[スポンサーリンク]

世界の化学者データベース

Thomas R. Ward トーマス・ワード

[スポンサーリンク]

トーマス-ワード(Thomas R. Ward、1964年1月8日生)は、スイスの生物無機化学者である。現在、バーゼル大学教授。

経歴

1987 フリブール大学化学科卒業
1988-1991 チューリッヒ工科大学博士号取得 (Prof. L. M. Venanzi、Prof. D. Seebach)
1991-1992 コーネル大学博士研究員(Prof. R. Hoffmann)
1992-1993 ローザンヌ大学博士研究員(Prof. C. Floriani)
1993-2000 ベルン大学 (independent career)
2000-2008 ヌーシャテル大学 (Full professor)
2008-現職 バーゼル大学 (Full professor)

受賞歴

1991 ETH Medal
1993 A. Werner Fellowship
1998 A. Werner Prize
2000 Swiss National Science Foundation Förderungsprofessur
2005 the Czech Academy of Sciences
2016 ERC advanced grant

研究業績

ビオチンとストレプトアビジンの親和性を利用した人工金属酵素の開発

人工金属酵素を作る方法は、一般的には

  1. 天然に存在する金属酵素の改変
  2. 触媒能を有さない金属タンパク質への触媒能の賦与
  3. 金属を含まないタンパク質への人工金属錯体の導入

に大別される。3つ目の方法論に基づく人工金属酵素の初めての例は1978年にWhitesidesらによって報告されている[1]。Whitesidesらはビオチンとアビジン間の強い結合に着目し、ビオチンを修飾した金属錯体をアビジン間へと導入している。その後、分子生物学、構造生物学の飛躍的な発展に伴い2000年前後から、人工金属酵素の開発が盛んになった。

WardはWhitesidesらが利用したアビジンではなくストレプトアビジン (Sav) を用い、遺伝子工学的手法と組み合わせSavに変異導入し、金属錯体近傍の空間を最適化することですることで、高い反応性及びエナンチオ選択性を発現する人工金属酵素の創出に成功している。これまでに酸化反応、水素添加反応、鈴木-宮浦カップリング、オレフィンメタセシス、C–H結合活性化などを触媒する人工酵素を報告している。

また、新規な人工金属酵素の構築のみならず、Wardらは人工金属酵素のユニークな利用法についても研究を展開している。近年、Chemoenzymatic synthesisが注目を集めているが[2]、金属錯体と酵素の同時使用では、金属錯体あるいは酵素の失活が問題となる。

Wardらは、望みの触媒能を有する金属錯体をSavに導入することで、酵素との同時使用を可能とした[3]。このコンセプトに基づき、人工酵素によって天然酵素の機能を補完した例 (酵素の活性を向上させる合成補酵素のin situ再生系の構築) や、複数の天然酵素とのカスケード反応を可能にするため、天然の補酵素によって駆動する人工金属酵素の例[4]を報告している。

さらにこれらの研究を発展させ、夾雑系である大腸菌内部での人工金属酵素の構築についても報告している[5]。本研究の目的は人工金属酵素の人工進化である。従来の人工金属酵素の構築手法では、ホストとなるタンパク質の精製の過程を伴うため、多重変異の導入による最適化(人工進化)が困難であった。しかしながら、本論文では大腸菌内部での人工金属酵素の構築を示し、それによって可能となった人工金属酵素の人工進化に成功している。

上述のように、Wardらが報告している人工金属酵素では、1. ホストタンパク質の最適化により導入される錯体触媒能の向上、2. 金属錯体触媒能と酵素機能の共存 (生体内での構築も可能)が可能である。このWardらの方法論は天然に存在しない触媒能を細胞内へと導入できるため、代謝工学へのアプリケーションが期待される。

関連文献

  1.  Wilson, M. E.; Whitesides, G. M. J. Am. Chem. Soc. 1978, 100, 306. DOI: 10.1021/ja00469a064.
  2. Denard, C. A.; Hartwig, J. F.; Huimin Zhao, H. ACS Catal., 2013, 3, 2856–2864. DOI: 10.1021/cs400633a.; Köhler, V.; Turner, N. J. Chem. Commun, 2015, 51, 450-464. DOI: 10.1039/C4CC07277D.; Verho, O.; Bäckvall, Jan-E. J. Am. Chem. Soc., 2015, 137, 3996-4009. DOI: 10.1021/jacs.5b01031.
  3. Köhler, V.; Wilson, Y. M.; Dürrenberger, M.; Ghislieri, D.; Churakova, E.; Quinto, T.; Knörr, L.; Häussinger, D.; Hollmann, F.; Turner, N. J.; Ward, T. R. Nat. Chem. 2013, 5, 93. DOI: 10.1038/nchem.1498.
  4. Okamoto, Y; Köhler, V;  Ward, T. R. J. Am. Chem. Soc., 2016, 138, 5781-5784. DOI: 10.1021/jacs.6b02470.
  5. Jeschek, R.; Reuter, T.; Heinisch, C.; Trindler, J.; Klehr,; S. Panke,; T. R. Ward,; Nature 2016, 537, 661-665. doi:10.1038/nature19114.

関連書籍


関連リンク

Gakushi

投稿者の記事一覧

東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

関連記事

  1. ロジャー・コーンバーグ Roger Kornberg
  2. ヴィンス・ロテロ Vincent M. Rotello
  3. 伊丹健一郎 Kenichiro Itami
  4. 菅裕明 Hiroaki Suga
  5. デニス・ドーハティ Dennis A. Dougherty
  6. イライアス・コーリー E. J. Corey
  7. クルト・ヴュートリッヒ Kurt Wüthrich
  8. リチャード・ゼア Richard N. Zare

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 神秘的な海の魅力的アルカロイド
  2. うっかりドーピングの化学 -禁止薬物と該当医薬品-
  3. 高峰譲吉の墓
  4. フィッシャー オキサゾール合成 Fischer Oxazole Synthesis
  5. 動画:知られざる元素の驚きの性質
  6. アラン・マクダイアミッド氏死去
  7. 世界が終わる日までビスマス
  8. ゲルマニウムビニリデン
  9. 多孔質ガス貯蔵のジレンマを打ち破った MOF –質量でもよし、体積でもよし–
  10. 【マイクロ波化学(株)環境/化学分野向けウェビナー】 #CO2削減 #リサイクル #液体 #固体 #薄膜 #乾燥 第3のエネルギーがプロセスと製品を変える  マイクロ波適用例とスケールアップ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年3月
« 2月   4月 »
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

注目情報

最新記事

元素手帳2022

毎年これが届くと、ああもう今年も終わりかあと思うようになりました。そう、読者…

ダイセル発、にんにく由来の機能性表示食品「S-アリルシステイン」

株式会社ダイセルは、カラダの疲れを感じている方のための機能性表示食品「S-アリルシステイン」を消費者…

Delta 6.0.0 for Win & Macがリリース!

NMR解析ソフトDeltaの最新版6.0.0がリリースされました!&nb…

こんなのアリ!?ギ酸でヒドロカルボキシル化

可視光レドックス触媒によるギ酸を炭素源としたヒドロカルボキシル化が開発された。チオール触媒を介したラ…

ポンコツ博士研究員の海外奮闘録 ケムステ異色連載記

本稿は,世間一般にほとんど知られていない地方私立大学で学位を修了し,エリートでもなく何も成し遂げてい…

新型コロナの飲み薬モルヌピラビルの合成・生体触媒を用いた短工程化

新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) 感染症に対する飲み薬として、Merck…

秋吉一成 Akiyoshi Kazunari

秋吉 一成(あきよしかずなり)は日本の有機化学者である。京都大学大学院 工学研究科 高分子化学専攻 …

NIMS WEEK2021-材料研究の最新成果発表週間- 事前登録スタート

時代を先取りした新材料を発信し続けるNIMS。その最新成果を一挙ご紹介する、年に一度の大イベント「N…

元素記号に例えるなら何タイプ? 高校生向け「起業家タイプ診断」

今回は化学の本質とは少し離れますが、元素をモチーフにしたあるコンテンツをご紹介します。実験の合間…

多価不飽和脂肪酸による光合成の不活性化メカニズムの解明:脂肪酸を活用した光合成活性の制御技術開発の可能性

第346回のスポットライトリサーチは、東京大学 大学院総合文化研究科(和田・神保研究…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP