[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

「架橋ナノゲル」を応用したがんワクチンDDS

第15回目となるスポットライトリサーチは、北九州市立大学 環境システム専攻(櫻井和朗研究室) 博士課程2年・ 宮本 寛子さんにお願いしました。

先日ホノルルで開催されたPacifichem2015学生ポスター賞の栄えある受賞者の一人です。

研究室を主宰されている櫻井和朗教授によれば、宮本さんは、非常に明るい性格でいつも研究室を賑やかにしてくれ、研究は妥協せずに真摯に取り組み、後輩への模範となる存在とのこと。日々彼女の研究者としての成長を感じる中で、今回のポスター賞受賞を嬉しく思っているそうです。

そのような素晴らしい女性研究者である宮本さんの受賞研究は、いったいどんなものでしょうか?それではご覧ください!

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

 

sr_N_Miyamoto_1

 

多糖と核酸が形成する複合体を核酸の相補鎖で架橋することで得られた”架橋ナノゲル”をがんワクチンのアジュバント(免疫増強剤)として応用したドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究です。

がんワクチンとは、がん抗原とアジュバントを用いて自己の免疫力を上手くコントロールし、がん細胞を排除するがんの治療方法です。従来のがんの3大療法よりもはるかに副作用を軽減でき、患者の生活の質を高く維持出来る治療方法として開発が期待されています。しかし、新規抗原の探索や免疫機序が明瞭で安全なアジュバント開発が必須であり、未だ臨床応用には多くの課題があるが現状です。

本研究で作製した架橋ナノゲルは、アジュバントとして極めて少ない投与量で抗腫瘍効果を示しました。

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

架橋ナノゲルを構成している多糖と核酸それぞれに工夫があります。

まず、多糖ですが、本研究で用いる多糖はがんワクチンが標的とする免疫細胞への選択性があること、核酸と複合体を形成するという2つの特徴があることから核酸のターゲットデリバリーが可能です。次に核酸は“架橋点”と“薬剤”の2つの役割を担っています。架橋させることで今まで本研究室で用いてきた多糖核酸複合体より大きなサイズを形成する設計となっています。本研究では、このユニークな材料設計により架橋ナノゲルを作製でき、また薬剤を不活化させることなく従来の多糖複合体より高いアジュバント活性を得ることが出来ました。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

架橋ナノゲルによるアジュバント活性を評価した時、従来の複合体と比べて2、3倍の活性を予想していたところ、実際には10倍と想像していたよりもはるかに高く活性を示したことに驚きました。私たちはこの活性をサイズ効果によるものであるという仮説を立てて研究をしています。特に、私たちの得意とする物理的測定による粒子のサイズや形状を評価して、生体活性との相関をとることで、作用メカニズムの解明を進めています。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

将来は、化学を用いてDDSの研究に携わり世界の医療の発展に貢献したいです。特に、私自身興味のある核酸やペプチドの生体高分子を用いて作製した“材料”で生体にアプローチするドラックデリバリーシステムの最先端の研究(治療・診断・情報システム構築)を、様々な分野の人と関わって発展させたいです。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

以前は全く英語を話せなかった私がPacifichem2015でポスター賞を受賞することができました。学会会場で英語にめげそうな声をちらほら聞きました。もし、英語にめげそうな方がいたら諦めないでください。私は、研究室に配属されたばかりの学部生の時は、研究の世界では共通語が英語なのか…、と、その現実を受け止められませんでした。しかし、研究生活に慣れてくると同時にわかる英単語が増えだしたこと、国際学会などでネイティヴに会う機会があったら積極的に会話をすること。1つ1つの経験によって最初の現実逃避を少しずつ緩和できました。未だ、流暢な英語には程遠いですが、これからも現実を受け止めて経験を積んでいく予定です。一緒に、研究者としてのスキルを上げていきましょう。

関連リンク

 

研究者の略歴

sr_N_Miyamoto_2宮本寛子(みやもと のりこ)

所属: 北九州市立大学 環境システム専攻 櫻井和朗 研究室

研究テーマ: 多糖キャリアを用いた核酸医薬デリバリーによるがんワクチンアジュバントの開発

2008 年 4 月 北九州市立大学 入学(2012 年 3 月 卒業)
2012 年 4 月 北九州市立大学 修士課程 入学(2014 年 3 月 卒業)
2012 年 8 月 韓国化学技術研究所 短期留学(次世代理工系交流事業に参加)
2014 年 4 月 北九州市立大学 博士課程 入学(2015 年 12月現在 博士課程 2年次)
2014年 8月 イギリス バース大学 短期留学
2015 年 12月 Pacifichem2015 ポスター賞 受賞

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 透明なカニ・透明な紙:バイオナノファイバーの世界
  2. プロセス化学ー合成化学の限界に挑戦するー
  3. 被引用回数の多い科学論文top100
  4. 分子の聖杯カリックスアレーンが生命へとつながる
  5. 「人工タンパク質ケージを操る」スイス連邦工科大学チューリヒ校・H…
  6. 「無機化学」とはなにか?
  7. 有機合成の進む道~先駆者たちのメッセージ~
  8. STAP細胞問題から見えた市民と科学者の乖離ー前編

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. サラシノール/Salacinol
  2. ホウ素ーホウ素三重結合を評価する
  3. ビタミンB12 /vitamin B12
  4. 【書籍】「世界一美しい数学塗り絵」~宇宙の紋様~
  5. 【インドCLIP】製薬3社 抗エイズ薬後発品で米から認可
  6. 1,3-ジチアン 1,3-Dithiane
  7. 産官学の深耕ー社会への発信+若い力への後押しー第1回CSJ化学フェスタ
  8. 一流科学者たちの経済的出自とその考察
  9. 個性あるTOC
  10. 花王、ワキガ臭の発生メカニズムを解明など研究成果を発表

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

酵素触媒によるアルケンのアンチマルコフニコフ酸化

酵素は、基質と複数点で相互作用することにより、化学反応を厳密にコントロールしています。通常のフラ…

イオンの出入りを制御するキャップ付き分子容器の開発

第124回のスポットライトリサーチは、金沢大学 理工研究域物質化学系錯体化学研究分野(錯体化学・超分…

リチウムイオン電池の課題のはなし-1

Tshozoです。以前リチウムイオン電池に関するトピックを2つほど紹介した(記事:リチウムイ…

アルコールをアルキル化剤に!ヘテロ芳香環のC-Hアルキル化

2015年、プリンストン大学・D. W. C. MacMillanらは、水素移動触媒(HAT)および…

三種類の分子が自発的に整列した構造をもつ超分子共重合ポリマーの開発

第123回のスポットライトリサーチは、テキサス大学オースティン校博士研究員(Jonathan L. …

超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2018

「超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2018」CEMS International Sy…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP