[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

カルボン酸をホウ素に変換する新手法

[スポンサーリンク]

第86回目のスポットライトリサーチは、理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター 分子標的化学研究チーム(細谷孝充研)落合秀紀基礎科学特別研究員にお願いしました。

同研究室では、ライブイメージングや創薬の発展を目指し、PETプローブの合成や新規有機化学方法論の開発を行なっています。最近、細谷研はロジウム触媒を用いたカルボン酸誘導体の有機ホウ素化合物への変換反応をACIE誌に報告し、プレスリリースとしても取り上げられました。以下がその論文です。

H. Ochiai, Y. Uetake, T. Niwa, T. Hosoya

Rhodium-Catalyzed Decarbonylative Borylation of Aromatic Thioesters for Facile Diversification of Aromatic Carboxylic Acids

Angew. Chem. Int., Ed. 2017, 56, 2482. DOI: 10.1002/anie.201611974

筆頭著者の落合さんについて、丹羽節 副チームリーダー・細谷孝充 チームリーダーからコメントを頂いています。

コメント(丹羽副チームリーダーより)

落合君とは京大大嶌研時代に知り合いました。その後東大福山研での研究生活を経て、強烈な有機合成マインドを身につけた彼と再会することになりました。我々のチームでは反応開発を進めていますが、基質の振り方一つを見ても、常に強く合成応用を指向しています。彼は本当に合成が大好きです。何か真剣にものつくりをしたいと言う時に、彼の高い反応&合成の知見はとても役立つはずです。今は化合物の機能である生物活性にも興味を持っているようです。今後さらに広い視野を身につけて、魅力的な分子を続々と創出してくれると期待しています。

コメント(細谷チームリーダーより)

落合君は仕事以外に関しても実に研究熱心な好青年です。とくにラーメンの味にはうるさく、美味しい店の探索には余念がありません。その何事にも強いこだわりを持つ姿勢は、普段の研究にも如実に現れており、今回の研究成果は、このような彼だからこそ見いだし、完成させることのできた、実に良い出汁の利いた内容になっていると思います。

本反応発見に関する裏話などが書かれているので、ぜひご一読下さい。

 

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?

芳香族カルボン酸を有機ホウ素化合物へと変換する手法を開発しました。

芳香族カルボン酸は多くの医薬品・天然物に見られる基本的な骨格です。これらは容易に入手が可能なので、カルボン酸を出発原料にして、多彩な誘導体化を簡便に行うことができれば、創薬分野における有用な化合物を広く供給することができると考えられます。

この誘導体化には、我々が注目しているPETプローブを始めとする分子プローブ類の開発も含まれます(関連: フッ素をホウ素に変換する触媒)。ここで、カルボン酸を有機ホウ素化合物のような反応性中間体へと導くことができれば、カルボン酸の多彩な誘導体化として強力な手法になると考えました。

この脱炭酸ホウ素化の実現に際し、Late-stageでも適用可能な温和な変換手法の確立を目指して、段階的に行う戦略を採用したのが本手法の特徴です。具体的には、カルボン酸をチオエステルへと誘導し、ここからロジウム触媒存在下、脱カルボニルホウ素化反応を行うことで、80 °Cという温和な反応条件での変換を達成しました。

今回発見した反応

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

チオエステルをカルボン酸の誘導体として選択したことだと思います。初期検討において、脱カルボニルホウ素化反応に適用可能なカルボン酸の誘導体を模索していました。

しかし、これらの脱カルボニルホウ素化反応は困難で、種々の条件検討にも関わらず原料が分解するためか効率の良い変換を達成できずにいました。万策尽きかけていた頃、学生時代に所属していた研究室の独自手法、いわゆる福山カップリング福山還元などに身近に触れていた経験から、「そうだ、チオエステルを使ってみよう!」と思い至りました。

硫黄原子と遷移金属との比較的強い相互作用がプラスの効果をもたらすのではないかという思惑もありました。ちょうど同じ時期に隣のベンチの植竹君がロジウム触媒を用いた炭素−硫黄結合の開裂を伴うホウ素化反応を検討中だったこともあり、その条件を参考にしてチオエステルの脱カルボニルホウ素化反応を試みたところ、これまでとは明らかに異なる良好な結果を与えました。「これならイケます!」とすぐさま上司に報告したのを覚えています。そこからはトントン拍子に進展し、現在の最適条件に至るまでに時間はかかりませんでした。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

今回の芳香族チオエステルの脱カルボニルホウ素化反応は、触媒毒であるはずの一酸化炭素の発生を伴いながらも触媒的に進行します。円滑に反応が進行する系を見つけることができたのは良かったのですが、なぜ触媒が失活しないのかなど、メカニズムに関してまだまだ不明な点が多いです。どうやら酢酸カリウムが失活した触媒の再生に寄与していそうだ、というところまでは分かったのですが、錯体レベルでのメカニズム解明はできていないのが現状であり、今後明らかにしたいと考えているところです。というわけで、まだ困難を乗り越えていないです(汗、、、)

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

10年後、20年後に自分が何をしているのかなんて想像もつかないですが、どんな形であれ有機化学に携わっていたいと考えています。

そして実験化学者としてできる限り現場に近いところで、可能ならば自分でフラスコに触れながら有機化学に関わるのが理想です。本当の最前線を走ることができるのはプレーヤーだと思っています。フラスコで起こっている現象を肌で感じ、結果にならない結果に一喜一憂できるのはプレーヤーの特権です。新しいアイディアが浮かんでくることが多いのも、自分で手を動かしている時なのではないか、と思います。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回、なんとか論文投稿にこぎつけ、無事プレスリリースまで行うことができました。改めて思うのは、自分一人ですべてを達成した訳ではないということです。研究のサポートをして頂いたチームメンバーの皆様のご協力は勿論ですが、研究に集中できる環境とそれを作って頂いた皆様のご協力あってこその結果だと思っています。皆様への感謝の気持ちを忘れず、次のプロジェクトにも引き続き全力で取り組んでいきたいと思います。

この場をお借りして、本研究に関して一緒に頑張ってくれた植竹博士、ならびに親身にご指導いただいた丹羽副チームリーダー・細谷チームリーダーに改めて心より感謝申し上げます。

 

【ご略歴】

落合秀紀(おちあいひでのり)

所属:理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター 分子標的化学研究チーム 基礎科学特別研究員

研究テーマ:ケミカルバイオロジーを推進する合成化学の開拓
1986年愛知県名古屋市生まれ
2008年3月京都大学工学部工業化学科卒業(大嶌幸一郎教授)
2011年3月東京大学大学院薬学系研究科 修士課程 修了 (福山透教授)
2012年4月〜2014年3月日本学術振興会特別研究員(DC2)
2014年3月東京大学大学院薬学系研究科 博士(薬学)取得 (福山透教授)
2014年4月〜2016年3月 理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター 分子標的化学研究チーム 特別研究員 (細谷孝充チームリーダー)
2016年4月より現職(細谷孝充チームリーダー)
2016年帝人ファーマ研究企画賞。

Orthogonene

投稿者の記事一覧

有機合成を専門にするシカゴ大学化学科PhD3年生です。
趣味はスポーツ(器械体操・筋トレ・ランニング)と読書です。
ゆくゆくはアメリカで教授になって活躍するため、日々精進中です。

http://donggroup-sites.uchicago.edu/

関連記事

  1. 実験手袋をいろいろ試してみたーつかいすてから高級手袋までー
  2. シグマアルドリッチ器具・消耗品大特価キャンペーン【2018年3月…
  3. 有機合成化学協会誌2019年1月号:大環状芳香族分子・多環性芳香…
  4. ケミストリー四方山話-Part I
  5. γ-チューブリン特異的阻害剤の創製
  6. 実験する時の服装(企業研究所)
  7. カルボン酸だけを触媒的にエノラート化する
  8. その置換基、パラジウムと交換しませんか?

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 化学研究で役に立つデータ解析入門:回帰分析の応用編
  2. 理系女性の人生設計ガイド 自分を生かす仕事と生き方
  3. 米国、カナダにおけるシェール・ガスによるLNGプロジェクトの事業機会【終了】
  4. ハウアミンAのラージスケール合成
  5. 低分子化合物の新しい合成法 コンビナトリアル生合成 生合成遺伝子の利用法 Total Synthesis vs Total Biosynthesis
  6. 調光機能付きコンタクトレンズが登場!光に合わせてレンズの色が変化し、目に入る光の量を自動で調節
  7. これで日本も産油国!?
  8. 化学者のためのエレクトロニクス入門⑤ ~ディスプレイ分野などで活躍する化学メーカー編~~
  9. 田辺製薬と三菱ウェルファーマが10月1日に合併へ‐新社名は「田辺三菱製薬」
  10. デヴィッド・クレネマン David Klenerman

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年3月
« 2月   4月 »
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

注目情報

最新記事

新型コロナの飲み薬モルヌピラビルの合成・生体触媒を用いた短工程化

新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) 感染症に対する飲み薬として、Merck…

秋吉一成 Akiyoshi Kazunari

秋吉 一成(あきよしかずなり)は日本の有機化学者である。京都大学大学院 工学研究科 高分子化学専攻 …

NIMS WEEK2021-材料研究の最新成果発表週間- 事前登録スタート

時代を先取りした新材料を発信し続けるNIMS。その最新成果を一挙ご紹介する、年に一度の大イベント「N…

元素記号に例えるなら何タイプ? 高校生向け「起業家タイプ診断」

今回は化学の本質とは少し離れますが、元素をモチーフにしたあるコンテンツをご紹介します。実験の合間…

多価不飽和脂肪酸による光合成の不活性化メカニズムの解明:脂肪酸を活用した光合成活性の制御技術開発の可能性

第346回のスポットライトリサーチは、東京大学 大学院総合文化研究科(和田・神保研究…

10手で陥落!(+)-pepluanol Aの全合成

高度な縮環構造をもつ複雑天然物ペプラノールAの全合成が、わずか10工程で達成された。Diels–Al…

吉野彰氏が2021年10月度「私の履歴書」を連載。

今年の10月はノーベル化学賞が有機化学分野から出て、物理学賞を真鍋淑郎先生が受賞して、非常に盛り上が…

ガラス工房にお邪魔してみたー匠の技から試験管制作体験までー

実験器具を試して見たシリーズ第10弾! ついにシリーズ10回目を迎えました。今回は特別編です…

ダイセルよりサステナブルな素材に関する開発成果と包括的連携が発表される

株式会社ダイセルは、環境にやさしい酢酸セルロースを当社独自の技術で加工した真球状微粒子を開発し、20…

市販の化合物からナノグラフェンライブラリを構築 〜新反応によりナノグラフェンの多様性指向型合成が可能に〜

第345回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院 理論化学研究室(前田・高橋研究室)…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP