[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

Al=Al二重結合化合物

[スポンサーリンク]

アルミニウムは、地球の地殻中で、酸素、ケイ素に次いで3番目に豊富な元素であり、現在、その多く誘導体が、有機および有機金属合成において幅広く利用されている。これら誘導体中のアルミニウムの酸化数は、基本的に+IIIである。

低原子価アルミニウム化合物

一方、低原子価・低配位アルミニウム化合物は希少である。この分野における注目すべき発見の一つとして、1991年、Schnöckelらによって、固体状態で四配位のAl中心を持つ[(Cp*Al)4] Aの単離が報告されており、溶液中では[Cp*Al]として存在している可能性が示唆されていた。[1] この単量体[Cp*Al]中のAlの酸化数は+Iである。その後2000年には、Roeskyらによって、Nacnac配位子配位子を持つ単離可能なAl(+I)化合物 Bが報告されている。[2]

これらの報告からすでに15年以上経過しているが、低原子価アルミニウム化合物の化学は未だ初期段階にとどまっている。例えば、Al=Al 二重結合を含む化合物 ジアルメンは、反応系中での発生例が報告されているものの(以前のケムステ記事)、安定に単離された例は無く、典型元素化学における挑戦的合成ターゲットの一つであった。

今回、ミュンヘン工科大学の井上らによって、単離可能なジアルメンの合成に初めて成功したという論文がJACS誌に発表されたので報告する。

安定なジアルメン

Prasenjit Bag, Amelie Porzelt, Philipp J. Altmann, Shigeyoshi Inoue
J. Am. Chem. Soc. 2017. 139, 14384-14387. DOI: 10.1021/jacs.7b08890

アルミニウム原子は周期表13族に属し価電子を三つしか持たない為、二重結合を普通に形成するとR-Al=Al-Rという電子状態になってしまう。この時、各Al周りには6電子しか存在しないため、オクテット則を満たさず電子欠損状態となる。そこで井上らは、N-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)を配位子として利用することで、R-Al=Al-Rの安定化を図った。原料 2は、NHCのAlH3錯体 1にハロボラン作用させてハロゲン化した後に、シリル基をAl原子上に置換することで合成している。次に、2をKC8を用いて還元することで、ジアレン 3を合成・単離することに成功した。
(置換基によるが)基本的に無色のC=C化合物や黄色~赤橙色のB=B化合物とは異なり、ジアレン 3は濃紫色であり、UV-Visスペクトルでは長波長側 (573 nm)に吸収帯を持つことがわかった。

X線構造解析の結果、二つのNHCはAl=Alのトランス位に配位しており、Al周りは三配位平面構造であることを明らかにしている。Al=Al結合長は2.3943(16)Åであり、その結合次数は1.70!と二重結合性を決定的に裏付ける理論計算結果を得ている。

(*図は原著論文より)

また、HOMO及びLUMO+1がそれぞれAl-Alのπ及びπ*結合であることを確認している。

同論文中には、ジアルメン 3がエチレンやフェニルアセチレンと反応して、[2+2]環化付加反応生成物 4&5 が得られることも報告されている。

最後に

1980年代にDouble bond ruleが崩壊し[3] 様々な高周期多重結合種が単離されてきた。2007年、同13族類縁体であるB=B二重結合化学種ジボレン種の単離が報告[4] されてからゆうに10年が経過し、今回のAl=Al化学種の単離によって、ようやくp-ブロック典型元素化合物の二重結合化学種が出揃ったところである。

ちなみに、低原子価13族化学 “バルガイン(BAlGaIn)クエスト” では、ホウ素やガリウム、インジウムで達成できた化学の最後のラスボス的位置にアルミニウムが君臨している。奴は頻繁にパルプンテを使い、不均化や集合体の形成、金属としての析出を繰り出す強敵なのだ。そのため、様々な酸化状態のAl元素を自由自在に化合物に導入し、その特性を活かした機能性分子やマテリアルを精密に合成できる段階にはほど遠いのがAl化学の現状である。ただ筆者は、元素としては身近なアルミニウムがゆえ、その未知なる領域にアルミニウム化学の可能性と魅力を感じている。

B≡B三重結合化学種は、2012年に初めて単離された。[5] Al≡Al三重結合化学種も、そのうち合成・単離されるのだろうか。さらなるAl-Al探検隊の登場を期待したい。

参考文献

  1. Dohmeier, C.; Robl, C.; Tacke, M.; Schnöckel, H. Angew. Chem. Int. Ed. 1991, 30, 564-565. DOI: 10.1002/anie.199105641.
  2. Cui, C.; Roesky, H. W.; Schmidt, H.-G.; Noltemeyer, M.; Hao, H.; Cimpoesu, F. Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39, 4274-4276. DOI: 10.1002/1521-3773(20001201)39:23<4274::AID-ANIE4274>3.0.CO;2-K.
  3. Fischer, R. C.; Power, P. P. Chem. Rev. 2010, 110, 3877–3923. DOI: 10.1021/cr100133q.
  4. Wang, Y.; Quillian, B.; Wei, P.; Wannere, C. S.; Xie, Y.; King, R. B.; Schaefer, III, H. F.; Schleyer, P. v. R.; Robinson, G. H. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 12412-12413. DOI: 10.1021/ja075932i.
  5. Braunschweig, H.; Dewhurst, R. D.; Hammond, K.; Mies, J.; Radacki, K.; Vargas, A. Science 2012, 336, 1420, DOI: DOI: 10.1126/science.1221138.

関連書籍

[amazonjs asin=”0412267802″ locale=”JP” title=”Organometallic Compounds of Aluminum, Gallium, Indium and Thallium (Chapman and Hall Chemistry Sourcebooks)”] [amazonjs asin=”1276166850″ locale=”JP” title=”Aluminium: Everything You Need to Know about the Chemical Element Including Characteristics, General Use, Aluminum Compounds, and”] [amazonjs asin=”0852965583″ locale=”JP” title=”Properties of Aluminum Gallium Arsenide (E M I S Datareviews Series)”]

関連リンク

関連記事

  1. 三中心四電子結合とは?
  2. 笑う化学には福来たる
  3. アレーン三兄弟をキラルな軸でつなぐ
  4. Biotage Selekt のバリュープライス版 Enkel …
  5. 糖鎖を化学的に挿入して糖タンパク質を自在に精密合成
  6. 反芳香族性を示すπ拡張アザコロネン類の合成に成功
  7. 2020年ケムステ人気記事ランキング
  8. (–)-Vinigrol短工程不斉合成

注目情報

ピックアップ記事

  1. エナンチオ選択的付加反応による光学活性ピペリジン誘導体の合成
  2. 第9回 野依フォーラム若手育成塾
  3. 転職でチャンスを掴める人、掴めない人の違い
  4. 化学Webギャラリー@Flickr 【Part1】
  5. 樹脂コンパウンド材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?
  6. 嵩高い非天然α,α-二置換アミノ酸をさらに嵩高くしてみた
  7. 遷移金属触媒がいらないC–Nクロスカップリング反応
  8. エチルマグネシウムクロリド(活性化剤:塩化亜鉛):Ethylmagnesium Chloride activated with Zinc Chloride
  9. 周期表の形はこれでいいのか? –その 1: H と He の位置 編–
  10. 理研、119番以降の「新元素」実験開始へ 露と再び対決 ニホニウムに続く「連勝」狙う

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年10月
月 火 水 木 金 土 日
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

2026年ノーベル化学賞ケムステ予想当選者発表!

2026年のノーベル化学賞は、「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発…

第64回ケムステVシンポ「データとともに進化する未来の化学」を開催します!

第64回ケムステVシンポの会告を致します。産業技術総合研究所主催の化学シンポジウムシリーズ(…

品質工学とマテリアルズ・インフォマティクス ― 両技術の概要と連携事例

開催概要材料開発やものづくりの現場では、探索すべき組成やプロセス条件が増えるほど組み合わせが爆発…

大学院留学してよかったこと, 悪かったこと【英語, 経済面, オーバードクターに関するお話】

海外の大学で、その大学に籍を置く大学 (院) 生として留学することは「学位留学」と呼ばれたりします。…

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP