[スポンサーリンク]

天然物

ペリプラノン

[スポンサーリンク]

 

注 ペリプラノンは誘因フェロモンではありません

ペリプラノンはワモンゴキブリ(英名American cockroach) Periplaneta americanaのメスが放出する性フェロモンで、1974年にPersoonsらによって単離されました。[1] 構造が少し異なる成分があり、それぞれペリプラノンA-Dと呼ばれています。後にヤマトゴキブリからペリプラノンJも見つかっています。

性フェロモンですので、オスが感知すると興奮する作用があります。ピコグラム程度の量で作用するという非常に強い活性があります。

periplanone_B.png

ペリプラノンBの立体構造

構造的に共通するのは炭素の骨格で、10員環を含むこの炭素骨格はジャーマクレン骨格と呼ばれるセスキテルペンに分類されます。三次元的にもユニークな構造をしているので、合成化学者の格好の標的となりました。特に、1979年にコロンビア大学のStillによるペリプラノンBの合成はエレガントな合成で、ペリプラノンBの立体化学の決定に大きな貢献をしました(ちなみにこの合成はClassics in Total Synthesisに収録されております)。[2] この論文は現在ではあまり見られなくなった単名の論文であることにも驚かされます。StillはクロスカップリングのStilleと間違われることがりますが、フラッシュクロマトグラフィーの論文が有名な方のStillです。
ペリプラノンAの構造決定は当初の構造決定にGC-MSを用いていたことが災いして少し難航しましたが、森謙治らの研究により正しい構造が導かれています。[3] 残念ながらオスをおびき寄せて駆除するといったような用途での実用化には至っておりませんが、化学生態学の一つのマイルストーンとなる化合物であると言えます。

 

引用文献

[1] Persoons, C. J. et al. Proc. Kon. Ned. Akad. v. Wetensch. 77, 201, (1974).

[2] Still, W. C. J. Am. Chem. Soc. 101, 2493-2495, (1979). DOI: 10.1021/ja00503a048

[3] Kuwahara, S. and Mori, K. Tetrahedron 46, 8083-8092 (1990). DOI: 10.1016/S0040-4020(01)81465-4

 

参考サイト

東北大学桑原研究室HPより

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4759815015″ locale=”JP” title=”化学受容の科学: 匂い・味・フェロモン 分子から行動まで (DOJIN BIOSCIENCE SERIES)”][amazonjs asin=”4627813414″ locale=”JP” title=”フェロモン受容にかかわる神経系 知能情報科学シリーズ”][amazonjs asin=”4540043595″ locale=”JP” title=”フェロモン利用の害虫防除―基礎から失敗しない使い方まで”][amazonjs asin=”4062580918″ locale=”JP” title=”性フェロモン―オスを誘惑する物質の秘密 (講談社選書メチエ)”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. ポリアクリル酸ナトリウム Sodium polyacrylate…
  2. ボルテゾミブ (bortezomib)
  3. ソラノエクレピンA (solanoeclepin A)
  4. メチルトリメトキシシラン (methyltrimethoxysi…
  5. テトラメチルアンモニウム (tetramethylammoniu…
  6. トリニトロトルエン / Trinitrotoluene (TNT…
  7. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解めっきの還元剤編~
  8. リベロマイシンA /Reveromycin A

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第94回―「化学ジャーナルの編集長として」Hilary Crichton博士
  2. 理系のためのフリーソフト Ver2.0
  3. 含フッ素カルボアニオン構造の導入による有機色素の溶解性・分配特性の制御
  4. リニューアル?!
  5. 「コミュニケーションスキル推し」のパラドックス?
  6. タミフル―米国―厚労省 疑惑のトライアングル
  7. 堀場雅夫 Masao Horiba  
  8. 第3のエネルギー伝達手段(MTT)により化学プラントのデザインを革新する
  9. DABを用いた一級アミノ基の選択的保護および脱保護反応
  10. 小林 修 Shu Kobayashi

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP