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化学者のつぶやき

ヒドロアシル化界のドンによる巧妙なジアステレオ選択性制御

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反応条件を調整することにより異なるジアステレオマーが作り分け可能なエナンチオ選択的なカルボニルのヒドロアシル化反応が開発された。antisyn二種類の二環式キラルγ-ラクトンが合成できる。

分子内ヒドロアシル化反応

遷移金属触媒を用いたヒドロアシル化反応は、アルデヒドとアルケンもしくはアルキンから、ケトンを高い原子効率で合成できる優れた手法である。一方で、報告例は多くはないが、アルケンやアルキンの代わりにケトンなどを用いたカルボニルのヒドロアシル化反応も知られており、この手法ではエステル(ラクトン)が生成する(図1)。初の触媒的カルボニルのヒドロアシル化反応として、1978年、山本らはRu触媒を用いてアルデヒドの二量化によるエステル合成法を報告した(図1A)[1]。1990年にはBosnichらによってRh触媒を用いたケトアルデヒド化合物の分子内ヒドロアシル化反応が報告された(図1B)[2]Dongらは2008年にキラルRh触媒によるケトンの不斉ヒドロアシル化反応を開発した(図1C, D)[3]。このようにカルボニルの不斉ヒドロアシル化は最近になって達成されているが、未だその報告例は少ない。今回、カリフォルニア大学アーバイン校のDongらはキラルなロジウム触媒を用いてジケトアルデヒドの分子内不斉非対称化ヒドロアシル化反応を報告した。この反応では、興味深いことに、溶媒、温度などの反応条件を変えることで光学活性なsyn体、anti体のγ-ラクトンを作り分けることができる(図1E)。

Diastereodivergent Construction of Bicyclic γ-Lactones via Enantioselective Ketone Hydroacylation

Wu, X.; Chen, Z.; Bai, Y.-B.; Dong, V. M. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 12013. DOI: 10.1021/jacs.6b06227

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図1. 遷移金属触媒を用いたカルボニルのヒドロアシル化反応

論文著者の紹介

2016-10-15_15-13-43

研究者:Vy M. Dong

研究者の経歴:

–1998 B.S., University of California, Irvine (Prof. L. E. Overman
–2000 M.S., University of California, Berkeley (Prof. D. W. C. MacMillan)
–2004 Ph.D., California Institute of Technology (Prof. D. W. C. MacMillan)
2004–2006 Postdoctoral fellow, University of California, Berkeley (Prof. R. G. Bergman, Kenneth N. Raymond)
2006–2010 Assistant Prof. at University of Toronto
2010–2013 Associate Prof. at University of Toronto
2012– Full Prof. at University of California, Irvine

研究内容:遷移金属触媒を用いた反応開発 (研究に関するケムステ記事:アルデヒドを移し替える新しいオレフィン合成法C-H結合活性化を経るラクトンの不斉合成

 

論文の概要

Dongらは溶媒、温度、Rh触媒のカウンターアニオンを変化させることで4,4’-ジケトアルデヒド1の分子内ヒドロアシル化により得られるγ-ラクトン2,3のジアステレオ選択性(anti:syn)を制御した(図2A)。すなわち、非プロトン性溶媒中、配位能の高いカウンターアニオンをもつ触媒を用いて低温下で反応させるとanti体が選択的に得られる。一方、プロトン性溶媒中、配位能の低いカウンターアニオンをもつ触媒を用いて高温下で反応させるとsyn体を選択的に得られる。ジアステレオ選択性発現機構に関しては詳細にわかってはいないが、重水素ラベルされた化合物を用いた実験や、量子化学計算を用いた考察がされている。その結果、①生成物はsyn3のほうが熱力学に安定性であること、②還元的脱離が律速段階かつ生成物のジアステレオ選択性決定段階であることが示唆されている。詳細は論文を参照されたい。

一般的に、多環式化合物を生成する環化反応では、図2Bの中間体4の赤矢印のような同一面からの付加が優先する[4]。本手法では、エナンチオ選択性を損なうことなく青矢印のような反対面からの付加反応を可能にし、antisyn体の作り分けをしたことが特筆すべき点ではないだろうか。

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図2. Rh触媒によるエナンチオ、ジアステレオ選択的γラクトン合成

参考文献

  1. Horino, H.; Ito, T.; Yamamoto, A. Lett. 1978, 17. DOI: 10.1246/cl.1978.7
  2. Bergens, S. H.; Fairlie, D. P.; Bosnich, B. Organometallics 1990, 9, 566. DOI: 1021/om00117a006
  3. (a) Shen, Z.; Khan, H. A.; Dong, V. M. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 2916. DOI: 10.1021/ja7109025 (b) Kou, K. G. M.; Le, D. N.; Dong, V. M.; J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 9471. DOI: 10.1021/ja504296x Co-catalyzed enantioselective intramolecular hydroacylation of carbonyl is also known, see: (c) Yang, J.; Yoshikai, N.; J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 16748. DOI: 10.1021/ja509919x
  4. Heinrich, C. F.; Peter, C.; Miesch, L.; Geoffroy, P.; Miesch, M. Synthesis 2016, 48, 1607, DOI: 10.1055/s-0035-1561858
山口 研究室

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