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ケムステニュース

相次ぐ有毒植物による食中毒と放射性物質に関連した事件

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航空自衛隊小松基地のF15戦闘機が今年1月、日本海に墜落した事故で、小松基地は15日、エンジン点火装置に内蔵された放射性ガス「クリプトン85」が所在不明になったと原子力規制委員会に報告した。 (引用:4月15日読売新聞)

日本原子力研究開発機構の人形峠環境技術センターウラン濃縮施設(岡山県)で、核燃料物質の六フッ化ウラン貯蔵容器の査察用封印が切断されていたことが15日、分かった。 (引用:4月15日時事通信社)

宮崎県は14日、ヤマイモに似た「グロリオサ」の球根を食べたとみられる同県延岡市の60代男性が死亡したと発表した。全国で、グロリオサによる食中毒による死亡は2012年以降、2例目。有毒植物を原因とする食中毒患者の約半数は60歳以上で、厚生労働省は「食用と間違いなく判断できない植物は食べないで」と注意を呼び掛けている。 (引用:4月14日毎日新聞)

京都市保健所は11日、市内の子育て支援施設が給食で提供した「ニラのしょうゆ漬け」を7日に食べた園児と職員の計77人のうち4~6歳の園児12人が、嘔吐や発熱などの食中毒の症状を訴えたと発表した。実際はニラではなく、有毒成分を含むスイセンだったのが原因だと判断した。12人は回復し、重症者はいなかった。市は施設に再発防止の指導を実施する。(引用:4月12日共同通信)

有毒植物を食べてしまったことによる食中毒と放射性物質の管理に関わる事件がいくつか報道されていますので、ケムステニュースにて少し詳細に内容を紹介します。

まずクリプトン85の件ですが、航空自衛隊小松基地のF15戦闘機が今年1月、日本海に墜落した事故が発生したことが事の発端です。事故後、原因究明のために機体の回収を行ってきましたが、戦闘機に搭載されている4個の点火装置のうち、1個は損傷が激しい状態で1個は未回収となっています。よって点火部品2個分のクリプトン85が所在不明であり放射性同位元素等の規制に関する法律に基づく法令報告事象に該当するため、防衛相は原子力規制委員会に報告したそうです。

クリプトン85の性質について、天然にはほとんど存在せず、ウラン等の核分裂によって生成する核種です。半減期は10.76年で、主にβ壊変し安定同位体の85Rbとなりますが、0.4%の確率でγ線を放射します。ウラン等の核分裂で生成するため、原子力施設においては環境放射線モニタリングの項目の一つとしてクリプトン85から放射されるβ線が測定されています。

クリプトン85はエンジンの点火装置の電極が組み込まれたガラス管の中に充填されており、電圧をかけると光が放出され、燃料が点火されます。家庭用のガスコンロにおいては空気中で光が放出されますが、航空機のエンジン点火においては、高いエネルギーの電子を発生させるために放射性物質が使用されているようです。

クリプトン85の封入量は微量で、人体や環境への影響は少ないとみられています。この点火装置は、旅客機のエンジンにも使われており、過去には点火試験中に破損してクリプトン85が放出される事故も起きています。航空機のエンジンを製造しているGEからはクリプトン85を使わない点火装置に関する特許が出願されており、微量でも放射性物質の取り扱いには手間と費用が掛かるのでなるべく使わないようにしたいのがメーカーの意向かもしれません。

次に六フッ化ウランについてですが、岡山県苫田郡鏡野町にある日本原子力研究開発機構の人形峠環境技術センターで保管している六フッ化ウラン容器の査察用封印が切断されていることが判明しました。六フッ化ウランは精製した天然ウラン鉱石にフッ素を反応させた化合物であり、原子力発電の燃料としては濃縮してウラン235の割合を上げた後に再転換で二酸化ウランに変換して使われます。もちろん核兵器に転用できる可能性があるため厳重な管理が求められており、日本ではIAEAに加えて原子力規制委員会が定期的に査察を行っています。

IAEAの査察の様子。最後には封印を付ける様子も撮影されている。

過去には、同センターで誤ってIAEAの査察用封印の破損事象が発生していますが、今回は規制委員会の封印ワイヤが切断されていました。切断はにニッパーなどの工具が使われたとみられますが、誰が切断したかや時期などは特定できなかったそうです。封印ワイヤのみが切断され、放射性物質そのものには異常は無かったので大きな事故や事件にはなりませんでしたが、原因が特定できなかったということは保管体制に改善の余地があると思います。

日本原子力研究開発機構の人形峠環境技術センターは1955年にウランの露頭鉱床が発見されたことをきっかけに設立されました。過去にはウランの濃縮や転換が実施されてきましたが、現在では設備の安全な解体やウランの回収における技術開発に注力しているようです。

続いて、グロリオサによる食中毒に移りますが、報道の通りグロリオサに含まれるコルヒチンには強い細胞毒性があり、死亡例が複数報告されています。

コルヒチンの構造式

細胞毒性が発現するメカニズムは古くから研究されており、コルヒチンがチューブリンに特異的に結合し重合を阻害するためであることが分かっています。

最後にスイセンをニラと間違えて食べてしまった事例ですが、同様の食中毒は多数報告されています。スイセンにはリコリンタゼチンガランタミンなどが含まれており、摂取後30分以内に、激しい嘔吐、下痢、発汗、頭痛などが現れ、過剰に摂取した場合は神経の麻痺などがおこるそうです。

左:リコリン、中央:タゼチン、右:ガランタミンの構造式

放射性物質について事故や悪用のリスクが極めて高いため、法律で厳格に管理規則が決められており何か起きたら原子力規制委員会に報告する必要があることが、これらのニュースを読んで分かりました。放射性物質を使わないに越したことはありませんが、代替が効かない技術もあるわけであり、それを正しく使うためにも適切なルールが法律で定められていることは、国民全体の安心につながっているのではないでしょうか。有毒植物の誤食について、自然の中で採ったり釣ってきたものを食べることが無くても、自分の庭やプランターで育てたものを食べる時でさえもリスクはあると思います。そのため注意を払って栽培や収穫を楽しむ必要があると感じました。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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