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アメリカで Ph.D. を取る -Visiting Weekend 参加報告 (前編)-

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アメリカの大学院の受験の合格者を対象にした学校説明会に参加しました。今後留学を希望する方の行き先の参考になればと思い、その様子を報告します。

前回までのあらすじ

このシリーズはお久しぶりです。初めましての人のためにこれまでのあらすじを簡単に紹介しましょう。

アメリカの大学院で PhD を取ることを目指した学生 () は、一度は大学院受験に失敗しますが、進学を希望していた研究室のボスに訪問学生としての受け入れの駄目元でお願いをしてみると、まさかの快諾。アメリカでの研究経験と強い推薦状 (見込み) を武器に、もう一度大学院受験に挑戦することに

今年度の大学院受験の結果は…?

さて、渡米後の詳細はひとまずすっ飛ばしますが、この度、晴れていくつかのアメリカの大学院から入学のオファーをいただきました。応援していただいた皆さん、ありがとうございました。今回はその報告を兼ねて、Visiting Weekend の様子とそれぞれの学校の特徴についてレポートします。今後留学を希望している方の行き先の参考になれば幸いです。なお、これまでの留学生活の様子については、訪問学生としての現在の契約が終わる頃に改めて記事を投稿するかもしれません (2019/8/5 に投稿しました. リンクはこちら)。

私が訪問したのは、Arizona State University Stanford UniversityUniversity of California, BerkeleyCaltech  4 校です。本記事で visiting weekend の概要と初めの2校を紹介し、次回に残りの2校と全体の感想をつらつらと記録します。

Visiting Weekend とは?

要するに合格者を対象にした学校説明会のことです。多くの出願者が複数の大学院に出願していることを大学院側も承知しているので、学校が合格者を招致してその学校がいかに素晴らしいかを宣伝するのです。

いつあるの?

ほとんどの学校が 2 月中旬から 3 月末のどこかに visiting weekend を複数回開催します。それに先立って、招待状 (つまり合格通知) をクリスマスごろから1月中旬ごろに受け取りました。

参加費は?

基本は学校が負担です。ただし、学校によっては、「500ドルまで」のように負担額の上限が指定されている場合もありました。とある学校は、「あんたが今アメリカにいるって気づかなかったぜ!ちょっと連絡が遅くなったけど、もしよかったら来てくれよな!」という招待メールを後から送ってきました。このことから、もしかすると留学生は招待するのにお金がかかるので、留学生には Visiting の案内をしない可能性があるのでは?と勝手に想像しています。例え心の中では第一希望が決まっていたとしても、お問い合わせして参加することをお勧めします。幸運にも複数校のvisiting に参加できれば、渡航費は学校側で割り勘になるので、上限があったとしても自腹額は案外少なくできるのではないかと思います。

渡航費だけでなくて、スケジュールに含まれる食事や宿泊費も全て学校が負担してくれました。多くのvisiting1.5日から3日間程度続くため、前日と当日の夜のホテルを手配してくださっています。ホテルの部屋は別の学生とシェアすることになるので、そこでお友達作りもできます。

なにするの?

おおまかには次の通りです。

  1. 学校やプログラムの特徴の全体説明
  2. 現役学生との質疑応答
  3. 希望する教授との面談や研究室見学 (4-6 研究室を各30–50)
  4. 学生によるポスター発表
  5. パーティ (いわゆる懇親会?)
  6. お楽しみの観光など (希望者)

11つをわざわざ細かく説明するほどでもないので、意外だった点を一点紹介します。私が学校説明会と聞いて想像するのは、「本学はOO年に創立し、XXXX という考えに基づき OO を重視します。卒業生は XX で広く活躍していて、云々かんぬん」というお堅い話。もちろんそういった話もしますが、驚いたのは大学近隣の環境や気候についてもそれなりの時間をかけて説明していた場合があったことです。例えば、「車で2時間ほどでラスベガスへ行くことができ、4,5 時間かければロサンゼルスまで行ける。ここ (スライド) に写っているのは XX 才の息子と OO へ行った時の写真で..」のように。アメリカは広いので場所によって気候や風土がガラリと変わるからこんな説明をするのでしょうか。あるいは、ワークライフバランスを重視しているのかもしれません。

ある現役の大学院生は、「学部時代はテスト前などの一定期間だけを死に物狂いで頑張ればなんとかなるが、PhD 課程では長期間頑張り続ける必要があるんだ。だから研究するときとリフレッシュするときの自己管理が重要だ。そういう意味で、週末にちょろっとハイキングに行って頭を冷やすことができるこの土地を僕は気に入っているんだ。」みたいな話もしていました。

Visiting weekend の概要はこのあたりにして、実際に訪問した学校を紹介することにしましょう!

勢い拡大中の実力校 Arizona State University

アリゾナ州の国際空港であるフェネックススカイハーバー国際空港から車で 30 分くらいかけてやってきたのは Arizona State University (ASU)。わざわざ現役の PhD 学生が空港まで車で迎えに来てくださいました。この ASU は記事冒頭で掲げたリストの中では、(失礼ながら)もっとも知名度が低いと思います。実際に全体の大学ランキングを見るとあまり高くありません。しかしモレキュラーサイエンスの部門は近年著しく成長しているようです。なんでも化学の Highly cited research が出ている論文数のランキングを見ると、Stanford universityなどを超えたそうです。「アメリカには一流校でなくても、一部の分野では一流校に匹敵する教授陣や研究環境が整っている場合がある」といったことが言われますが、まさにその例だなーと感じました。ではこの学校は何が強いかというと、生化学とくに構造生物学が異常に強そうです。

例えば 2017 年のノーベル化学賞の対象となった cryoEM にタンパク質の構造決定に役立つ超高磁場 NMR 3 (記憶が正しければ 850 MHz, 800 MHz, 700 MHz?) などを擁しています。建物もバンバン新設されています。その建物の造りは近代的で、隣のラボがズラーっとひと続きになった構造でした。ドアを隔てずに複数の研究室が混在していることは研究室間のノウハウの共有を容易にしています。隣のラボの知見を借りて新しい研究を始めることもしばしばあるようです。

この学校の特徴は、いい意味で「異端」といってもいいかもしれません。というのも学科の名前が、Molecular Scienceだからです。Department of Chemistry は存在しません。分子を中心に化学からは少し離れた分野の研究も行われています。例えば NASA から研究資金を受けており、隕石の同位体組成などを分析することで、早期の太陽系形成過程だったり火星表面の水の変遷などを研究しているそうです。

火星探査機 Curiosity のオブジェクト

ASU の思い出: 先生方とマンツーマンの濃密な面談

ASU の訪問の思い出 (?) の一つは研究室訪問での面談です。参加者が  20 人弱しかいなかったため、研究室訪問の際は 5つ訪問した中で4人の先生方と11の面談の機会をいただきました (残りの 1つも先生1人vs学生2人)。これまでの研究経験や大学院でやってみたいことなどの質問を受けて、その答えに見合ったテーマを提示してくださる、という形式です。このような面談は他の学校と対照的でした。というのも、他の学校の面談は参加者が倍以上いたため、4人ほどが一斉に研究室に招かれて研究概要の説明を受けるという受動的なものだったからです。実際に研究室の規模も小さめの研究室 (5-10人程度) が多く、親身に指導してくれそうだなという印象を受けました。

研究室ピックアップ

せっかくなので興味を持った研究室を一言メッセージを添えて紹介します。

Yan Group

DNA をつかって二次元や三次元の構造を組み立てる研究、すなわちDNA 折り紙を活発に研究されています。

DNA 折り紙による三次元構造体の合成. 図は論文1より引用

Stephanopoulos Group

たんぱく質とDNAを自己組織化させて構造体を作るナノテクノロジーを研究しています。Yan 研究室と少し似ていますが、それもそのはず。Yan 研究室と共同研究をしているからです。

タンパク質と DNA の複合体によるナノケージの設計. 図は論文2より引用

Yarger Group

蜘蛛の糸を固体 NMR などを駆使して分析し、その構造が素材としての性質にどのように影響しているかを研究しています。タンパク質や固体材料を NMR で分析するには超高磁場の装置が必要ですが、先ほど紹介した通り、ASU にはその装置があるのです。

(上図B–D) 昆虫とその矢印から分泌された糸 (下図 A) マジック角回転固体NMRで糸を分析したスペクトル (一番上) と β-シートやランダムコイル構造を持つモデル参照タンパク質のスペクトル (真ん中と下). (下図 B) 下図Aスペクトルのピーク位置、幅、形を用いたフィッティング. 図は論文3より引用.

ベイエリアの私立の名門 Stanford University

次に紹介するのは、スタンフォード大学。カリフォルニア州のサンフランシスコ国際空港から電車で約 1 時間ほどの場所に位置する超名門私立大学です。ベイエリアの晴れ渡った気候に囲まれた美しいキャンパスを見ると、観光客気分でキャンパス内の写真をたくさん撮ってしまいます。

Stanford 近隣の交通手段である Caltrain (左上) と Stanford 大学の美しいキャンパス. ベイエリアの典型的な青い空は見ていて清々しいですね.

さて、そんな大学の一般情報はさておき、スタンフォードの化学を紹介しましょう!

Karunadasa Group

次世代の発光材料や半導体として注目されているハイブリッドペロブスカイト化合物の研究をしています。研究室見学の際には、ハイブリットペロブスカイト化合物の発光のデモンストレーションを見せてもらいました。レーザーポインタで紫外線を当てられた化合物が白色光を放つ様子を見ると、思わず「おぉっ!」と日本語で唸ってしまいました。発光のメカニズムも興味深く、これからますます発展が期待される研究室 (研究分野) です。

ハイブリッドペロブスカイト化合物とその発光. 図は論文4より引用

Xia Group

機械的刺激によって化学反応を起こすメカノケミストリーの研究をしています。例えば、ハシゴ状の分子を機械刺激で開環することでポリアセチレン合成を達成しました。

メカノケミストリーを用いたポリアセチレン合成. 図は論文5より引用

Dai Group

カーボンナノチューブやグラフェンナノリボン、バイオイメージングに取り組んでいます。最近は、アルミニウムイオン電池の研究も行なっているようです。

マウスの組織の三次元イメージング. 図は論文6より引用

今回はこんなところで一旦閉店します。次回は、UC Berkeley Caltech を紹介して、visiting weekend を終えた後の私の決断についてお話しします。

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参考文献

  1. Hong, F.; Jiang, S.; Wang, T.; Liu, Y.; Yan, H. Angew. Chem. Int. Ed.  2016, 128, 13024–13027. DOI:10.1002/ange.201607050
  2. Xu, Y.; Jiang, S.; Simmons, C.; Narayanan, R. P.; Zhang, F.; Aziz, A.-M.; Yan, H.; Stephanopoulos, N. ACS Nano 2019, 13, 3545. DOI: 10.1021/acsnano.8b09798
  3. Addison, B. J.; Popp, T. O.; Weber, W. S.; Edgerly, J. S.; Holland, G. P.; Yarger, J. L. RSC Adv. 2014, 4, 41301–41313. DOI: 10.1039/C4RA07567F
  4. Dohner, E. R.; Jaffe, A.; Bradshaw, L. R.; Karunadasa, H. I. J. Am. Chem. Soc. 2014136, 13154. DOI: 10.1021/ja507086b
  5. Chen, Z.; Mercer, J. A. M.; Zhu, X.; Romaniuk, J. A. H.; Pfattner, R.; Cegelski, L.; Martinez, T. J.* Burns, N. Z.; Xia, Y. Science2017357, 475. DOI: 10.1126/science.aan2797
  6. Wan, H.; Yue, J.; Zhu, S.; Uno, T.; Zhang, X.; Yang, Q.;  Yu, K.; Hong,  G.; Wang, J.; Li, L.; Ma, Z.; Gao, H.; Zhong, Y.; Su, J.; Antaris, A. L.; Xia, Y.; Luo, J.; Liang, Y.; Dai, H. Nature Communications, 20189, 1171. DOI: 10.1038/s41467-018-03505-4
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やぶ

やぶ

PhD候補生の候補生として無機材料を研究しています。Chem-Station を見て育った学生として、このコミュニティをより盛り上げていきたいです。高専出身。

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