空になります。

ヨーロッパでは、祝祭日と病欠(病欠は有給とは別です!)の他に法定の有給休暇申請が認められています。スイスでは年間20日程度あり、学生の多くはこれを利用して国に帰ったり、旅行に出かけたりします。日本に比べたら遊び過ぎだと怒られるかもしれませんが、結果は自己責任なので土日も働いている学生もいます。給与を頂くということはそれ相応の責任も生じる訳で、あまりにもひどい場合は解雇されることもあります。 日本のように学費を払わなければいけない『学生』ではなく、大学に雇われ仕事をしている『研究者』という感覚に近いのではないでしょうか?

 

5. 言語について

English

ヨーロッパの研究室ではいろいろな母国語の国からの学生が集まるので、英語が公用語です。多くのヨーロッパ人学生は (完璧でないにしても) 英語でコミュニケーションがとれるためか、IELTSやTOEFLの必要な英国の博士課程を除いて、ドイツ、スイス、フランスなどでは一般に入学用件にペーパーテストのスコアは要求されません(一部の大学では課している場合もあるようなので、個別ケースに関しては要確認)。ですので、ヨーロッパの学生のCVの言語の欄には単にEnglish : fluentやnativeと記載されている場合がほとんどです。そのため、一定の英語レベルを超えていれば、少し位しゃべるのが苦手でも博士課程に出願できますし、仕事への影響はさほどありません。ただし、入学のために奨学金の獲得を目指す場合、言語テストのスコアは必須なので注意してください。

※第三言語について

ヨーロッパの言語は様々です。学部生の間はドイツ語などの母語を使いますが、修士の授業は母国語に加え、母国語が理解できない学生がいる場合は英語でも行われています。博士課程の研究室のミーティング等は全て英語で行われます。研究室でも個人の会話は母語でもOKですが、会話に母語が理解できない学生が加わるとすぐに英語になります。私の所属する研究室では英語、ドイツ語、スイスドイツ語、フランス語が飛び交っています。そのため理系の博士課程入学にはヨーロッパ系の公用語(ドイツ語、フランス語など)を習得している必要はありません。

 

しかし、ヨーロッパ留学は第三言語を習得する絶好のチャンスです。大学では留学生のための言語クラスを受講することもできます。また、お互いの言語を学びたい学生同士で教え合うこともよくあります。公用語を理解できるようになれば、より多くの人とコミュニケーションとれるようになり、行動の幅が広がるでしょう。

 

6. 生活について

Basel_SBB

Basel SBB駅。ドイツ、イタリア、フランス、各国への長距離電車が発着する。

ヨーロッパは基本的に公共交通機関(バスや路面電車)が発達しているので、生活は車なしでも自転車ひとつあれば大抵事足ります。都市間の長距離の移動もICEやTGVなどの高速鉄道に加え、LCCもたくさんあるので便利です。なにより、狭い域内に多様な文化と環境が凝縮されているので、旅行に行くのも便利で楽しみがつきません。特にスイスは電車やバスの時刻が日本並みに正確で、電車とバスでどんな小さな村でも行けてしまいます。

ヨーロッパの中でもスイスの治安はかなり良く、実験や飲み会等で帰りが遅くなっても問題ありません。近年日本食ブームでスーパーでも日本食が手に入りやすくなり、少々高いですが食事で困ることもありません。春の花粉症は少なく、夏も日本ほどは蒸し暑くなく、冬も建物の防寒がしっかりしているので、過ごしやすいと言えるでしょう。

生活言語はスイスの場合は、ドイツ語、フランス語、イタリア語が公用語とされていますので、公文書(役所手続き等)は英語ではありません。日本語への翻訳と異なり、ドイツ語→英語などは精度よく翻訳されるので、Google先生に聞けば一発です。もしくは早いのはラボメイトあるいは秘書さんにおんぶにだっこしてもらうとよいでしょう。スイスは言語が地域によって違っていたり観光業が盛んなこともあり、役所、公共交通機関、レストランと基本的に英語が通じるので、問題ありません。

 

7. 共同研究、国際会議について

距離も近く陸続きなこともあり、日本でいう県境を超えるノリで国境も超えます。そのため、国際的な研究のコラボレーションがスムーズです。研究分野にもよりますが、例えばスイスの研究室だと、来週からアッセイのためにオランダのデルフトに行くからよろしく!や、再来週からポルトガルのリスボンで学会、その後バケーションも併せてとるから帰ってくるのは二週間後だからよろしく!といったこともあります。というわけで国と国とが近く、国際学会やシンポジウムなど国外で発表することも容易です。

 

8. 就職について

boston

海外に出て行く場合、通常の就職活動はできません。ただ正直、具体的にどうするかについては私も未経験ですし、よく分かりません。学位取得後、帰国する場合、個人的なコネを使うか、ボストン、ロンドン、東京などで行われる留学生向けの就職フェアに参加することになります。

一方、ヨーロッパで一般就職するのも道の一つです。ヨーロッパの大手の会社に就職する場合、PDの経験が必要です。一方、中小企業であればPDの経験がなくても、ドイツ語などの言語ができるという前提が必要ですが就職できます。例えば、スイスのバーゼルには、Novartis(製薬、1位)、Roche(製薬、3位)、 Bayer(製薬、16位)、Syngenta(農薬、1位、近年Chem Chinaに買収された)、Ciba (BASF group)、Lonza、Idorsia(actelionのspinout)、Clariantなど大手から中堅まで製薬、化学企業の本社や支社、研究所が集まっています。またその他にもヨーロッパのアカデミックで生きていく方法もあります。例えば、シニアポスドクやラボマネージャーというポジションもありますし、厳しき道ですが教授になる方法もあります。

ヨーロッパでは博士課程卒業後企業に就職する方もおられますが、多くの学生がポスドクとして働きます。後者の場合、ヨーロッパにはMarie Curie Fellowship、Human Frontier Science Programなどたくさんの財団があるので、これらに応募し次のステップに進まれる方が多いようです。スイスの場合、これらの財団の奨学金に加えてSNF scholarshipと呼ばれる奨学金があります。3年以上スイス国内の研究機関で研究を行って、優秀な成果を収めたと認められた場合、18ヶ月分の給料がもらえます(IF 7-8の first一報とかで余裕で通るっていう噂です。)しかも応募の要件に国籍は関係ないので日本人でも応募できます。私事ですが、こんな私でも通りました。スイスで研究を継続する場合や、外国人が母国に帰る場合は奨学金の適用外となりますが、私の研究室でも沢山の学生がこの奨学金でアメリカなどへ留学しています。

留学に関してアメリカに比べるとあまり人気のないヨーロッパですが、少しでも博士課程に関して理解、関心を深めていただけたでしょうか? 次回は博士課程への出願について。第二回目に続きます。

2017.01.02 加筆修正

ここからは2019.03.20に加筆したものです。以前質問などで寄せられていた内容ななどをまとめたものです。さらに詳しい個別内容を知りたい方は以下をご覧ください。以下のフランスでの内容に関してはこちらでも詳しく述べているのでご参照ください。

フランスの場合はどうなっているのか?

フランスの場合、博士課程は二つに分けられ、ほとんどの学生はドイツ、スイスなどと同様に教授がとってきたグラントで雇われます。残りの半分は2-3月に教授にコンタクトをとり、6月締め切りのグラントに教授と一緒に応募して、それに当たれば研究が開始できるタイプです。後者の場合、研究内容に関するプロポーザルは教授が書いてくれることもあるようですが、何種類か書類を提出する必要があるようです。どちらも、研究期間はきっちり3年間で、それを過ぎると給料は払われなくなります。そのため3年間でしっかりと博士論文を書き上げる必要があります。(ボスとの関係次第にもよるかもしれませんが、フランスは比較的研究費がドイツ、スイスに比べて厳しい状況にあると聞きます。)詳しくはこちらの記事を参照ください。

フランス: 応募に関して

応募は教授または、研究所の上級研究員に直接メールする場合が多いようです。給与は約1750ユーロ(税引前、基本的に最低賃金に準ずる。2019年。インフレ率によって変動が見込まれます。)。TAはするかしないか選択できるが、TAをした場合給料が300ユーロ程度上がる場合もあるそうです。博士課程はCNRS, ÊMS, Inserm, CEAなどの国立の研究機関でも可能ですが、フランスでは実質的にこれらの研究所と大学の研究室が一体となっている場合が多くどちらに応募しようと大差がない場合もあります。行きたい研究室のボスに連絡を取ってみて、実際に指示された方式で大学院の応募書類等を準備するのが妥当かと思われます。

フランス: フランスの高等教育

博士課程までのフランスの化学教育は主に大学と、engineering school(日本でいう高専+修士課程)が担っています。大学は学部のL1、L2、L3に加えて修士課程M1、M2の五年間を終え、博士課程に進学する場合が多いようです。一方で、Engineering schoolは主に企業に就職するための教育(経営者層などのマネージャー養成)に特化しており、課程は前期教育2年間と後期教育3年間に分けられます。後者の3年間は授業に加え、大学でのインターン2ヶ月、企業でのインターン2ヶ月、その後6ヶ月のインターン(大学の研究室も可能だが、一般には企業の研究所で企業の研究者のもとで働くことが多い。) を含む様々な場所での研修を積むようです。Engineering schoolの卒業は、大学での修士課程に相当し、無事に卒業すれば修士を卒業した学生と同様に博士課程に入学することが可能となります。日本の高専に相当するIUTと呼ばれる技術系の大学もフランスには存在します。

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東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

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