[スポンサーリンク]

一般的な話題

SPring-8って何?(初級編)

[スポンサーリンク]

新年を迎えて、自分の研究に新しい展開を!と意気込む研究者も多いのではないでしょうか。新たな反応、新たな物性、そういう意気込みももちろんですが、新たな測定にチャレンジしてみるのもいいかもしれません。

そんな意気込みをかなえてくれる研究施設こそ、SPring-8(スプリングエイト)です。

SPring-8の名前は聞いたことがあっても、実際に測定に行ったことのある人は多くはないと思います。しかしSPring-8は、そんなあなたのためにある施設といっても過言ではないのです!一見とっつきにくいけど化学屋の強い味方、SP-8について学んでみましょう。

SP-8に興味がないって?それなら「4、エイトハカセ」だけでも見ていってくださいな。

1. SP-8って何?

専門家の突っ込みを恐れずに言うとSPring-8とは

「巨大なエックス線装置」

です。エックス線と聞いて思い浮かべるものは、単結晶X線構造解析、X線光電子分光、粉末X線構造解析、蛍光分光など、研究分野によって違います。しかしSPring-8はこれらすべてを世界最高レベルで測定することのできる施設です。

SP-8には40本以上の測定施設(ビームライン、またはラインと呼ばれます)があり、それぞれ得意な測定を持っています。そのため、あるラインは単結晶X線構造解析に特化しており、あるラインではX線光電子分光に、またあるラインではEXAFSに、といったように役割分担がされています。

40本以上もあるので、例えば粉末X線回折測定一つをとっても、ものすごく低角度の測定(小角散乱)が得意なライン、ものすごく低温が得意なライン、とんでもない圧力をかけて測定するラインなど様々なものがあります。例えば高温・高圧のラインは、地球の内部や他の星の内部の構造を調べる、”地学・天文”の研究者がいっぱい使っていたりします。

この辺がSP-8のとっつきにくいところで、いざ使おうと思ってHPを眺めていても、何がわからないかわからないから質問のしようがないと思う方が多いのではないかと思います。大丈夫、この記事はそんなあなたのためのものです。まずは基礎編として、この辺を知っておきましょう。

  • SPring-8は、スプリングエイトと読むべし!(SP-8ともよく略される)
  • SPring-8のPは大文字である!

 

この二つは押さえておきましょう。それともう少し混乱している方には、

  •  SPring-8に関係する組織はいっぱいある!SPring-8の持ち主は理研(RIKEN)、運営しているのは理研の「子会社」の高輝度光科学研究センター(JASRI)、ユーザー団体がSPRUC
  • 「SPring-8」と言った時に、「蓄積リング」だけを指す場合もあれば、入射側の線形加速器、シンクロトロン、ビームラインなどを含めて呼ぶ人もいるし、SACLAや食堂、宿泊所や守衛所なども含めて「あの辺全体」をSPring-8と呼ぶ人もいる!

ということを知っておくといいかもしれません。

2016-01-03_10-55-41

 

2. SP-8で何ができるの?

これも突っ込みを恐れずに言えば、合成系の科学者にとって、SP-8が役に立つ可能性が最も高いのは次の3つです。

  1. 大学では解析できない単結晶の構造解析ができる(かもしれない)
  2. 周期的に並んだ分子、表面に並んだ分子、分子よりも大きな構造、ナノ粒子のサイズなどを粉末X線で解析できる。
  3. 原子間距離と結合した原子の数をEXAFSで解析できる。

SP-8のX線は強度が強く、エネルギー分解能がよく、向きが揃っています。また測定の専門家がビームラインを磨き上げています。そのためラボで測定したのとはけた違いのデータを得ることができます。

もっとズバリ言うと、単結晶構造解析のR値が15%で論文をリジェクトされた人、どんなに頑張ってももうデータがよくならない人、そんなあなたは、SP-8を申請しましょう!かなりの確率でいい結果を得ることができます。見えなかった構造や溶媒まで見えてくるかもしれません。

また、素晴らしい触媒活性が出ていたり、面白い物性を持つポリマーが出ているけれども、構造がよくわからないのでいい論文雑誌に通らないという人、そんな人にもII、IIIの測定が希望の光になるかもしれません。

 

3、その他、SP-8の基本知識

というわけで本論に進みたいのですが、とりあえずユーザーが知っておくべき情報は以下の通りです。

  •  通常の測定をするには、6月に申請し、申請が通ればその年の後期に測定ができる。(もしくは12月に申請すると次の年の前期に測定ができる)
  • 申請する実験時間(シフトと呼ばれる)は、8時間単位(8時間 = 1シフト)。といっても3シフト、つまり24時間単位で申請することが多い。
  • というわけで測定はふつう、朝10時から次の日の朝10時まで。
  • 通常の測定には出張旅費(岡山兵庫県の相生駅までの交通費+バス(片道710円))、宿泊費(一泊2000円)、消耗品費(何も使わなくても1シフトあたり10,560円)が必要。これは成果非占有課題と呼ばれる、学術研究用のものの場合で、企業など、データを公開しない場合にはさらに1シフトあたり、なんと48万円かかります。1日だと150万円ですね。。。

(相生は岡山ではなく兵庫県でした。お詫びして訂正します)

またこの申請の仕方が、素人にはとてもわかりにくいうえに、審査があるためになかなか通らないという問題があります。ここについてはまた次の機会(があれば)お話ししたいと思います。

 

4、エイトハカセ

実はSPring-8のウェブページには、「エイトハカセ」なるマンガが用意されています。このマンガは物理学者が書いてるそうですがなかなか絵もうまく、よくできていて、SP-8のヘビーユーザーや施設の職員ならだれでも知っている隠れた有名コンテンツです。

エイトハカセに登場する8人(匹)の博士

エイトハカセに登場する8人(匹)の博士

ここまで読んでもやっぱりちんぷんかんぷん、何もかもわからない!だからエックス線とか放射光とかもうやめてくれ!!という方は、帰省ラッシュの待ち時間にでも是非読んでみてはいかがでしょうか。筆者はニャン博士の正体になるほど!と思いました。

 

※今回の内容では、粉末XRD測定によるRietveld解析やメスバウアー分光、UPS、XMCDなどは意図的に無視しております。これらの研究をしている方には上記の内容は当たり前すぎることかもしれませんので。。。また同じ意味で、UVやIR、ガンマ線などの研究も意図的に無視しております。ご了承ください。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4781309283″ locale=”JP” title=”SPring‐8の高輝度放射光を利用したグリーンエネルギー分野における電池材料開発”]

関連記事

  1. クリーンなラジカル反応で官能基化する
  2. MEDCHEM NEWS 33-1 号 「創薬への貢献」
  3. Reaxys Ph.D Prize2019ファイナリスト発表!
  4. ビッグデータが一変させる化学研究の未来像
  5. 遷移金属の不斉触媒作用を強化するキラルカウンターイオン法
  6. 製薬系企業研究者との懇談会(オンライン)
  7. 鉄触媒での鈴木-宮浦クロスカップリングが実現!
  8. 大環状ヘテロ環の合成から抗がん剤開発へ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 自動車排ガス浄化触媒って何?
  2. 2010年イグノーベル賞決定!
  3. 多種多様な酸化リン脂質を網羅的に捉える解析・可視化技術を開発
  4. 試験概要:甲種危険物取扱者
  5. ピーター・シュルツ Peter G. Schultz
  6. Reaxys Prize 2010発表!
  7. 今週末は「科学の甲子園」観戦しよーぜ
  8. 今年はキログラムに注目だ!
  9. n型半導体特性を示すペリレン誘導体
  10. 溝呂木・ヘック反応 Mizoroki-Heck Reaction

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年1月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

アザボリンはニ度異性化するっ!

1,2-アザボリンの光異性化により、ホウ素・窒素原子を含むベンズバレンの合成が達成された。本異性化は…

マティアス・クリストマン Mathias Christmann

マティアス・クリストマン(Mathias Christmann, 1972年10…

ケムステイブニングミキサー2025に参加しよう!

化学の研究者が1年に一度、一斉に集まる日本化学会春季年会。第105回となる今年は、3月26日(水…

有機合成化学協会誌2025年1月号:完全キャップ化メッセンジャーRNA・COVID-19経口治療薬・発光機能分子・感圧化学センサー・キュバンScaffold Editing

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年1月号がオンライン公開されています。…

配位子が酸化??触媒サイクルに参加!!

C(sp3)–Hヒドロキシ化に効果的に働く、ヘテロレプティックなルテニウム(II)触媒が報告された。…

精密質量計算の盲点:不正確なデータ提出を防ぐために

ご存じの通り、近年では化学の世界でもデータ駆動アプローチが重要視されています。高精度質量分析(HRM…

第71回「分子制御で楽しく固体化学を開拓する」林正太郎教授

第71回目の研究者インタビューです! 今回は第51回ケムステVシンポ「光化学最前線2025」の講演者…

第70回「ケイ素はなぜ生体組織に必要なのか?」城﨑由紀准教授

第70回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第69回「見えないものを見えるようにする」野々山貴行准教授

第69回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第68回「表面・界面の科学からバイオセラミックスの未来に輝きを」多賀谷 基博 准教授

第68回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP