[スポンサーリンク]

一般的な話題

最期の病:悪液質

[スポンサーリンク]

 がんなどの疾患の末期、患者の筋肉量が著しく減少し、痩せて衰弱する。「悪液質」と呼ばれるこの状態はほぼすべての慢性疾患の末期にみられる状態。この作用機序が少しずつ明らかになってきた。

 

ネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の出版している日本語の科学gnとめ雑誌である「Natureダイジェスト」3月号から。今回も個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介します*。過去の記事は関連記事を御覧ください。

 

最期の病

進行がん患者の80%がなるという、いわゆる”最期の病”である悪液質。これまで研究者の関心は、元になる基礎疾患に集中しており、この病の対策は見過ごされてきました。しかし、現在では悪液質を治療可能な別個の疾患とみなすようになってきています。記事では悪液質の作用機序や処置法、そして医薬候補化合物について紹介しています。

医薬品候補化合物としては以下の2つ。しかしながら、両者とも悪液質を根本から治療するとうい特筆すべき効果がみられないといった状況です。

2016-03-15_15-21-55

エノボサーム(enobosarm)とアモナモレリン(anamorelin)

 

「もう一度やり直せるなら、妻にタピオカプディングを無理矢理食べさせることに時間を費やすのではなく、愛しているよと言うことに時間を費やしたい」

 

これは転移性乳がんでやせ衰えた妻をもつ男性が妻の死後、最期の時間を後悔して述べた言葉です。家族や患者が最期を幸せに過ごせることにつながる、この悪液質の治療法および治療薬の開発に期待したいものです。

 

マグネシウムで記録破りの強度を実現

マグネシウム合金中にナノサイズのセラミック粒子を分散させる。この手法の開発が、これまで課題であったマグネシウム合金の強度の向上に成功し、ついに限界の壁を打ち破った。

ごく最近になり、パソコンや携帯電話にも使われ始めたマグネシウム合金。重さは鉄の1/4、アルミニウムの2/3と最も軽い実用金属として知られ、モバイル時代のニューフェイスとして活躍しつつありますが、強度や塑性といった機械的性質はまだ他の金属に劣ります。

マグネシウム合金と使用例

マグネシウム合金と使用例

 

米国カリフォルニア工科大学(UCLA)のXiaochun Li教授らは最近、溶融マグネシウム中にセラミックナノ粒子を比較的高い体積分率で分散させることにより長年の課題を克服し、比強度や比剛性が構造用金属中最高となるマグネシウム複合材料を実現しました[1]。記事では、マグネシウム合金の歴史的使用例や、今回開発されたマグネシウム複合材料および他のナノ複合材料について詳しく解説しています。

Xiaochun Li教授

Xiaochun Li教授

セラミックナノ粒子を分散させたマグネシウムナノ複合材料は、分散させていないものに比べて、約8倍の降伏強度があるそうです。さらに、結晶粒を小さくすることで、14倍まで向上させることに成功しています。実用的に使えるかはこれからですが、「軽量」かつ「高強度」を目指す研究にとって画期的な出来事であったことは間違いないようですね。

 

その他の記事

今月号の無料公開記事は「再生医療製品の早期承認制度は果たして得策か」というもの。日本のiPS関連を発端とする再生医療製品の早期承認制度について言及しています。また、今月号の日本人科学者へのインタビューは京都大学生命科学研究科の遠藤求准教授。24時間の概日リズムを刻む体内時計でも植物の体内時計に注目し、組織ごとに異なる役割があることを明らかとしています。

遠藤准教授(京都大)

遠藤准教授(京都大)

 

その他にも一般的にも話題となっている、新しい4つの新元素発見や、囲碁のプロを人工知能が打ち負かしてしまった話、いつもどおりゲノム編集に関する記事も豊富です。

 

新年度からNatureダイジェスト購読してみては?

化学関係ではもうすぐ日本化学会の年会がはじまりますが、それが終われば新年度が始まり、別れと出会いの季節です。新たな気持ちでのぞむなか、新しい知識をいれるためにNatureダイジェストを購読してみてはいかがでしょうか。

 

NATUREダイジェスト関連過去記事

 

関連文献

  1. Chen, L.-Y.; Xu, J.-Q.; Choi, H.; Pozuelo, M.; Ma, X.; Bhowmick, S.; Yang, J.-M.; Mathaudhu, S.; Li, X.-C.;Nature 2015528, 539. DOI:

 

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 化学作業着あれこれ
  2. フッ化セシウムをフッ素源とする立体特異的フッ素化有機分子の合成法…
  3. 2次元分子の芳香族性を壊して、ホウ素やケイ素を含む3次元分子を作…
  4. “呼吸するセラミックス” を使った酸素ガス分離・製造
  5. 化学者のためのWordマクロ -Supporting Infor…
  6. マテリアルズ・インフォマティクスのためのデータサイエンティスト入…
  7. ゲルセジン型アルカロイドの網羅的全合成
  8. アライン種の新しい発生法

注目情報

ピックアップ記事

  1. ミドリムシが燃料を作る!? 石油由来の軽油を100%代替可能な次世代バイオディーゼル燃料が完成
  2. 【誤解してない?】4s軌道はいつも3d軌道より低いわけではない
  3. UCLA研究員死亡事故・その後
  4. 切磋琢磨するアメリカの科学者たち―米国アカデミアと競争的資金の申請・審査の全貌
  5. 有機合成化学協会誌2018年12月号:シアリダーゼ・Brook転位・末端選択的酸化・キサンテン・ヨウ素反応剤・ニッケル触媒・Edoxaban中間体・逆電子要請型[4+2]環化付加
  6. 唾液でHIV検査が可能に!? 1 attoモル以下の超高感度抗体検出法
  7. グラクソ、糖尿病治療薬「ロシグリタゾン」が単独療法無効のリスクを軽減と発表
  8. 身近な食品添加物の組み合わせが砂漠の水不足を解決するかもしれない
  9. 炭素ボールに穴、水素入れ閉じ込め 「分子手術」成功
  10. 呉羽化学に課徴金2億6000万円・価格カルテルで公取委

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年3月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

熊谷 直哉 Naoya Kumagai

熊谷 直哉 (くまがいなおや、1978年1月11日–)は日本の有機化学者である。慶應義塾大学教授…

マシンラーニングを用いて光スイッチング分子をデザイン!

第657 回のスポットライトリサーチは、北海道大学 化学反応創成研究拠点 (IC…

分子分光学の基礎

こんにちは、Spectol21です!分子分光学研究室出身の筆者としては今回の本を見逃…

ファンデルワールス力で分子を接着して三次元の構造体を組み上げる

第 656 回のスポットライトリサーチは、京都大学 物質-細胞統合システム拠点 (iCeMS) 古川…

第54回複素環化学討論会 @ 東京大学

開催概要第54回複素環化学討論会日時:2025年10月9日(木)~10月11日(土)会場…

クソニンジンのはなし ~草餅の邪魔者~

Tshozoです。昔住んでいた社宅近くの空き地の斜面に結構な数の野草があって、中でもヨモギは春に…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP