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スイスの博士課程ってどうなの?2〜ヨーロッパの博士課程に出願する〜

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前回はヨーロッパの博士課程の概略について紹介しました。今回は応募するにあたって何が必要なのか、具体的事例を交えて紹介します。特にヨーロッパへの留学においては、日本で修士号を取得後、博士課程から入学する学生が多いので、その際の準備、研究室の探し方、Application Mailの送り方 の順に紹介していきます。

準備

まず、自分を落ち着かせ、よりたくさんの情報を得るため指導教官、もしくは指導教官に聞くのが憚られる場合、信頼のおける先輩、先生に相談しましょう。次に、奨学金の応募に関して徹底的に調べ、申請期限や自分の卒業時期を考慮して長期の予定を立てましょう。以下の6つの準備項目のうち、これら二つは一番初めにする最も大事なことですので最優先してください。

  1. 指導教官に相談
  2. 奨学金、言語テスト(TOEFL, IELTS)
  3. CV
  4. 研究概要(A4、2〜3枚)、発表論文、発表用パワーポイント(英語、15分程度)
  5. モチベーションレター(A4、1枚)
  6. 成績証明書、卒業証明書または卒業見込み証明書
  7. 推薦状 2〜3通
1. 指導教官に相談

推薦状を書いてもらうためにも、情報を得るためにも留学する場合はできるだけ早い段階で指導教官に相談しましょう。お前はヨーロッパになど行かせん!と敢えなく撃沈するかもしれません。が、運が良ければヨーロッパの知り合いの教授を紹介してもらえるかもしれません。このような紹介の場合、よほどの事をやらかさない限り留学はほぼ決定ということが多々あります。ですので、助けてもらえるなら、指導教官だけでなく、先輩、隣の研究室の先生、親など、コネというコネはすべて使いましょう。図々しいという言葉は忘れてください。ネットにも様々な留学情報サイトがありますし、大学によっては、大学の国際交流、留学のためのHPだけでなく留学サークルや英語のトレーニングサークル、留学説明会などがあるのでどんどん利用しましょう。

 

2. 奨学金、言語テスト

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奨学金はあるに越したことがありません。奨学金は持っている場合、自分の行きたい研究室に採用してもらえる確率はかなり高くなるので、頑張って応募しましょう。特にスイスでは、君は優秀だし俺が給料払ってやるから来い!と言ってくれる教授が多いのは確かですが、このような好条件かつ自分が行きたいラボを見つけるのは大変です。教授の側からすれば、研究費のうち一番の金食い虫の人件費を浮かすことができるので非常に助かるようです。(例えば私の所属する研究室の場合人件費だけで、年間一億円ほどかかっていると思われます(スイス、PD4人、PhD学生12人換算)。また、万が一研究室のグラントが切れても、引き続き雇ってもらえるか心配しなくても済みます。さらに、奨学金を獲得していれば自分の価値を高めることができ、将来のポジション獲得に有利になります。

奨学金の申請書を書くのは大変ですが、作成した文章は直近の大学院出願などにも使えます。また、こういった類の文書を作成する能力は研究資金を獲得するためのプロポーザルなど、研究者として生きていく上で必ず必要になるのでその良い練習にもなります。初めはこういった慣れない書類作業には戸惑うことは多いと思いますが、じっくり練って、作成するといいかと思います。最後に審査を行う人は自分の専攻ではない可能性が高いので、そのような人にも十分わかりやすい申請書であるかどうか、自分とは異なる専攻の人にも見てもらうことをお勧めします。

Tips

  • 私の知る中では、Swiss Government Excellence Scholarships船井財団学生支援機構の長期派遣、ドイツではDAAD(月額1000ユーロの支給)から奨学金を受け取っている方がおられますが、その他にも奨学金財団は国内外にたくさんあります。
  • 申請には言語テスト (TOEFL, IELTS)の比較的高いスコアが必要なので、計画的に英語を勉強します。(もう手遅れ? ならば、留学を諦めましょう。いえいえ、奨学金なしで頑張りましょう。)
  • 奨学金の申請には博士課程の教授の内諾が必要な場合があります。その場合、教授には出願の際に奨学金に応募する意思を伝えておく必要があります。
  • ヨーロッパの大学院の入学にはGREのようなペーパーテストは必要ありません。
3. CV

履歴書です。日本の履歴書と異なり決まった形はありません。分かりやすく重要な情報が盛り込まれていれば大丈夫です。具体的には

  • Name, Date of Birth, Address, Phone (Mobile, Workplace), Mail
  • Education
  • Experience (TA, RA, Internship, etc)
  • Language(TOEFLの良いスコアがあれば載せましょう。無ければfluentとかでokです)
  • Conference and Seminars
  • Publication
  • Society (日本薬学会、日本農芸化学会など)
  • Award(成績優秀者とかでもOK)
  • Experimental skills
  • Reference (推薦してくださる先生の連絡先、2〜3人)

などアピールできるもの全て書いておきましょう。修士卒の場合、論文は持っている必要はありません。寧ろこっちの学生で修士の学生のうちから論文を持っている学生はごく少数なので、持っていればアドバンテージと考えていただいていいと思います。2回程度の学会発表(予定を含む)があると良いです。詳しくは分かりやすい動画がありますので参考にしてください。

 

 

4. 研究概要

paper

指導教授の許可をとった上で、これまでの研究結果を2〜3ページ(図表あり、600-900語程度、研究分野が二つの場合は多少長くても大丈夫)にまとめます。ここでは、研究の背景と自分の業績をその違いがよく分かるように簡潔にまとめ、研究の経験や化学の知識の豊富さをアピールししましょう。書き終えたら、ネイティブの知り合いに添削してもらいましょう。真っ赤になるはずです。

また、自分の研究内容は面接用のパワーポイントを作成し、発表できるようにしておきます。時間は面接までに教授から指定されますが、概ね15分程度(10~25分)です。作成に関して注意すべきことは学会発表と同様ですが、発表の最後にお世話になっている研究室メンバーの写真を入れておくとよいかもしれません。

 

5. モチベーションレター

研究室を選んだ理由などについて、A4一枚弱(300語程度)にまとめます 。ここには、研究室に入った場合どのような分子を作りたい、どのような反応を開発したい等の研究に関することや、将来どのような研究者になりたいなどについても書くことを勧めます。また、CVで書ききれなかった内容(学部でのボランテェア経験など)について書き加えるなどしてもいいでしょう。さらに、応募する研究室から発表された論文のどういうところが面白かったか、どういうところに疑問を持ったのかなどについても書くこともできます。当然ですが、研究室のことについて事前にしっかり調べて書きましょう。不特定多数の教授に送れるような内容は書類審査の段階ですぐに落とされます。

 

6. 成績証明書

GPAは良いに越したことはありませんが、一定以上の学力が備わっていれば問題ないと思われます。

 

7. 推薦状

Recommendatioin

とても重要です。最低二人の親しい教授からもらう必要があります。1通目は現在の指導教官にお願いします。ヨーロッパの学生の場合、2通目はa) 授業を受け持った教授、b) インターンシップで3ヶ月程度お世話になった教授または企業のLab Head、c) 共同研究先の教授などにお願いするケースが多いようです。2通目は多くの応募者にとって悩みどころですが、こちらの記事等も参考にしてください。

推薦状には、(a) 相手教授個人に宛てと (b) 不特定多数の教授に宛て(To whom may concernで始まる推薦状)があります。初めて送るメールに添付するものは(b)で問題ないと思いますが、面接に進んだ場合、(a) :教授個人宛に推薦状(厳封)か推薦メールを要求される場合があります。尚、CVには推薦状を書いていただく先生方の住所などをまとめたreferenceをのせる必要があります。推薦状をお願いする際に了解をとっておきましょう。

 

 

その他、準備するものの詳細などはアメリカ留学の場合とほとんど同じですので、ケムステの記事やアメリカ留学の書籍などを参照ください。

 

研究室を探す

ヨーロッパの博士課程は入学する時期に決まりはありませんので一年中いつでも、教授との折り合いがつけば入学(研究を開始)することができます。そのため、出願は一年中可能です。欧州の学生は修士課程が始まってすぐ、若しくは修士論文を書き終えてた後、博士課程の出願するようです。日本人の場合、就労手続きや修士論文のことを考えると、少なくともM2の秋頃までに出願すると良いかと思われます。(M2の皆さん、まだ間に合います!)

博士課程の募集については、研究室のHPに詳しく書かれています。また、スイスの場合ポスドク、博士課程の学生の募集はこちらからも見つけられます。もしこのような募集が見つからなければメールで問い合わせするか、研究室の学生にどのように入学したのかメールで聞いてみのも一つかもしれません。

 

Application のメールを送る

application

出願する研究室を決めたら、実際にメールもしくは手紙を教授もしくは秘書宛に送ります。メールは10行(約150語)を超えると読まれない可能性があるので(私は400-500語ぐらいの本文、添付資料はCVと研究概要のみでも返信がきましたが、やめておいた方が良いと思います。)、メールの文面はなるべく簡潔に短くします。メールにはCV、研究概要、モチベーションレター、成績証明書、卒業証明書、推薦状をPDFにまとめて添付します。ただし、ファイルサイズには気をつけてください。以下はあくまでも一例です。

 

件名

Application for the PhD position in Station Lab

本文

Dear Prof. Dr. Oooo Oooo

Thank you very much for your attention.

My name is ◯◯◯. I am studying organic chemistry in the master program of the University of Tokyo under the guidance of Prof. ◯◯◯. I am going to graduate next March and considering to start PhD study in Switzerland.

I am really interested in your research incluing ◯◯◯ since you published ◯◯◯. Therefore I would like to apply for your group as a graduate student. (募集しているかどうか分からない場合はI am writing here to ask you the possibility of my application as a Ph.D candidate in your laboratory from April of 2016.)

For your reference, please find my CV, Motivation letter, Recommendation letters, Academic transcripts attached. If it would be acceptable for you, I am ready to visit your lab for the interview in September. Please feel free to ask me if you have any quensiton. Thank you again and I am looking forward your reply.

Sincerely,

◯◯◯

教授らは世界中から毎日のようにたくさんのapplication mailを受けるので、返信がない場合や断りのメールが届く場合が多いです。特に有名ラボは競争率も高く、ポジション獲得は厳しいセレクションがかかるでしょう。書類審査を通過するかどうかは、推薦状、タイミング、学業成績や研究業績、メールの内容にもよりますが、私の場合初めて送ったメールの1/3はサイレント、1/3が一週間以内に残念メール、残る1/3が面接に進みました。同じ研究室に所属するヨーロッパ人学生たちも同様だったようです。そのため、興味のある研究室には全て出願することを勧めます。

また、自分のapplicationに注目してもらうためには、現在の指導教員に紹介してもらうのが一番確実です。この場合、メールは返信してもらえるでしょうし、採用してもらえる可能性も高くなります。

 

Tips

  • 夏の7/10-8/10は休暇に重なるので、返信が遅くなる、返信が無い場合があります。
  • 当然ですがメールアドレスは大学のものを使用します。
  • 奨学金の有無もしくは応募の予定について書いておきましょう。
  • 欧州の学生は10程度の研究室に応募するようです。
  • メールは玉石に紛れがちです。メールではなく敢えて手紙を送るのもいいかもしれません。
  • 主な学生の選抜はこのメールによる書類審査で行うようです。面接の方が書類審査に加えて合格率は高いです。
  • 面接前日までにはremindメールを送ります。具体的な時間、訪問方法が指示されます。
  • 英文メールを送る際はラボメートに確認してもらいましょう。間違いが減ります。
  • 応募時のメールには面接のために訪問したいことを伝えておくとよいです。

これで、出願はばっちりでしょうか?次回は日本を飛び立ち、ヨーロッパで面接と合格後の入学手続きです。第三回目に続きます。

2016.12.31 加筆修正

関連書籍

 

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Gakushi

投稿者の記事一覧

東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

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